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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

最終章

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人類の足掻き 後編

 要塞、正面。


 そこでは、重力発生装置〝グラヴ・ファレンセン〟により地に墜とされた使徒達と帝国兵達が死闘と称するに相応しい激烈な戦闘を繰り広げていた。


「ぉおおおおおおっ」


 帝国兵の一人が、雄叫びを上げながら使徒に飛びかかる。


 使徒の大剣が銀の光芒を弾きながら流麗に振るわれ、一刀の元に、その帝国兵の首を刎ね飛ばした。そして返す刀で逆サイドの帝国兵の首を刎ねる。鎧は数撃程度なら分解の攻撃も防いでしまうので的確に鎧のない部分を狙っているのだ。


「ちくしょうっ、強すぎだろっ! こちとら、二度も限界超えてんだぞっ」

「化け物がっ! いい加減死にやがれっ」


 使徒のスペックを六割落とし、更には動きを阻害して、なおかつ自分達は神代級のアーティファクトに身を固め、人の限界を二度も超えているというのに、未だ使徒を相手にすれば倒れる味方の方が圧倒的に多い。その事実に、帝国兵達から悪態が飛び交う。


「ふんぬらばぁあああああああああっ」


 兵士達が使徒の猛攻に思わず腰が引けたそのとき、なぜか彼等の背筋をゾクリとさせ、股間をキュッとさせる怒声が響いた。と、思った次の瞬間には、巌のような拳が猛威を振るっていた使徒の後頭部に突き刺さり、そのまま地面へと押したお――押し潰した。


 頭部を粉砕された使徒の上の覆いかぶさるようにして出現したのは、全身を支給品の装備一式で固めた、見た目は兵士と変わらない巨漢の男。しかし、兵士達は使徒を倒したことを称賛するでもなく、なぜか自然と後退った。


「あらぁ~ん? どうしてみんな、わたしから距離を取るのかしらぁ~ん?」

「ひっ、ごめんなさい!」


 兜の隙間から覗く、肉厚の唇と獣のような瞳。鎧越しでも分かる人外レベルの筋肉。兜の天辺からは三つ編みにした髪がちょろんと生えていて、その先っぽには可愛らしいピンクのリボンが付けられている。そんなちょっと異様な男が、くねくねとしなを作りながら、オネエ言葉でパチリとウインクなんぞをしてくるのだ。兵士達が更に距離を取りながら、思わず「ごめんなさい」と口にしても仕方ないことだろう。


 なにせ、今、まさに飛びかかろうとしていた使徒の一人が、ビクリと震えて足を止めたほどなのだから……


「ぬぅりやぁあああああああああああああっ」

「どぉっせぇええええええええええええいっ」


 更に響いてくる野太い雄叫び。見れば、目の前の巨漢――ブルックの町の服屋に巣くう化け物クリスタベル店長と同じく、鎧なんていらないんじゃねぇの? と言いたくなるような筋肉に包まれ、更に同じ支給品の装備に身を固めつつもどこかに可愛らしいワンポイントアクセサリーをつけた巨漢の軍団が大暴れをしていた。


 一人の使徒が正面から抱きつかれ、分解能力を発動する暇もなくサバ折りにされ絶命すれば、別の使徒が芸術的なパイルドライバーを決められて頭部を粉砕されている。


 恐ろしいのは、抱きつかれた使徒が、意表をつくためなのか、単なる趣味かは分からないがぶちゅ~と熱いベーゼを受けていて、パイルドライバーを受けた使徒は、変則技なのか向かい合う形で逆さに抱えられていたので、その顔面がまさに股間に埋もれていたことだろう。


「味気ないわねぇ~」

「人形遊びじゃあ、ぜんぜん滾らないわぁ~」


 使徒二人を倒した巨漢二人は、やはりクネクネとしなを作りながらオネエ言葉でそんな感想を漏らした。機能を停止して倒れた使徒二人の表情が、微妙に涙目に見えるのは……きっと気のせいだろう。


 遊撃隊として組み込まれた異形の集団――もとい、漢女の軍団。彼女(?)達が次の獲物を探してグリンッと首を回し、それぞれ標的を定めれば、他の兵士達と相対していた使徒達が一斉にビクンッと震えた。そして、キョロキョロと微妙に視線を泳がせて警戒心をあらわにし、何人かはその隙を突かれて倒れる。


 ただ(ねっとりとした)視線だけで使徒の動きを阻害し、一瞬の硬直すら強いる。そんな漢女達の異様な活躍は、確実に使徒の数を減らし、味方を援護していた。援護……しているはずである。



 戦場において、別種の化け物が大暴れしている最中、少し離れた場所でも激戦が繰り広げられていた。


 帝国兵の一人が、支給されたライフルを構えて中距離からフルオートで射撃し、使徒を釘付けにする。使い手のスペックに左右されない過剰威力のハイブリッド兵器だ。流石の使徒も、その閃光の大群を大剣で防げば足を止めざるを得ない。


 しかし、そこで終わらないのが使徒だ。お返しと言わんばかりに飛び出しのたはレールガンにも引けを取らない凶悪な弾丸――銀の羽による反撃。


 取り囲んでいた帝国兵達が薙ぎ払われる。辛うじて防具と剣で凌いでいる者もいるが、下級の兵士達は的確に露出部分を穿たれてその命を散らしていく。


 ガチンッと音を立ててライフルの弾が切れた。射撃で使徒の足止めをしていた帝国兵が、慌ててマガジンを装填しようとする。


 その隙を逃さず、使徒が銀の砲撃を放とうとした。帝国兵の顔に絶望が過る。


 そのとき、


「ゼェアアアアアアッ!!」


 一般兵士とは明らかに一線を画す、裂帛の気合が迸った。


 銀の閃光を放とうとしていた使徒に、大上段から大剣が振り下ろされる。


 それを、使徒は煩わしそうに自身の大剣で受け止めようとして……


「――ッ」


 振り下ろされた大剣が鞭のようにしなった腕により途中で軌道を変え、横薙ぎの斬撃に変化したことに瞠目する。そして、防ごとうしてまとわり付く紅い光に動きを阻害され、目を見開いたままその首を刎ねられて血飛沫を撒き散らした。


 使徒を一人仕留めた男、途轍もない覇気を発する帝国の皇帝――ガハルド・D・ヘルシャーは、使徒の血を浴びながら、その使徒の猛威に腰が引けてしまった兵士達へ向けて爆撃のような大音声を上げた。


「てめぇらっ、ビビってんじゃねぇぞっ。雄叫びを上げろ! 塵芥になるまで戦え! この戦場は、神話だ! てめぇら全員が新たな神話の紡ぎ手だ! 後世の連中に嗤われてぇのかっ!」


 この人類の存亡を賭けた戦い――確かに、後の世から見れば神話そのものだ。自分達は、後世で語り継がれる大舞台の当事者なのだ。


 野心豊かな帝国兵や傭兵達が、その言葉で奮い立つ。瞳に獰猛さが宿り、己の存在を歴史に刻み込まんと燃え上がる!


