お気に入り記事の保存はアプリが便利!

logo_1101

2019-07-13

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・村田諒太選手がWBA世界ミドル級の王座を奪還した。
 と、スポーツニュース風に書くと、
 なんだか、そういうことはあるよねという感じになる。
 たしかに、それもそうなのだけれど、ぼくにとっては、
 大きなボクシングの試合というだけでない
 特別な、超一級のドラマを観た思いがあった。

 ボクシングの世界には体重別の階級があって、
 身体の小さな日本人選手は「ライト(軽い)級」の下の、
 「フェザー(羽)級」だの「フライ(蝿)級」だのと
 名付けられたクラスの試合を戦うことが多かった。
 そういうなかで、村田諒太選手は「ミドル級」の選手だ。
 まん中あたりの重さということになるわけで、
 強い選手もおおぜいひしめき合っているし、
 軽量級以上に世界的な注目を浴びることにもなる。
 オリンピックで金メダルを獲った選手が、
 ミドル級の世界チャンピオンになったのだから、
 村田諒太選手のもてはやされ方は、すごいものだった。
 しかも、天然にも思えるような愛嬌があった。

 ところが、2018年10月20日、9ヶ月前のラスベガス。
 ミドル級4位の挑戦者ロブ・ブラント選手に、
 かなり差のついた判定負けを喫した。
 33歳という年齢のこともあったのかもしれないが、
 この一試合に敗れ、王座から陥落したときから、
 (「もてはやされる」の反対語はなんだろうか)
 スポーツ紙などの扱いも寂しくなってしまった。
 勝負の世界は、ずいぶん厳しいものだなぁと思った。
 昨夜のタイトル奪回を賭けた世界戦についても、
 世間が期待してざわざわしている感じには思えなかった。
 テレビ中継でも「勝ったらすごいこと」という言い方で、
 敗れてもがっかりしないような予防線を感じさせていた。

 しかしそこから村田諒太は、すべてを跳ね飛ばすように、
 勝つために練習を積んできたことを、見事に実行して、
 王座を奪いとっていった男を叩き潰した。
 「悪い言葉だから、むかつくと言いたくないけど…」と、
 思わず漏らしてしまうような感情を、すべてぶつけた。
 人生を賭けていた試合だと、よく伝わってきた。
 アナウンサーや、水着のラウンドガールまで泣いていた。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
ボクシングで、これほど興奮したのは初めてかもしれない。


ここ1週間のほぼ日を見る コンテンツ一覧を見る