---------------------------
----N----094-------------
----a-----------------------------
----t-----------------------
----u-Z-o-r-a--------------
-----------------------------------
-----------------------------------
---------------------------------------------------------------
なつたちの短編映画「ヘンゼルとグレーテル」の作画作業は大詰めを迎えていました。
(坂場)う~ん…。
(麻子)まだ不満ですか?
(坂場)この鳥は何をしたいんでしょうか?
何って ヘンゼルとグレーテルを助けたいんでしょ。
それだけですか?
ほかに 何があるんですか?
鳥たちは この森に魔女がいること自体にずっと 不満を持っていたんじゃないでしょうか?
不満?だから ヘンゼルとグレーテルを助けたんだと思うんです。
その不満が見えてこないんですよ。
鳥たちが 一致団結して魔女に抗議してるように見えないんです。
このシーンは 鳥たちが まるで…デモをしてるように見せたいんです。
デモ!?(坂場)それで 描き直してみて下さい。
お願いします。
そんな思いつきで言われたって困るのよ!
こんなんじゃ いくら描いてもこの作品は終わんないわよ!
思いつきではありません。
人の描いたものを見てからいつも 何か言うじゃないの!
それは何がダメかを思いついてるだけです。
はあ!?(なつ)マコさん 落ち着きましょう!
とにかく描き直して下さい。お願いします。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
何なの あの人は! 腹立つ!
怒ると 余計に腹が立ちますよ。
腹が立ってることをますます意識するだけですから。
うるさいわね。 あんたまで そんな持って回った言い方しないでよ。
すいません。
(下山)厳しいね イッキュウさんは。
(茜)うん 確かに。
悪いところばっかりよく思いつきますよね。
けど 冷静に考えるとなるほどって思うことも多いんですよ。
こんな何度も描き直してたらなるほども どっか行っちゃうわよ。
(堀内)昔の君も あんな感じだったけどな。一緒にしないで。
(神地)俺の原画は褒めてくれましたけどね。
何が言いたいの あんた。マコさん! 冷静に。
なつは最後に ヘンゼルとグレーテルを救う木の怪物の動きに 四苦八苦していました。
木は こうやって歩くんですか?えっ?
木が こんなふうに歩くと思ったのはなぜですか?
なぜ…。
何となく…。な… 何となく?
というのは根拠がないということですか?
いや 木は もともと歩かないので根拠はありません。
それじゃ この木は 樹齢何年ですか?
樹齢?
この木が森の中で どれくらいの年月をこう 過ごしてきたのか歩き方に それが見えないとダメだと思うんです。
そこを 根拠にしてみて下さい。
いや そんなこと言われたって…分かりませんよ!
まあ 落ち着いて。怒ると余計に腹が立つわよ。
とにかく描き直して下さい。お願いします。
えっ いや 無理です…。
そんなの無理です!
♪~
はあ…。
陽平さん。(陽平)あっ なっちゃん。
背景の森を見せて下さい。
いいよ。 いくらでも見てって。
何か悩んでるの?
悩んでるなんてもんじゃありませんよ。
イッキュウさんの言うことについていけなくて…。
あっ これ…木の怪物を描いてるんですけど樹齢が 歩き方に見えないって言うんですよ。
アッハハ… 彼らしいな。
うちら美術に関しても うるさいからね。
自分が描かないから描く人の苦労は考えないんでしょうか。
そうじゃないと思うよ。
人に苦労かけてる分あれは 相当勉強してると思うよ。
絵をですか?絵だけじゃないと思うけど。
あっ 天陽の絵も知ってたんだよイッキュウさんは。
えっ… 本当ですか?(陽平)うん。帯広で賞もらった時小さな美術雑誌に載ったんだけどそれを見たらしいんだ。僕の弟かって聞かれて…。すごく その絵に感動してくれてた。
ふ~ん…天陽君の絵を イッキュウさんが…!
彼の演出力は まだよく分からないけど絵に対する貪欲さは絵描き以上かもしれない…。
負けないで頑張ってよ。こっちも頑張るから。
いい作品にしよう。
はい。 頑張ります。(陽平)うん。
お願いします。(陽平)はい。
♪~(「ムーンライト・セレナーデ」)
(夕見子)いいですね グレン・ミラーは…。
(亜矢美)あらららららら…そったらこと言ってるとモダンジャズの彼氏に怒られちゃうよ。
いいんですよ そんなの。
私は 人の好みに合わせる気なんて全くないんですから。
ねえ 彼はさ 毎日 今 何やってんの?