 ガハルドの激が戦場を席巻する。


「幻視しろ。てめぇらの背に誰の姿が見える!? てめぇらが倒れた後は、そいつが死ぬんだっ! 許容できねぇか? できねぇだろう!? なら殺意を滾らせろ! 使徒だろうが何だろうが、敵の尽くを滅ぼし尽くせぇ!」


 王国兵や冒険者達が、一瞬、自分の肩越しに背後を見やり、今、この瞬間も猛威を振るう銀色の化け物にギラギラと殺意を滾らせた。この場に立っているのは何の為か。決まっている。友人を、恋人を、家族を、守る為だ! 敗北は、許されない戦場なのだ!


 そのとき、ガハルドの存在を見咎めた使徒達が、一斉にガハルドへ銀の閃光を放った。


「盾っ、囲め!」


 ガハルドがすかさず反応する。それだけで、いつの間にかガハルドの周囲に集まっていた近衛兵達が、大盾を合わせてガハルドの防壁となった。銀の閃光が、これまたハジメ特製の大盾によって一時的に防がれる。


「撃てっ!」


 再度、迸るガハルドの号令。


 大盾の後ろに控えていた別の近衛が、その隙間から膝立ちでアンチマテリアルライフルをぶっ放つ。


 銀の閃光を放ったばかりだった使徒は、カウンターのように飛来した閃光に穿たれて崩れ落ちた。


 そして、銀の閃光が途切れた瞬間、ガハルドはまた別の使徒に飛びかかり、その自然体から鞭のようにしなりながら振るわれる変幻自在の剣撃をもって使徒と互角の戦いを繰り広げた。


「陛下に続けっ」

「囲い込んで殺せっ。勝てない相手じゃないぞ!」

「これ以上、人形共に好きにさせるなっ」


 それに触発され、気勢を上げた連合軍兵士達が同じように連携しながら使徒と斬り結ぶ。もはや、何人殺られようとも兵士達が萎縮することはなく、その負けられないという気概と決意が、徐々に使徒達のスペックを凌駕していった。





 要塞の一角。


 そこで、開戦してからずっと瞑目していた男がスっと眼を開いた。そして、厳かでありながら燃えるような熱を孕んだ力強い声音で、司令官であるリリアーナに呼びかけた。


「リリアーナ姫」


 それだけで、なにを言いたいのか察したリリアーナは、確かに機だと判断し指令を下す。


「はい。アドゥル殿。地上戦へと移行しつつある今、重力結界の上から狙い撃ちにされるのは非常に不味いです。……制空権の奪取を。天空を統べる竜人族の力、全ての者達に見せつけて下さいませ」

「ふふっ、承知した」


 アドゥルが、威厳と力強さに満ちた足取りで竜人族が整列する中庭に続くテラスへと出る。眼下の同胞達、およそ三百人は、闘志を漲らせて真っ直ぐに族長であるアドゥルを見上げた。


「五百年前の迫害。忘れようはずもない。あの時を生き残り、雪辱を誓った者達も、後に生まれ隠れて生きる理不尽に嘆いていた者達も……遠慮容赦一切無用っ! 猛るままに咆哮を上げよ! 空は我等の領域! それを奴等に思い知らせてやれ! 全竜人族……出るぞっ!」

「「「「「オォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」」


 一斉に上がる雄叫び。


 それは五百年の屈辱と怒りに耐えてきた誇り高き一族が蜂起する合図。全ての竜人族が、風を巻き上げながら一斉に空へと飛び出す。


 重力結界の領域はリリアーナによりタイミングよく解かれている。そこを突き抜け、上空へと上がった彼等は、次の瞬間、一斉に光に包まれた。


 そして、姿を現すのは天空の覇者たる竜の群れ。威風堂々と翼をはためかせ、縦に割れた竜の瞳で神の人形を睨みつける。その身一つで途轍もないプレッシャーを放つ竜達。それが、今は、ハジメのアーティファクトによって完全武装までしており、その威容を更に跳ね上げている。


 その中で、一際巨体を誇る勇壮な緋竜が莫大なプレッシャーと共に咆哮を上げた。地上から七百メートルは離れているにもかかわらず、ビリビリと震える大気の振動が連合軍兵士達にも伝わる。


 その直後、先の咆哮が戦闘開始の合図だったかのように、三百体の竜が一斉にブレスを放った。それぞれ得意属性ごとの色とりどりの閃光が、我が物顔で空を舞う使徒達へ殺到する。


 使徒達が銀翼で身を包み防御態勢に入った。


 しかし、竜人族のブレスは、それらの防御を食い破り使徒達を滅ぼしていく。


『ほぅ、流石はティオが認めた伴侶なだけはある。我等の力をここまで引き上げるか』


 自分のブレスが普段の十数倍の力を発揮したことにアドゥルが愉快そうな声を上げた。ティオの武装黒竜と同じ装備をつけているアドゥル達は、鎧に仕込まれた昇華魔法により、そのスペックを底上げされているのだ。当然、チートメイトと限界突破アーティファクト〝ラスト・ゼーレ〟の影響もある。


『くっ、俺は認めませんっ! あんな小僧の――』


 藍色の竜――リスタスが、どこか悔しげな声を出した。だが、途中で急迫してきた使徒が振り抜いた大剣を、身につけた鎧が見事に塞き止めた挙句、逆に衝撃波を放って吹き飛ばした光景を見て口を噤んだ。


 なにもしていないのに相手が吹き飛んだのだ。ハジメに守られたみたいですごく複雑な気分である。


『ならば、奪えばよかろう。彼も受けて立つと言っているのだから』

『うぐっ』


 出来るわけがない。挑んだ直後、瞬殺されるのが目に見えている。それが分かっているからか、アドゥルの声音は、どこかからかうような響きがあった。


 分が悪くなったリスタスは、竜翼をはためかせて一気に加速し使徒に襲いかかった。使徒を倒すことに集中しています! ということにしたようだ。


 他の竜人達も、まだ若いリスタスに苦笑いしながら十全に力を振るい始めた。


 流石は天空の覇者というべきか。跳ね上がったスペックと縦横無尽な空中戦闘、そして神代級アーティファクトの恩恵によって、使徒達と互角以上に渡り合っている。制空権を賭けた争いは、竜の咆哮と銀の閃光入り混じる、さながらSFにおける宇宙戦争の様相を呈しながら、神話に相応しい死闘へと突入していった。





 赤黒い空に力強い竜の咆哮が響き渡り、地上の連合軍も、その勇壮さに雄叫びを上げながら士気を上げている。


 その一角――聖歌隊に近い位置で、周囲の兵士や神殿騎士とは明らかに一線を画す活躍をしている集団があった。


「うぉおおおおっ!!」


 雄叫びと共に地面を爆ぜさせて突進し、使徒に体当たりを決めた男――永山重吾は、そのまま組み伏せた使徒が何かをする前に、その巌のような拳を使徒の顔面に突き落とした。


 ハジメ特製の籠手型アーティファクトが衝撃を内部に伝播させて中身を破壊する。攪拌された血肉が使徒の端正な顔面から飛び出し、重吾の頬を返り血で汚したが、寡黙な外見そのままに平然とした様子で体勢を立て直した。


