アカデミー賞を受賞したマシュー・マコノヒーと、同賞ノミネートを誇るウディ・ハレルソンが競演し、そのクオリティの高さで2014年のエミー賞で5冠を達成した米HBOのサスペンスドラマ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ <ファースト・シーズン>』。いよいよ4月20日(水)よりブルーレイ&DVDがリリースとなる本作の魅力を、毎回異なる評論家やライターが解説する企画がスタートした。1回目となる今回登場するのは、映画評論家の町山智浩。映画やドラマだけでなく小説、アメリカの文化などにも造詣の深い町山は、以下のように語っている。
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「70㎜フィルムで撮られたピントの浅い、夢のような映像。女性の死体が発見される。彼女は拷問された上、頭に鹿の角をつけた状態で見つかり、周囲には木の枝で作った魔除けが飾られていた。本作は、この儀式殺人を追う刑事コンビの物語。舞台はニューオリンズに近い、ルイジアナ州のメキシコ湾沿岸。これは一種の"南部ゴシック"だ。アメリカ南部はバイブル・ベルトと呼ばれ、聖書を字義通りに信じるキリスト教福音派が多いが、奴隷がアフリカから持ち込んだ呪術がカトリックと混じり合ったブードゥーやサンテリア、ヨーロッパ古来のまじない、いわゆるウィッチクラフトなども混在する。そんな迷信や因習に支配された神話的でグロテスクな南部の物語が南部ゴシックで、最近ではコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』や、ダニエル・ウッドレルの『ウィンターズ・ボーン』がある。しかし、ラスト刑事(マシュー・マコノヒー)だけは異分子だ。彼は、相棒のハート刑事(ウディ・ハレルソン)にこんな話をする。『人間の自意識は進化の失敗だった。人間は自己という幻のために苦悩する。我々は意味のある存在だと信じているが、実際は何者でもない。子孫を作るのはやめて、仲良く絶滅すべきだ』 彼のセリフは押井守監督の『イノセンス』で繰り返し語られる哲学とほとんど同じ。ラスト(錆の意)は、ある悲劇によって心が錆びついてしまっているのだ。『口の中に嫌な味がする。サイコスフィア(精神圏)の匂いだ』 サイコスフィアはヌースフィア(叡智圏)とも言う。ソ連の原爆開発のメンバーでもあった科学者が1920年代に唱えた考えで、簡単に言うと人類の知性の集合体のこと。普通は刑事が口にする言葉ではない。しかもその後、ラストは色を味として感じると告白する。これは、音を色として感じたり、形に味を感じたりする、シナスタジア(共感覚)と呼ばれる現象。これは見たことのないドラマになるぞという期待を裏切らず、殺された女性ドーラのノートからは『黄色の王』という言葉が発見される。ここでホラーやアニメのオタクは仰天するだろう。ドラマ内では説明がないが、King in Yellowとは、作家ロバート・W・チェンバースの短編集『黄衣の王』(1895年)に登場する謎の邪神で、日本のアニメにまで登場する有名キャラ。『黄衣の王』から、詞の一節がドーラのノートに引用されている。『二重太陽が湖に沈み/カルコーサに影が伸びる』