インターネットイニシアティブIIJ)は7月6日(大阪)と7月13日(東京)、トークイベント「IIJmio meeting #24」を開催した。毎回MVNOやIIJにまつわるさまざまな話題を取り上げる同イベントだが、今回は7月18日からサービスを開始する「eSIM」の話題を中心にトークが進められた。東京会場のレポートをお届けする。
知ってそうで案外知らないMVNOの疑問解決
最初のトークセッションは、「MVNO素朴な疑問解決編」として、いつもIIJmio meetingの司会進行でおなじみの堂前清隆氏の登壇で始まった。IIJmio meetingは技術的にかなり突っ込んだディープなセッションが多いが、今回は初心に戻ってライト層向きの内容だ。
内容は「MVNOとUQ mobile・Y!mobileは何が違うの?」「MVNOの通信速度が遅くなるのはなぜ?」「MVNOは電波が弱いんじゃ……繁華街は苦手? 地下鉄で電波が途切れるんだけど……」「最近スマホの法律が変わったみたいだけど?」の4つについての解説が行われた。パっと聞かれて正確にすべて答えられる人も少ないのではないだろうか。
まず最初の項目については、会社とブランドの関係の違いだ。Y!mobileはソフトバンク自身が持つ「サブブランド」で、施設もソフトバンクのものをそのまま利用している。これに対してUQ mobileは、KDDIとの資本関係にある「UQコミュニケーションズ」が、独自の通信設備(モバイルWiMAX関連)を保有しており、UQの設備をKDDIに貸し出す一方で、KDDIの設備を使ったMVNOとしても活動している、という関係になる。UQはauのサブブランド的な位置付けではあるが、独立したキャリアでもあるわけだ。
これらに対してMVNOは、自社で通信設備を持たず、キャリアから設備を借りてサービスを提供している。ただし、最近はキャリアに買収されたり、資本関係を持つことでサブブランド的な位置付けになったMVNOもある。この辺りは、MVNOから自社設備を保有することでキャリアに格上げしながら、キャリアのMVNOサービスも提供する楽天モバイルの例もあり、なかなか複雑な構図になりつつあるが、各サービスの関係がはっきり図示されており、大変わかりやすい解説だ。
次のMVNOの通信速度については、構造的に仕方のないこと、となる。堂前氏は土管(全帯域)に水(データ)が流れる図を例に、MVNOは本管より細い分岐を利用しているから遅くなる、という説明をしていたが、要はMVNOがキャリアから一定の帯域を買い取り、それを利用者が分け合う形になるのだ。
もちろんMVNOも帯域を増強することで速度低下を防ごうとするが、利用者増と帯域増強のイタチごっこになる。帯域が増えればコストも増えるため、余裕がありすぎるのも問題なわけで、ここは難しいところ。MVNOが安い理由でもあるので、利用者としては割り切るしかないだろう。ちなみにIIJとキャリア(ドコモ)の接続は東西1箇所ずつあるが、通常のMVNOは全国で1箇所しかないとのこと。こういう部分でもMVNOのネットワークの質の差が露呈するようだ。
続いて、MVNOの電波については、結論から言えば「キャリアと同じ」である。通信施設を借りているのだから、当然のことだろう。電波が弱いと感じるのは、前述した通信速度の差や、分岐設備の影響などで反応が悪い場合の影響も考えられる。わざわざ実機で実証までしてくれるところはさすがといった感じだ。
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最後に、5月に改正案が通過した、電気通信事業法の話題。今回の改正で、キャリアやキャリアと特定関係(子会社、関連会社など)にあるMVNO、および独立系でも契約数が100万を超える規模が大きなMVNO、具体的にはIIJmioやmineoが指定通信業社となり、さまざまな制約を受けることになる。IIJmioの場合は端末割引キャンペーンや長期契約者への割引・特典に制約がかかるということで、今後は利用者獲得にも支障が出ることが予想される。この件についてはパブリックコメントを募集中なので、思うところのある読者諸兄は意見を表明してみてはいかがだろうか。
今回の解説は、MVNOとしてはなかなか話しにくい話題も多そうだったが、赤裸々に語っていただいたおかげで、色々と納得できたり、理解が進んだことも多かった。こうした率直な情報公開の場であることも、IIJmio meetingの醍醐味のひとつだ。
eSIMってなんだっけ?