 その重吾に、使徒が背後から大剣を唐竹に振るう。


 しかし、重吾はバックステップでスっと相手の懐に潜り込むと、そのまま見事な背負投を決めて使徒を地面に叩きつけた。余りの威力に、地面が放射状に砕けて小さなクレーターができる。重吾は、衝撃に一瞬身動きを阻害された使徒の、その首を踏み抜いて止めを刺した。


 瞬く間に二人の使徒を仕留めた重吾。使徒の弱体化と自身の超強化があるとはいえ、常に鍛錬を怠っていなかったと分かる見事な戦い振りだった。


 そこへ、更に使徒が二体、重吾を挟撃しようと迫る。


 が、その瞬間、


「――地の底より吹きし風、命あるものを白きに染めよ――〝白威吹〟!!」


 白煙が、風に乗って蛇のように宙を駆け、重吾の周囲で防壁となるように渦巻いた。重吾に迫っていた二人の使徒は僅かに白煙に巻かれたものの、銀翼を使って吹き飛ばしながら一度退避する。


「っ、石化など」


 白煙に触れた先からビキビキッと石化していく光景に、使徒は小癪だと言いたげな表情をしながら分解の魔力で解呪を試みる。


「させるかよ」


 石化の白煙を吹かせた術者――野村健太郎が指揮棒型アーティファクトを振るった。途端、重吾を守るように逆巻いていた白煙が二手に別れて退避した使徒二人を襲う。


 使徒達は、魔耐が下がった状態で受けるのは危険と判断したようで更に退避しようとしたが、いつの間にか地面が盛り上がって足を拘束しており目論見は叶わなかった。ガクンッとつんのめる使徒。それは致命の隙。


 次の瞬間、健太郎の操る白煙が二人の使徒を余さず呑み込んだ。


 後に残るのは完全に石像化した美術品めいた彫像のみ。


 他でも、檜山の裏切りや近藤の死から立ち直った中野信治と斎藤良樹が、鬼気迫る様子で八面六臂の活躍を繰り広げ、その穴を守る形で愛ちゃん護衛隊の玉井淳史、相川昇、仁村明人が一歩も引かずに使徒と激闘を繰り広げていた。


 それらを園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、辻綾子、吉野真央等が完璧にサポートする。


 愛ちゃん護衛隊のメンバーが、最初から前線にいた重吾のパーティーや信治達と同じくらい動けているのは、ハジメ達が王都を出発してから、このままではダメだと心を奮い立たせ猛特訓を行ったからだ。


 それ以外にも、完全に心折れていた生徒達が、直接戦闘までは出来ないものの能力を底上げする付与系の魔法を後方から放ったり、回復させたり、ライフルや魔法を撃って弾幕を張るなど必死に援護していた。


 誰もが、魔王城でのハジメの演説に、折れた心を焼き直されたのだ。それがただの言葉だけであったなら、ハリボテの言葉として使徒を目の当たりにした瞬間あっさり折れただろう。しかし、彼等は皆、ハジメを見ていた。


 片腕も片目も失い、髪の色まで変わって、ボロボロになって、最愛の恋人まで奪われた。消えていく恋人に上げた慟哭は、彼等をして心に痛みを感じさせるものだった。それでも、最後には立ち上がり、全てを叩き潰して取り戻すと宣言した。その姿が余りに強烈で、ずっと燻っていた彼等の魂に火をくべたのだ。


 世界の為などではない。ただ、家に帰りたいという願い。友人を死なせたくないという想い。たったそれだけのことを叶えるのに、死力を尽くして戦わねばならないのだと、ようやく確信し奮い立ったのだ。


 前線組に、たとえ燻っていたとしても異世界チート持ちの集団。


 流石に、使徒であってもスペックが下がった状態では、強化された彼等の相手は分が悪かった。次々と駆逐されていく使徒を見て周囲の連合軍兵士達が喝采を上げる。


 と、そのとき、前線を突破した使徒の一人が、クラスメイトの女子の一人に急迫した。


「ひっ!?」


 思わず悲鳴を上げる女子生徒。


 だが、次の瞬間、死の恐怖は驚愕に変わった。


 使徒の首がポンッと飛び、力を失った体が彼女の横を虚しく滑っていったからだ。


 更に、前線組を取り囲もうとしていた使徒が、外側から順に首を刈られて一瞬の内に絶命していく。にもかかわらず、そちらに視線を向けたときには首のない使徒の死体以外、何も、誰もいないのだ。


 使徒の一人が、明らかな異常事態に周囲へ険しい視線を巡らせる。


「くっ、一体どこから攻撃をっ」

「目の前だよ! くそったれ!」


 自分の呟きに正面から返答されギョッとしたように視線を正面に戻す使徒。その目に、自分の首へと吸い込まれていく小太刀の影が映った。そしてそれが、その使徒の最後の光景となった。


 使徒にすら気づかれない隠密ぶり(影の薄さ)を十全に発揮して、人混みから人混みを渡り、一瞬で首を刈り取っていく。


 人型で女の姿である使徒を斬るのは、途轍もない精神的負担だ。救いなのは、使徒が皆同じ姿であり、感情を感じさせない無機質さが人ではなく人形と感じさせてくれることだろう。


 最凶の敵にすら「え? そこにいたの!?」みたいな顔をされる切なさと相まって、半ば自棄になりながらではあるが、天職〝暗殺者〟の少年――遠藤浩介は、クラスメイト一のキルポイントを稼いでいた。


「流石だ、浩介っ! どこにいるのか分からんが!」

「すげぇぞ、浩介! どこにいるのか分かんねぇけど!」

「遠藤くん頑張れぇ! 頑張ってる姿は見えないけど!」

「えっ、あっ、そっか、遠藤くんも戦ってるんだった! 助けてくれてありがとね!」


 ホロリと、浩介の眼から光るものが落ちた。どうやら、雨が降り出しているらしい。雨と言ったら雨だ。


 そこへ、「うふふ」と少し妖艶さの含まれる声が響いた。


 人混みに紛れて使徒の隙を窺っていた浩介は、ゾクリと背筋を震わせてそちらを見る。するとそこには一人の兎人族の女性がおり、浩介を横目に見ていた。


「君、気配操作がとっても上手ね。私じゃ敵わないかも」

「へ、あ、そうです、か?」


 戸惑う遠藤に、ウサミミの女性はにっこりと微笑みを向ける。その笑顔に、思わず浩介の頬が赤くなった。元々、愛玩奴隷としては一番人気があっただけに兎人族は総じて整った容姿をしている。浩介に話しかけた女性も、物凄く美人だった。


 そんな美人の、しかも可愛らしいウサミミの付いた女性に微笑まれて、彼女いない歴イコール年齢の童貞少年は心拍が上がるのを止められない。元々、戦場ということで興奮していたというのもあるが。


