再び時代の扉が開いた。DDTのKO―D無差別級選手権(15日、東京・大田区総合体育館)は、竹下幸之介(24)が王者の遠藤哲哉(27)を破り、第72代王者に輝いた。2月に同王座3度目の戴冠を果たしながら4月に陥落したが、短期間で頂点に返り咲いた。若きエースの完全復活を支えたのは、意外なジャンルの“大御所”だ。
30分を超える激闘を制したのはクラシカルな技だった。竹下はファブル(スワンダイブ式スワントーンボム)、クロスアーム式ジャーマンで流れを引き寄せると、DDTきってのハイフライヤー、遠藤のシューティング弾をヒザで迎撃。顔面へヒザを入れて一気に形勢逆転し、ウォール・オブ・タケシタ(逆エビ固め)で締め上げる。一度はロープに逃げられるも、再度捕獲。引き出しの多さを見せつけて、4度目の戴冠を果たした。
試合後には21日の東京・後楽園ホール大会のV1戦で迎え撃つ英国からの刺客、クリス・ブルックス(27)がリングイン。「おめでとう。だけどお前は6日天下で終わる」と挑発されると「悪いけど俺はフォーエバー・チャンピオンや」と堂々応じ、歴代最多となる「V11」を記録した2度目の戴冠時を超える長期政権を約束した。
若きエースの心を駆り立てるものがある。「生まれた時代が間違っていたのかもしれませんね」と自身でも苦笑するように、リングを下りると意外な音楽の趣味を持つ。父の影響で1970年代フォークソングをこよなく愛し、フォーク界の大御所・吉田拓郎(73)に心酔する。ヒップホップ系やアイドル系には興味はなく、10代からカラオケに行くと吉田の名曲「春だったね」「旅の宿」「夏休み」などを歌い、周囲から浮きまくっていたという。
「吉田さんは決してエリートじゃないですよね。むしろ不良というか、生きざまは反体制を貫いている。若い時期の酔っ払った時のエピソードとか聞くと最高。吉田さんは広島県出身ですけど、僕は(大阪市)西成の出身だし同じように優等生ではない。歌を聴くたびに体を射抜かれるような思いにとらわれるんです」
くしくも吉田の実質的な初録音のオムニバス盤の題名は「古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう」(広島フォーク村名義)。まさに現在、竹下が置かれた状況とピタリ重なる。「まだまだ戦いたい選手はいる。今の竹下幸之介より俺のほうが強いと思う選手は、名乗り出てきてほしい」。今度こそ、新たな時代を動かす。