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【社説】

トランプ氏暴言 米国の精神に反する

 自由と平等という米国の精神に反する言動である。トランプ大統領が非白人の民主党議員に「米国が嫌いなら出て行けばいい」と言い放った。移民への偏見と敵意をあおる危険性を悟るべきだ。

 トランプ氏が標的にしたのは、少女時代にソマリアの内戦から逃れてきた元難民のイルハン・オマルさんをはじめ、パレスチナ系、米自治領プエルトリコ系、黒人の計四人の女性。オマルさんを除く三人が米国生まれだ。四人ともトランプ氏の移民政策を厳しく批判してきた。

 これにトランプ氏は「腐敗した破綻国家から来たのに、最も偉大な米国の国民に、政府はいかにあるべきかを語っている。国に帰って破綻国家を立て直してはどうか」とも毒づいた。

 前回の大統領選以来、トランプ氏の人権感覚は物議を醸し続けている。一昨年は、死傷者も出た白人至上主義団体と反対派の衝突をめぐって「双方に非がある」と述べ、白人至上主義者から歓迎された。

 メキシコ国境の壁の建設をはじめ強硬な移民政策を打ち出すトランプ路線の底流には、抜きがたい差別意識があるのではないかという疑いは拭い切れない。

 トランプ氏は今回の暴言も、白人労働者を中心とする支持層には受けると計算しているのだろう。

 白人の中には、移民が自分たちの職を奪う一方で移民のために多額の税金が使われている、と不満を持つ人もいる。

 実際には、ビルの清掃など白人が敬遠しがちな低賃金のきつい仕事に多くの移民が携わり、米経済を支えている。

 だが、移民の増加は反移民感情を増幅させる。とりわけ経済状況が悪化すると、不満のはけ口が移民に向かうことがよくある。

 そんな素地がある中で、トランプ氏のように人々の心の奥底に潜む差別意識をあおり立てて解き放つ振る舞いは、極めて危険だ。

 自由と平等という建国の精神は、海外から多くの優秀な人材を引き寄せ、それが米国の繁栄に寄与してきた。多様性と互いの違いを認め合う寛容さが米国の強みである。

 一九六〇年代の米国は公民権運動が吹き荒れた。人種差別を克服しようとする苦難の歴史を刻んできた。

 今も差別は残っている。それでも、現実を少しでも理想へ近づけることが、為政者の責務であるはずだ。

 

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