 だが、そのトキメキにも似た胸の高鳴りは、直後、引き攣り顔に取って代わった。


「私の名前は疾影のラナインフェリナ・ハウリア。疾風のように駆け、影のように忍び寄り、致命の一撃をプレゼントする、ハウリア族一の忍び手!」

「……そ、そうですか」

「でも、君を見ていたら、この二つ名を名乗るが恥ずかしくなっちゃたわ。だから、悔しいけど〝疾影〟の二つ名は君に譲る。君の名前は?」

「……遠藤浩介、ですけど」


 二つ名を名乗っていること自体が恥ずかしい、とは言えない浩介。綺麗なお姉さんは好きですか? 浩介の答えは一択だ。


「じゃあ、君は今日から〝疾影〟……ううん、私を超えているのだから……〝疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート〟と名乗るといいわ! 悔しいけどね!」

「いえ、結構――」

「それじゃ、お互い死なないように、でも全力で首刈りしましょ♪ じゃあね! 疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート!」

「……」


 可愛らしい笑顔で「首刈りしましょ♪」はねぇだろとか、アビスゲートってどこから出てきたとか、それはもう盛大にツッコミたかった浩介だったが、一番衝撃的なのは技能まで使って気配を殺していた浩介をラナが見つけたこと。見つけてくれたこと。


 そして、


――綺麗なお姉さん、ウサミミ付きは好きですか? 


「疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート、参る!」


 戦場で芽生える恋というのもあるらしい。


 コウスケの爪牙は、何らかの別の強化を受けているのかと疑うほど更に冴え渡り始め、使徒達の尽くを刈り取っていくのだった。


 一方、そんなクラスメイト達の近くで、もう一人、目立った活躍をしているのは愛子だった。


 後方からハジメお手製の「なれるっ、扇動家! ケースバイケースで覚える素敵セリフ集」をチラ見しながら、連合軍の士気が落ちないよう、時折どこかで聞いたことのあるような言葉を使って鼓舞しつつ、自分自身の戦いのために声を張り上げる。


「畑山愛子の名において命じます! 仮初の命よ、今一度立ち上がり、敵を討ち滅ぼしなさい!」


 そう言った直後、倒したはずの使徒の幾人かがゆらりと立ち上がった。そして、制限されていたスペックを取り戻したような勢いで味方であったはずの使徒達に襲いかかった。


 これは、愛子の魂魄魔法の効果だ。自分の魂魄から擬似的な魂魄を複製し、それを使徒の肉体に憑依させ操る。仮初の魂魄を作る〝魂魄複製〟と闇系魔法の〝降霊術〟を組み合わせた魔法だ。


 天職〝作農師〟という、ハジメを除けば唯一非戦闘系天職である愛子は、自分の非力さを自覚し、ハジメ達が旅立ってから生徒達を守る為に戦う手段というものを強く意識するようになった。


 そこで唯一のアドバンテージである魂魄魔法をどうにか使えないかと考えた結果、辿り着いたのがこの魔法というわけだ。ヒントになったのが、裏切った恵里の降霊術や縛魂というのは何とも皮肉であり、死体を利用するという点では凄まじい葛藤はあったものの愛子は踏み切った。


 もう生徒達ばかりに汚れさせて自分だけ綺麗な場所に居続けることは、あの【神山】の上空で止めたのだ。


 それに、


「彼が戻って来るまで、絶対に負けませんっ!」


 そう、ダメだと分かっていながら心を寄せてしまった男の為に、絶対、負けられないのだ。もう一度、会いたいから。


「あははっ、愛ちゃんってば、もう隠す気ゼロだね」

「〝彼〟って言ったら、一人しかいないしね」


 愛子にチラリと視線を向けながら、園部優花と宮崎奈々が小さく笑い合う。


「南雲くん、マジ魔王だわ。教師まで落とすとか有り得ない」

「クラスの女子も落ちてるっぽい子が何人かいたような……リアルハーレムを目の当りにするなんてね。まぁ、だからこそ、〝私も〟とか思えるんだろうけど」

「普通は、あのユエって子との関係みただけで身を引くと思うんだけどね。それか、あの一途過ぎる女の子を見て、とかさ。これも魔王の吸引力かな。私達も気を付けないと、うっかり惹き寄せられちゃうわよ」

「だね~」


 今度は二人して苦笑い。そして、揃って空を見上げた。


 そこには、この戦場で一番キル数を稼いでいるクラスメイトの女の子の姿があった。空を縦横無尽に駆け巡り、両手の大剣、黒銀の閃光、黒銀の羽、魔法を臨機応変に使って使徒達を圧倒している。


 背中に広がる漆黒に銀の煌きが混じった四枚翼に、黒を基調としたドレス甲冑。風にさらわれなびく髪も黒。まさに堕天使というに相応しい姿で天使然とした使徒達を屠っていく姿は、どう見ても魔王の幹部と言うべきもの。


 なのに、天使の方が人類を滅ぼそうとする勢力で、堕天使の方が守ろうとする勢力であるというのは何とも皮肉が利いた話である。


 その大暴れしている堕天使こと香織は、黒銀の光を纏いながら残像を引き連れて、また一体、使徒を切り捨てた。


 その瞬間を狙って二人の使徒が大剣を薙ぐ。それを双大剣と黒銀の翼で受け止め、香織は猛烈な勢いで回転した。途端、弾かれた二人の使徒は、間髪入れずに迫った黒銀の羽に額を貫かれて絶命した。


 これで一体、何人の使徒を屠ったのか。


「キリがないね……」


 思わずそう愚痴を零す香織。


「ならば、諦めて落ちなさい」


 返答したのは使徒の一人。気が付けば、香織は球状に完全包囲されており、文字通り全方位を隙間なく埋められていた。


 そして、次の瞬間、放たれるのは銀の閃光。正面の同胞に当ててしまう可能性を無視した遠慮容赦のない一斉掃射が、使徒で出来た球体の中心に向かって放たれる。


 しかし、香織は揺らがない。


「諦めるなんて言葉、知らないよ?」


 そんな軽口を叩くと、一直線に正面突破を図った。双大剣を盾にして光の奔流へと突っ込んでいく。


 視線の合った使徒が、突破されることを確信して双大剣を構えた。


 直後、全身から白煙を上げながら、しかし、些かの衰えも見せない眼光を放つ香織が猛烈な勢いで肉迫した。そして、黒銀の羽を撃ち出し、肩先や足先など嫌らしい部分をピンポイントで狙う。


 同じく、使徒が銀の羽を撃ち出して相殺しようとした。しかし、その瞬間、その足元から光の鎖が伸びて使徒の動きを一瞬阻害した。


 拘束は直ぐに分解されて霧散したが、それで十分。黒銀の羽が使徒の体を捉え、その体勢が大きく崩れる。そこへ、香織が到達する。手に持つ大剣をグッと引き絞り、刹那、神速の突きをお見舞いする。