続いて、同社の圓山大介氏による「IIJにおけるeSIMの取り組み - サービス開始に向けた軌跡 -」と題したセッションが開かれた。IIJmio meetingでは過去にも何度かeSIMについて解説が行われてきたが、いよいよサービスインを目前にして、eSIMについての概要や、IIJのeSIMに関する取り組みをおさらいする内容だ。
eSIMとはembedded SIMの略で、物理的なSIMカードの中に含まれるプロファイル情報を書き換えられるようにしたものだ。プロファイルはネット経由でダウンロードする。メーカー独自仕様のものもあったが、現在は業界団体がGSMAが策定したモデルに準じたものが、狭義でのeSIMとなる。現在はIoT機器のほか、iPhone XS/XRやiPad、Surface Pro LTE Advancedなど、一部のスマートフォンやタブレット機種で採用が進んでいる状況だ。
eSIMを導入することで、物理的なSIMが必要なくなるため、ユーザーはいつでもどこでも欲しい時にSIMを入手でき、またSIMの紛失やスロットの開閉による故障といったリスクがなくなる。販売店やキャリアにとっても、SIMの在庫を抱えたり、逆に在庫が枯渇するといったことがなくなるというメリットがある。
一方で、気軽にキャリアを変更できる点はMNOキャリアにとっては不都合なために普及が遅れており、MNPのときはどうするかなど、規格で決まっていないことも多い。
IIJmioでは7月18日からeSIMサービスを開始するが、 実際に端末を検証していくと、様々な問題が発覚しているという。例えばeSIMのプロファイルを指定する際に、一部の値を指定しなくても規格上で定義されているデフォルト値を指定してくれる「テンプレート」を使うと、不具合が発生するケースがあったり、端末からプロファイルを削除した場合、プロファイルを管理するSM-DP+への通知を行うタイミングが規定されておらず、プロファイルを削除したことがわからない、などだ。
こうした問題もあって、IIJmioが開始するeSIMサービスはβ版という扱いになるわけだ。今後、正規サービスの提供に向けて、規格側のアップデートも含めて調整を進めていくことになる。
5Gではどうなる? IIJが考えるeSIMの未来とは
続いて木野純武氏より、「eSIMプロファイルの取り扱いと今後の展望」として、IIJが今後eSIMビジネスをどのように展開していくかの展望が語られた。基本的には前の圓山氏のセッションを引き継いだ内容だ。
まず、eSIM事業自体はIIJのようにフルMVNO化せずとも、他社からプロファイルを卸してもらったり、他社のプラットフォームを間借りして提供することは可能だったと振り返る。しかしIIJとしては、自社でプロファイルを設計できることと、プラットフォームの運用事業者であることを生かしたビジネス展開を考えているという。
この後、各OSのeSIM対応について触れてから、将来の事業展望に話題が移る。フルMVNOとして、加入者情報管理装置(HSS/HLR)とSIMの発行能力を持つIIJは、今後プライベートLTEやローカル5Gといった自営無線系のサービスに対してプロファイルを設計・提供したり、認証用にeSIMプロファイルを利用する、MVNEとしてeSIMプロファイルを卸す、といった事業展開が可能になる。IIJとしては新たなビジネスチャンスに繋げる好機だ。
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近年話題となっているプライベートLTEやローカル5Gなど、プライベートなネットワークをWi-Fiではなく広域通信技術で構築するような仕組み作りの中で、eSIMのプロファイル設計ができることが武器になる
ちなみに5Gの話題としては、SIMカードには5G向けの定義も用意されており、eSIMも5G時代に向けてプロファイルの再設計がいずれ必要になるだろう、とのこと。ただし、5Gネットワーク自体の情報がMNOからほとんど出てこない現時点ではまだ何もできないそうで、5G向けのeSIMサービスの提供はしばらく先になりそうだ(そもそも、いつ5GがMVNOに提供されるかも不明なのだが)。
最後に、IIJとしてはeSIMプロファイルの提供事業者として業界の競争と発展に貢献するとともに、eSIM対応端末の普及やパートナー企業との連携も推進していきたいとまとめていた。eSIM対応端末についてはiPhoneの対応が市場的に非常に大きいとのことだが、Androidもバージョン9.0(Pie)で正式にeSIMをサポートしたので、これからSIMフリー端末を中心に対応端末が増えることを期待したい。国内メーカーにも対応を強くお願いしたいところだ。
セッション2、3とも、これまでのIIJmio meetingなどで公開された情報を振り返りつつ、最新情報も加えて、サービスイン直前の復習として最適な内容だったと言える。毎回のことだが、なかなかユーザーには見えない、システムの深いところまで突っ込んで紹介されるIIJmio meetingは、通信マニアならずとも大変勉強になる。
次回の#25は10月19日(大阪)、10月26日(東京)で開催予定。内容は9月中旬発表予定とのことだが、次回も興味深い話が聞けることは間違いない。ネットでの同時中継も行われるが、IIJmioユーザー以外も参加可能なので、余裕のある方はぜひ現地への参加をおすすめしたい。