原稿書いて「スイングジャーナル」って雑誌に持ち込んでるらしいんですけどどうも うまくいかないみたいです。
そりゃ 最初っから うまくはいかないよ。
当たり前ですよね。したけど それで落ち込んじゃってて…。
最近は 喧嘩ばっかりしてるんです。あっ そうなの…。
あの人は もともとお金持ちのお坊ちゃんで生きてきたから自立して強くなるためには少し時間がかかりそうです。
夕見子ちゃんは冷静なんだね。
お互いに好きになったんですからお互いに強くならなければ不公平になるだけですよ。
そのために 東京に出てきたんですから。
ハッ… なるほどね。
℡
あっ 咲太郎さんの仕事の電話でしょうか。
いいよ いいよ。あっ。
はい 風車でございます。
℡「北海道音問別4141番からです」。
あっ…。℡「お待ち下さい」。
間違えました! すいません!
えっ どうしたんですか?いや 何か 間違えたみたい。
えっ こっちから言うんですか?
あっ もしもし 母さん?
(富士子)ああ なつ…。
℡ねえ 母さん夕方 こっちに電話したしょ?したよ。
やっぱり…。あっ…。
亜矢美さんにご挨拶したいと思ったんだけどあの子がいたから 切られたんだね…。
待って。 今 亜矢美さんと代わるから。
えっ… そうなの?ちょっと ちょっと… ちょっと待って。
(せきばらい)
はい 亜矢美でございます。
亜矢美さん? 初めまして 富士子です。
あっ どうも 初めまして。
この度は 夕見子が 大変お世話んなって本当に 何て お礼を申し上げていいか…。
いえいえ…今 お店を手伝って頂いておりましてもう助かっております。
いや… して なつのことずっと お礼が遅れて本当に申し訳ございませんでした。
いやいや… お互いさまですからそんな他人行儀なことはもう よろしいんじゃございませんか。
あっ はい そうですね。 すいません…。
して 夕見子は今 どんな様子でしょうか?
そろそろ 迎えに行きたいと思ってるんですけど…。
だいぶ 冷静になってきましたよ。
お母さん 今がチャンスかもしれません。チャンス?
あっ 分かりました。 すぐ行きます。
したらね。
(剛男)夕見子がどしたんだ?わっ!
ねえ それで今が 何のチャンスなんですか?
そりゃ もちろん 夕見子ちゃんがこのまま先に進むのか 立ち止まるのか夕見子ちゃん自身がそれを考えるチャンスかも。
うん…。
なして そんなこと黙ってんだ!
シッ… みんな起きるしょや。
そんなこと隠しとくなんてどうかしてるべさ。
少し時間が欲しかったのさ。何の時間だ?
夕見子の気持ちが落ち着くまで…。
すぐ行って騒いだら火に油を注ぐようなもんでしょ夕見子の性格からして。俺に黙っとくことないべや。
男親は 娘の気持ちより相手の男を抹殺することしか考えないでしょや。
抹殺って 忍者でないんだから。
(泰樹)抹殺… 確かに そうじゃ。
だから黙ってたのさ。
全く… どんなやつだ そいつは!
高山昭治。
札幌にある老舗デパートの長男。
調べたのかい?そりゃ調べるしょ。
2人とも 大学には休学届を出してるみたい。
結婚する気はあるのか?
そら 調べようがないからね。
でも なつの話では… 今はないと思う。
亜矢美さんはだいぶ落ち着いてきたから会いに来るなら今がチャンスかもしれないって。
後悔してるんだわ… 許せんな そいつは。
どっちが言いだしたことか分かんないんだよ。
そいつが悪いに決まってる!男が悪いに決まってるべ!
夕見子が聞いたら また それは固定観念だ何だって…。いや とにかく悪い! 男が悪い!
はいはい…。
このぐらいいつものあんたで なくなるんだから。
(泰樹)お前が行くのか?
私が行ってもいいけど 親が行ったらせっかく冷静になろうとしてる時にまた冷静でなくなる気がして…。
何言ってんだ。 夕見子が何と言おうと親が連れ戻さなきゃダメだ!
それで 余計傷つくのは夕見子だよ!
ここは… 昔 なつが言ってた慣れてない人がいいって。
慣れてない人?
じいちゃんに 優しくされたらつい 夕見子も素直な気持ちが出せるんじゃないかって。
甘えさせてやってや 夕見子を。
いや… 無理じゃ!
それから 数日後のことでした。
夕見… どしたの?
(夕見子)なつ…あんた うちの家族にしゃべったしょ。
えっ…。
裏切ったしょ!
なつよ どうする?