 ギギギッと大剣同士の擦れる音が響くものの、結局、突進の勢いもあって威力を殺せなかった使徒は、そのまま香織の大剣によって串刺しとなった。


 だが、使徒としてはそれも狙いの内だったらしい。突き刺さった大剣の柄――それを握る香織の手をガシッと掴むと、その身をもって動きを拘束する。


 そこへ、銀の羽が殺到。


 香織を捉える使徒ごと葬るつもりだ。


「仲間なのに扱いが軽すぎるよ」


 呆れたような表情をしながらそう呟いた香織は、殺到する銀の羽には頓着せず眼前の使徒に止めを刺すことを優先した。


 僅かに、使徒の眼が見開かれる。


 いくらスペックを制限されているとは言え、分解能力は健在だ。同じ使徒の肉体であるから分解能力を発動すれば対抗はできるが、それでも物量的に看過できないダメージを負う。それは香織自身も分かっているはずだ。なのに、何故……と。


 直後、使徒の体は香織の大剣によって両断され、ほぼ同時に香織は銀の羽に呑み込まれた。


「我々の経験をトレースできていたはずですが……所詮は、紛い物ということですか。愚かな真似を」

「そうでもないよ」


 銀の羽を放った使徒の一人が呟いた言葉に、直ぐ様、返答がなされた。


 まるで焦燥も動揺も感じさせない声音に使徒がスっと目を細める。


 その視線の先、銀の羽が放つ光が収まった場所には体中を傷つけた香織の姿があった。


 やはり、ダメージが通っていることにただの痩せ我慢だと判断した使徒は、止めを刺すべく無言で数え切れないほどの銀の羽を展開した。他の使徒達も同時に展開しているので、その中心にいる香織は、まるで星の海に飛び込んでしまったかのようだ。


 だが、その銀の羽が掃射される寸前で使徒達は思わず動きを止めてしまった。


 何故なら、その使徒達の目の前で瞬く間に香織の傷が癒えていったからだ。ユエの〝自動再生〟もかくやという速度と鮮やかさで、銀の羽に付けられた傷も開けられた風穴も、それどころか衣服まで何事もなかったように元の状態へと戻っていく。


 魔法を使った様子は見えなかった。使徒に自動再生のような機能は付いていない。


 困惑する使徒達は、香織を凝視して――吹いた風がさらった前髪の奥、額の部分に、黒銀に輝く十字架の紋章が刻まれていることに気がついた。


「それは……」

「〝堕天の聖印〟――私の魔法だよ。開戦する前に使っておいたの。ユエ程ではないけど、怪我をしても勝手に発動して癒してくれる便利な魔法だよ」


 変成再生複合魔法〝堕天の聖印〟――体の一部に魔法陣の役目を負う十字架を刻むことで、一定時間ごとに再生魔法を発動する魔法。強力版オートリジェネとも言うべき魔法である。なお、変成魔法を使うことで刺青のような聖印は消すことが出来る。


「……しかし、飽和攻撃を続ければ、いつか回復量をダメージ量が上回るはず。魔力も無限というわけではないでしょう」


 香織の言葉に、気を取り直すような言葉をわざわざ話す使徒。言い聞かせているのか、それとも本気でそう思っているのか……


 香織は不敵な笑みを浮かべる。それは以前の香織なら決してしなかったような挑発的な笑み。どこかの魔王とか、その嫁の影響を受けていることがひしひしと伝わる。


「思い違いが二つあるね」

「……なんです?」


 香織の雰囲気に、警戒を最大限して尋ね返す使徒。


 そんな使徒に対し、香織は、双大剣を構えるとバサッと二対四枚の黒銀翼を広げながらポツリと言葉を零す。


「一つ――」

「――ッ!?」


 次の瞬間、その姿が消えて使徒の真後ろに現れた。大剣を振り抜いた姿勢で。


「やろうと思えば、どんな飽和攻撃も避けられる」

「は、速すぎ、る――」


 他の包囲していた使徒が唖然とする中、直前まで会話していた使徒は瞠目しながら、その体を斜めにずらして血飛沫を上げながら絶命した。


 血糊を払うように大剣を薙いだ香織に、ハッとしたように使徒達が一斉掃射する。


 だが、


「――〝神速〟」


 掃射された時には既に香織の姿はなく、次の瞬間には、二人の使徒が両断されて地に落ちていった。


 ギョッとしたようにその場所へ視線をやるも、やはり、その時には既に香織の姿はなく、また別の場所で使徒が両断される。


「く、空間転移?」


 使徒の一人が疑問の声を上げる。が、直後、その身をふわりと風が撫でたかと思うと視界がズルリと斜めにずれるのを感じ、そのまま意識を闇へ落とした。


「まさか。私は空間魔法を習得してないよ。これはただ、速く動いているだけ」

「馬鹿なっ。我々に知覚できないほどの速度などっ」

「出せるよ。正確には時間を短縮しているだけなんだけどね?」


 そう言って、驚愕に声を上擦らせた使徒を一瞬で切り裂く香織。


 再生魔法〝神速〟――一つ一つの事象において掛かる時間を短縮する魔法だ。攻撃が相手に届くまでの時間を短縮すれば神速の一撃となり、移動時間を短縮すれば瞬間移動と見紛う速度で移動が出来る。


 再生魔法は、その根源を辿れば時に干渉する魔法。ただ人の身で扱える限界が〝再生〟という用途に止まるというだけ。香織は、この再生魔法をメルジーネで手に入れてから、ずっと鍛錬してきた。最初に手に入れた神代魔法というだけでなく、回復役である自分にはピッタリな魔法であったことから愛着も一入だったのだ。


 結果、使徒の肉体を手に入れたというのもあるのだろうが、アワークリスタルの生成に成功したように、限定的ではあるが直接時間に干渉することが出来るようになったのだ。


 もちろんデメリットはあって、一回使うごとに莫大な魔力を消費してしまう。だから、戦闘が始まっても直ぐには使わなかったわけだが……


 手も足も出ない圧倒的な速度で次々と駆逐されていく同胞を見て、使徒が反論の矛先を変えた。少しでも精神的に動揺させる目論見なのかもしれない。


「確かに、あなたは強い。あのイレギュラーに侍るだけはあります。ですが、戦争とは一個人で左右できるものではありません」

「何が言いたいの?」

「見なさい。地上を。あなたが我等の相手をしている間にも人は次々と死んでいきます。善戦しているところもあるようですが、所詮は人間。疲労やダメージの蓄積は免れない。彼等も直にただの骸と成り果てるでしょう」

「……」

「【神域】からはまだまだ我等がやって来ますよ? あなたは何も守れはしない。所詮、無駄な足掻きなのです」


 香織は動きを止めて、言い切った使徒を静かに見返した。そして、死を宣告するように大剣の切っ先を向けてくる使徒へ、ふわりと笑顔を浮かべながら口を開いた。


「思い違いの二つ目。ダメージ量がどうとか、魔力量がどうとか……誰に向かって言ってるの?」

「なにを……」

「たとえ体が変わっても、私は〝白崎香織〟。天職〝治癒師〟を持つ、魔王(ハジメくん)パーティーの〝回復役〟だよ?」


 そう言って、香織は大剣を逆手に持ち、その切っ先を地上へと向けた。〝治癒師〟としての能力を遺憾無く発揮できるようにとハジメによって改良が加えられたそれは、黒銀色に燦然と輝き出す。


 そして、


「――〝回天の威吹〟」


 直後、大剣の切っ先から黒銀の雫が一滴、地上へと落ちていった。


 それは、地面から数メートルの高さでカッ! と光を爆ぜさせると戦場全体に黒銀の波紋を広げた。二重、三重と黒銀の波が連合軍の頭上を奔る。


 すると、次の瞬間、既に息絶えていたはずの連合軍兵士がパチリと目を覚ました。そして、不思議そうに身を起こすと斬られたはずの胸元をペタペタと触り、何ともないと知って更に首を傾げる。


 他にも、銀の羽で穿たれた者や属性魔法に殺られた者達が次々と起き上がった。そして、どうやら生きていて体の傷も治っているらしいと分かると、直ぐ様立ち上がり使徒と戦う仲間に加勢すべく駆け出していく。


 一度は死んだものだけではない。当然、生きていて手傷を負っている者達も瞬く間に傷を癒された。


「なっ、蘇生させたっ!?」


 上空から、その様子を確認した使徒が無感情など嘘のように驚愕をあらわにする。


 魂魄再生複合魔法〝回天の威吹〟――魂魄魔法による味方の選別と霧散しかけている魂魄の集束・固定・定着を行い、かつ、再生魔法による回復を行う。流石に、頭部を欠損していたり、両断されて体がバラバラになっていたりするなど原型を止めていない場合や、死後十分以上経っている場合は効力が及ばないものの、黒銀の雫を中心に半径四キロ以内の味方に対し蘇生と完全治癒を行う大軍用回復魔法である。


 これだけでも冗談のような魔法だ。しかし、香織の本領発揮は未だ終わらない。


「――〝襲奪の聖装〟」


 逆手に持ち切っ先を下に向けた大剣とは別に、もう片方の大剣は胸の前で上に向けて真っ直ぐに構える。そして、その宣言と共に、構えた大剣が黒銀の輝きを纏い出した。


 それは銀河を呑み込まんとするブラックホールのようで、その見た目に反しない効果を発揮した。


「っ、これは、力が抜けてっ」


 ただでさえ聖歌によってスペックが削られているというのに、更に力を削がれていくことに使徒が動揺をあらわにした。


 見れば、香織を中心に数百メートル以内の使徒全てから輝く光が漏れ出し、そのまま流星のように香織の大剣へと集っていく。


 そして、大剣に吸収された直後、香織の身から魔力が溢れ出した。消費した分の魔力を回復したどころか、更に多くの魔力を保有したようだ。それだけでなく、切っ先を下にした大剣を伝って、再び黒銀の雫が地上へ落ちた。


 先と同じく黒銀の波紋を広げる。すると、連合軍兵士達の動きが明らかに良くなった。動きのキレや力強さ、反応速度が上昇している。


「あなた達の力、奪わせてもらったよ」

「そんなこと……」

「出来るよ。治癒師だもの。魔力を他者に譲渡するのも本分だからね。あなた達を捕捉するのに少し時間がかかっちゃったけど」


 言うは易く行うは難し、だ。


 魂魄昇華光属性複合魔法〝襲奪の聖装〟――魂魄魔法による標的の選別と、他者に魔力を移譲する光系魔法〝譲天〟に昇華魔法を行使した複合魔法だ。捕捉した相手から強制的に魔力を奪い自己の魔力を回復したり、それを味方の身体強化に流用したりすることも出来る。


 もちろん、昇華魔法を使ったとしても、ただの光属性魔法で使徒から触れもせずに魔力を奪うなど普通は出来ない。香織の魔法を助けているのは、その手に持つ双大剣だ。


――廻禍の魔剣 アニマ・エルンテ

――福音の聖剣 ベル・レクシオン


 魔剣は敵対者の力を奪い己の糧とし、聖剣はその力を味方に分け与えて無限の力とする。二本で最大限の効果を発揮する、香織の〝襲奪の聖装〟と〝回天の威吹〟の行使を補助するための専用の魔剣と聖剣だ。


「……それでも、それでも、あなた達は勝てません。我等使徒は無限にも等しい。どれだけ小細工を弄そうと、どれだけ足掻こうとも、最後には滅びる運命なのです。それが神の御意志なのですから」

「人は滅びないよ。どんな世界でもきっと同じ。たった一人で、大した力もない男の子が奈落の底から這い上がって来たように、人は困難に呑み込まれても必ず活路を見出す。人はね、滅び方を知らないんだよ。生きたいと、誰かを守りたいと思う人が一人でもいる限り、その意志が〝運命〟なんてものを捩じ伏せてしまうから」


 視線を交わす使徒と香織。


「……ならば、それを証明して見せて下さい」


 その言葉を合図に再び、激闘が再開された。


 使徒が集団で香織を襲い、香織はそれを駆逐する。


 連合軍が疲弊してきたと見れば回復させ、定期的に蘇生も行う。魔力が減れば使徒から奪い、時折、地上へ援護の砲撃も行う。


 他の場所でも、竜人達が獅子奮迅の活躍で使徒を抑え、地上でも各々が死に物狂いで戦い続けていた。


 一体、どれほど時間が経ったのか。


 赤黒い世界には既に太陽の影すらなく、時間の感覚がなくなりつつある。香織の回復魔法がなければ、とっくに連合軍は瓦解していたかもしれない。それほどまでに使徒の戦力はキリがなかった。


 それでも【神域】に踏み込んだハジメが、連合軍の兵士達にとっては〝女神の剣〟が、全てを終わらせてくれると信じて気力を振り絞る。既に、蘇生が間に合わず事切れてしまった兵士は多数だ。


 ジリジリと数の暴力に押されている感覚が連合軍を支配し始めていた。


 と、そのとき、ふと【神山】上空を見上げた兵士の一人がポツリと呟いた。


「おい、なんだあれ……」


 その視線の先には、明らかに勢いを増している瘴気が地上へと伸びていく光景があった。


 直後、空間の亀裂から溢れ出ていたヘドロのような瘴気が、一気に勢いを増した。


 そして、そのまま崩壊した【神山】の上に落ち纏わり付くように要塞へ向かって流れ出した。瘴気の先が、王都があった場所を越えて要塞正面の草原へと触れる。まるで【神山】が崩壊したときに発生した粉塵のように、あるいは雪崩のように凄まじい勢いで迫るドス黒い瘴気。


 その瘴気の中に、次々と赤黒い光が出現した。直後、おびただしい数の咆哮が上がり、瘴気の奥から無数の魔物が飛び出して来た。どうやら、魔物の軍勢第二波のようだ。


 更に、亀裂からも一気に数千単位の使徒が飛び出してくる。


「おいおい、ここに来て戦力増強かよ。上等……って言いてぇところだが……やべぇな」


 ガハルドが返り血と自身の血で真っ赤に染まりながら、苦虫を噛み潰したような表情になった。他の兵士達などは絶望したような表情になっている。


 間断なく襲いかかって来る使徒の相手でも一杯一杯だったというのに、ここに来て万単位の魔物の群れと数千規模の使徒――戦力拮抗状態が崩れかねない。


「第一、第二師団は、正面集中! 勢いのまま突っ込まれて乱戦にさせるなっ! 食い止めるぞっ!」


 ガハルドの号令によって、即座に陣形が組まれていく。


 地響きが伝播し、大気が鳴動する。魔物共の進撃の音、咆哮の衝撃だ。


 背後に莫大な瘴気の雪崩を引き連れて溢れ出てくる魔物の大群に、ガハルドをしてじっとりとした汗が流れた。竜人も香織も、同じく溢れ出てきた使徒に釘付けにされている。異世界チート組も聖歌隊の守護に掛かりきりだ。


 目算で約一キロメートル。


 余りの迫力に連合軍兵士達の表情が引き攣る。


 ダメかもしれない。誰とも無しに、そんな雰囲気が流れそうなった、その瞬間、


「――〝壊劫〟」


 大地が消えた。魔物と共に。


「――〝壊劫〟――〝 壊劫〟」


 三度響いた女の声。それは、騒音で満ちた戦場においてもやたら明瞭に響き渡った。


 だが、その声よりも、ガハルド達にとっては目の前の光景こそが驚愕の原因。


 進軍していた魔物の先頭集団が揃って大地の底へと消えてしまったのだ。断末魔の悲鳴すら上げられずに。


 直後、やたらと響くが、やたらイラっと来る声音で、その原因が連合軍の前方の平原に開いたゲートからのっそりと姿を現した。


「やほ~☆ ピンチになったら現れる、世界のアイドル、ミレディちゃん見参ッ! あはは~、最高のタイミングだったねぇ! 流石、わ・た・し♪ 空気の読める女! 連合のみんな~、惚れちゃダ・メ・だ・ぞ♡」


 巨大なゴーレムと、その肩に乗った乳白色のローブとニコちゃんマークの仮面を付けたちっこい人型。ふざけまくった姿のミレディは、巨大ゴーレムの肩から連合軍に「きゃるるん☆」といった感じでポーズを取りつつテヘペロっとした。どういう原理か、ニコちゃんマークの仮面がそうなったのだ。


 ガハルドを含め、連合軍の時が止まった。


 誰もが一様に、「なんだ、あれは」という純粋な疑問と同時に、言い様のないイラっとした表情をしている。


 そこへ、リリアーナから説明が入った。曰く、ハジメ達の呼んだ助っ人であり、言動のウザさはともかく、それなりに使えるということ。今まで何をしていたのか知らないが、ようやく到着したこと、などだ。


「もうぅ~、みんな、ノリが悪いなぁ~。ちょっとダメかもしれない……とか無駄にシリアスしちゃってるみたいだったから盛り上げてあげようとしたのにぃ。ミレディちゃんの好意を無駄にするなんてぇ、ぷんぷん、激おこだぞ!」


 ガハルド達の苛立ちゲージが振り切れそうになる。


 だが、そんなふざけた態度を取りながらも、背後から迫る瘴気に片手を向けたミレディは、一言。


「――〝絶禍〟」


 瘴気の頭上に生まれた禍星は、直後、凄まじい勢いで瘴気を呑み込み始めた。その中には、瘴気に紛れていた魔物達の姿もある。


「もうっ、ミレディちゃんの邪魔するなんて許せなぁ~い! お仕置きだぞぉ。――〝崩軛〟」


 ふざけた部分の声音と詠唱の声音とのギャップが凄まじい。


 詠唱の一瞬だけ、絶対零度の声音が響くのだ。


 その結果、先と異なり魔物達の足が一斉に地面を離れ、とんでもない勢いで空の彼方へと飛んでいった。重力は引力と遠心力の合力。故に、引力を切断して彼方へと飛ばしてしまったのだ。


 万単位の魔物が、たった一人に為す術なく蹂躙されている。大規模魔法の範囲から逃れた魔物達も、連合軍へ到達する前に飛び出した騎士ゴーレムと巨大ゴーレムによって次々と駆逐されていった。


 連合軍は、彼女が〝解放者〟の一人であるとは知らないが、それでもハジメが頼んだ助っ人であることを大いに納得した。同じく、化け物級である、と。


 地上からの魔物による進行は、ミレディとゴーレム、それを突破してきた魔物は連合軍でどうにでも出来ると僅かに安堵が広がった。


 だが、その安堵は直後に崩れることになった。


 先程から溢れ出ている使徒達が一塊になったのだ。その数は約千人。


 一本の槍のように隊列を組んだ千の使徒は、竜人や香織の攻撃など完全に無視して一直線に降下を始めた。


 当然、正面からも対空砲火がなされるが、花が散るように次々と脱落しながらも、その物量に頼って使徒達は躊躇うことなく突き進んだ。……聖歌隊に向かって。


「ッ、行かせないっ!」

『総員、あの使徒の群れを止めろっ!』


 香織とアドゥルが、必死の形相で、使徒で出来た大槍を打ち壊そうと全力を振り絞る。


 地上へ落下するまでに幾百人という使徒が吹き飛んだが、それでも完全に己の身をもって塊となった使徒の群れを完全に打ち壊すことは出来ず……


「ダメッ、逃げてぇ!」


 その圧力に抗しきれなかった香織が弾き飛ばされながら悲鳴じみた絶叫を上げた。


 直後、使徒の大槍は、神が地上に放った神槍の如く銀の輝きを放ちながら聖歌隊の結界へと突き刺さった。


 そして、周囲の者が神槍をどうにかする前に、聖歌隊を守る結界はビキビキと亀裂を広げ……遂に、轟音と共に粉砕されてしまった。


 非力な聖歌隊のメンバーが、絶大な威力を前に儚く散っていく。


 この瞬間、使徒達を縛っていた楔が打ち壊された。


 神の使徒が、その能力を十全に発揮する。


 戦場に血風が吹き荒れた。あちこちで銀色の光が噴き上がり、その周辺で拮抗していた連合軍兵士達が、一瞬の内に肉塊へと成り果てていく。勇敢な雄叫びが、ただの悲鳴へと変わっていく。


「一時凌ぎだけど――〝崩軛〟」


 ミレディが、背後の地獄絵図の様相を呈しつつある戦場に向かって重力から切り離す魔法を行使した。目標はわかりやすい。目立つ銀の魔力。それだけを選別する。


 直後、使徒達が一斉に上空へと吹き飛ばされた。錐揉みしながら一瞬で一キロメートル近く地上から離される。


 だが、能力を取り戻した強化状態の使徒達にとって、それは本当に一時凌ぎでしかなかった。直ぐに態勢を整える。そこへ神槍と化していた使徒達が集まった。それだけではない。まるで人類を絶望に誘うように、空間の亀裂から更におびただしい数の使徒が出現する。


 赤黒い空が星と見紛うほどの使徒で埋め尽くされた。そして、ちまちま戦うのはもう面倒だと言わんばかりに、神の使徒が討ち取られる屈辱も今は忘れようとでもいうかのように、ただ圧倒的な数の暴力に頼って、銀の魔力を集束し始める。


 大結界による防御はもうない。対空砲撃や狙撃は、確実に使徒達を撃ち落としている。竜人達も、香織も、集束に集中して動こうとしない使徒達を、羽虫を落とす勢いで駆逐する。


 しかし、使徒達は気にしない。矜持を置いて、損害を気にせず、ただ人類を滅ぼすためだけに滅びの光を集束する。破壊しても破壊しても、次々と補充されては集束に加わる使徒達の数が多すぎて、殲滅速度が間に合わない。


 今、銀の太陽を放たれれば、連合軍の被害は甚大なんてものでは済まない。訪れるのはどうしようもない〝人類の敗北〟だ。


「させないっ、絶対にっ!」


 香織が決意で満ちた眼差しで上空を睨みつけながら、両手を掲げた。この事態を想定して、戦場の一定箇所に設置されたクリスタルが香織の意思に反応して光を発する。それらの光は互いの光点を線で結び合い、一つの巨大な魔法陣と化した。


――香織専用 大規模守護結界石 〝シュッツエンゲル〟


 結界師ではない香織の結界魔法を、戦場全体を覆うほどの巨大魔法陣による補助によって大結界以上に大規模展開させるアーティファクトだ。


「滅びなさい」

「――〝不抜の聖絶〟ッッ!!」


 銀の太陽が放たれたのと、連合軍を覆うような超大規模障壁が展開されたのは同時 。


 銀の槍と黒銀の防壁が衝突する。


 轟音。


 閃光。


 世界が、その二つに満たされる。


「ぐっ、うぅうううううぁあああああああっ!!」


 香織の絶叫が迸った。


 彗星を受け止めでもしたかのような衝撃、押し潰さんとする圧力。黒銀の翼が明滅し、徐々に高度が落ちていく。


 黒銀の障壁は分解能力を付与された聖絶だ。故に、使徒の分解能力を相殺して、ただの砲撃に変える性質を持っている。だが、それでも、数千人規模の使徒によるフルパワーの砲撃は、単純な威力によって香織の結界に亀裂を生じさせた。香織はそれを、再生魔法で瞬時に再生して対抗していく。


 あっという間に流れ出していく魔力。


 歯を食いしばり必死に高度と障壁を保つ。


 使徒達は、それが神の使徒としての、せめてもの矜持だとでもいうのか、障壁を迂回して攻撃するようなことはなく、ただ、正面から打ち破ろうと次々に銀の砲撃を加えてくる。


『総員、障壁を展開しろ! 彼女にだけ背負わせるなっ!』


 アドゥルの怒声が轟く。香織の背後に集まった竜人達が、それぞれ香織の障壁に重ねるようにして障壁を張っていく。


「多少はマシになるはずだよ。――〝禍天〟」


 ミレディの重力魔法で、障壁に直撃している部分の砲撃が周囲の重力球に吹き散らされ威力を弱める。


 他にも地上から結界系の魔法を使える者達――リリアーナやクラスメイトを筆頭に、全員で障壁を展開して香織を援護した。結界系の魔法を使えない者達は、〝シュッツエンゲル〟のもう一つの効果、兵士達の魔力を香織へ譲渡するという効果により、自分達の魔力を香織へ送り出して必死に支える。


 数秒か、それとも数分か。


 永遠にも等しい轟音と閃光の世界は、遂に終わりを告げた。


 同時に障壁も霧散していく。


「はぁはぁ、耐え、きった……」


 肩で息をしながら、数千人規模の分解砲撃を耐え切った香織。


 明らかに疲弊しているとわかる顔色だ。それは周囲の竜人も変わらない。魔力を振り絞った地上のリリアーナ達や連合軍兵士達も同じだった。全員が険しい表情となっている。


 それでも守りきったと、香織は笑いながら〝襲奪の聖装〟を発動しようとして……


 銀の太陽が、再び世界を照らし出した。


「我等神の使徒は無限――そう言ったでしょう?」


 数だけでなく魔力も無限である。新たな銀の太陽を作り出しながら、睥睨する使徒の呟き。


 魔力の回復は間に合わない。


 もう一度撃たれては凌ぎきれない。


 香織だけでなく、空を見上げる連合軍の全員がそれを悟った。


 絶望が、


 諦観が、


 人々の胸中を満たす。


 銀の太陽が空から落ちてきた。終わり……誰もがそう思った。


 だが……


 香織は荒い息を吐いたまま、スっと両手を掲げた。諦めなど微塵もない強き眼差しで真っ直ぐに滅びの光を見据えたまま、魂に火をくべて、どこかにこびり付いている魔力の欠片まで掻き集めて――


 戦う意志を捨てない。


 諦めない。


 その姿が、いったい、連合軍の兵士達の内、どれだけの人々に見えただろうか。見えていたなら、きっと、その気高く美しい姿に涙したに違いない。直ぐ傍で、その勇姿を見て心震わせるアドゥル達のように。


「一秒でもいい。生き残ってみせる!」


 一秒でも生き延びれば、そのとき、最愛のあの人が全てを終わらせてくれているかもしれない。


 いや、きっと終わらせてくれる。


 そう、信じている。


 だから、死の間際、コンマ数秒だって諦めはしない!


 視界の全てが銀色に染まる。


 展開できた障壁は、玩具に見えるほど弱々しい。


 だが、一秒。


 確かに、受け止めた。


 次の瞬間、


「……ふふっ、ほら、やっぱり!」


 香織が愛しさと無類の信頼で蕩けたような表情を浮かべる。その視線の先には、フッと霧散していく銀の光と、カクンッと力の抜けた使徒の群れ。


 直後、操り糸を失ったマリオネットのように、光のない眼差しを虚空に向けた使徒達がバラバラと地面へ落ちていった。


『これは、いや、待て、あれはいったい……まさか、【神域】か?』


 アドゥルが、落ちていく使徒に困惑しながらも更なる異常事態に声を詰まらせた。


 その視線の先、そこには空間そのものが揺らぎ、まるで映像でも映しているかのように様々な光景が現れては消える異常な空があった。まるで、空の上に異なる世界がいくつもあって、今にも崩壊し落ちてこようとしているかのようだ。


 その有様は世界崩壊の序曲のようで、更に大気が鳴動を始めたことがその嫌な想像に拍車をかける。


「ハジメくん、ユエ、皆……」


 香織は、感動も束の間、直ぐに心配そうな表情になった。見れば空間の亀裂も揺らいでおり、今にも消えてしまいそうだ。


 魔力の枯渇状態で、今にも飛びそうな意識を繋ぎ留めながら、それでも空間の揺らぎへと向かおうと黒銀の翼をはためかせる。


 その肩をグッと掴む者がいた。


「彼等のことは任せて。みんなに愛されて幾星霜、このミレディちゃんに、ね☆」


 そう言って、ミレディ・ライセンは、口調に反して酷く優しげな声音で香織を止めたのだった。





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