2019年05月25日 08時16分

コンビニ店主「もう生きていけない」 経営難でも近くに新店、ドミナントの実態

園田昌也 園田昌也
コンビニ店主「もう生きていけない」 経営難でも近くに新店、ドミナントの実態
コンビニ加盟店ユニオンの酒井孝典執行委員長(左)と中野和子弁護士[5月13日、編集部撮影、東京都]

疲弊するコンビニオーナーたち。原因の1つには、過剰な出店競争がある。売上を食われるだけでなく、労働力も奪い合いになり、人を確保できなければ、オーナーの労働時間は増える。

とりわけ、同じチェーンが近隣にできるドミナント(集中出店)については、味方のはずの本部から売上を削られることになり、オーナーたちの不満も大きい。本部側は「丁寧に説明」というが、抗議しても白紙になるのは稀。損失に対する補償があるわけでもない。

●本部のアドバイザーが新店に引き抜き

「うちは深夜のスタッフが定着していたから、ドミナントされても売上が多少落ちるかな程度にしか思っていなかったんです」――。

通り沿いに同じチェーンの新店舗ができると聞いても、長くコンビニを続けてきたオーナー夫妻はあまり動じなかったという。もちろん売上は減る。それでも十分生活できると思っていた。ある事件が起こるまでは…。

「深夜スタッフが引き抜かれたんです。その子が周りの同僚にも声をかけ始めました」

裏で手引きしていたのは、本部の経営相談員(OFC/SV)だったという。味方だと思っていたのに、「敵」に塩を送っていたというわけだ。本部からすれば、加盟店はすべて「ファミリー」かもしれない。しかし、加盟店にとっては他チェーン同様「ライバル」だ。

コンビニ加盟店ユニオンが5月13日に都内で開いた勉強会では、チェーンの枠を超え、およそ20人のオーナーらがドミナントの実態などを報告した。

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●ドミナントの影響、はっきり教えてもらえない

東日本のあるオーナーも、もうすぐ近隣に同じチェーン店ができるという。本部に不満を訴えたが、予定は撤回されなかった。

「店は住宅地にある。努力して住民と関係を築き、売上を伸ばしてきた。ドミナントが不安だと相談しても、本部の担当者は『売上が減る可能性はゼロではない』としか言わない」

少なくとも短期的には売上が減るだろう。加盟店が知りたいのはいくら減るか、いつまで減るかだ。しかし、担当者は何も教えてくれないという。

西日本のオーナーもこの春、ドミナントの計画を聞かされた。本部にどんな見通しで出店するのか、詳細を尋ねたが回答を拒否されたという。「既存のオーナーは尊重されていない」と怒りを隠さない。

別のオーナーの店の近くでも、新店の計画が進んでいる。十数年前にドミナントされたときは、日販が10万円以上落ちたといい、影響を心配している。

新店の候補地そばには、別チェーンのコンビニもある。「うちだけでなく、他のチェーンにも被害が及ぶ。何としても阻止しないといけない」。無論、他のチェーンのオーナーたちにも生活がある。

●陣取り合戦の駒にされるオーナーたち

地域をドミナント(支配)するには、他チェーンのコンビニを撤退に追い込めば良い。表面上は大企業間の「陣取り合戦」だが、その「駒」の多くは零細商店主であるコンビニオーナーだ。

たとえば、今年3月末で閉店したセブンイレブン東日本橋1丁目店(東京都)は、2010年にオープンすると、ローソンやファミリーマートなど、他チェーンを撤退させた。

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しかし2013年、そのローソン跡地に同じセブンが出店し、経営難に陥った。両者は直線距離で100mも離れていなかった。

店のオーナー齋藤敏雄さんは5月20日に都内で記者会見を開き、「(同じチェーンなら)同じ商品が置いてある。客は近い方に行く。共食いになる」と話した。

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齋藤さんによると、オープン後、担当OFCに言われるがまま大量の廃棄を出していたという。多く捨てることをいとわず、多く仕入れる。品揃えの良さが他店舗を撤退させる原動力にもなった。

一方で、コンビニでは廃棄のほとんどはオーナー負担(セブンは原価の85%)。店の利益が少なく、経営基盤がぜい弱だったことが、ドミナント後の苦境の一因になったと自己分析していた。

齋藤さんの経営力不足は否めない。しかし、チャージという形で経営指導料を得ている本部の方も未熟なオーナーを指導できていたと言えるだろうか。セブンのオーナー募集ページでは「未経験でも大丈夫」として、OFCが頼りになる存在として描かれている。

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齋藤さんは閉店の経緯についても納得しておらず、本部からの一方的な通告があったと主張。裁判も視野に今後の対応を検討しているという。

●赤字確定の低日販店にドミナント

ドミナントについては、弁護士ドットコムニュースのLINE@にも、さまざまなチェーンのコンビニ加盟店から体験談が寄せられている。

たとえば、関東のあるオーナーは最近200mほど先にドミナントされ、売上が10%以上落ちた。計画は水面下で進められており、オーナーが問いただしたことで、やっと本部が説明に来たそうだ。「自分たちのノルマと本部の利益しか考えていないと改めて実感しました」

別のオーナーは他チェーンを閉店に追い込んだところにドミナントされ、売上が落ち込んだ。「(売上を)育てた途端に本部に横取りされた」と怒りを隠さない。

「このままじゃ、もう生きていけません」と言うのは、ある地方のオーナー。車ですぐのところに近々、同チェーンの店がオープンするという。

「本部の言う通りに発注していたら、500万円ほどあった貯金がなくなってしまいました。オープンから5年以上たち、売上はようやく平均に近づいてきましたが、人件費が上がり、自分がシフトに入りっぱなしでもギリギリの生活です」

今度のドミナントで赤字は間違いないという。しかし、本部に抗議しても生活費を下げろと言われるだけだという。学齢期の子どもがおり、将来の不安は募るばかり。

「日販が高い店の近くにドミナントするならともかく、それほど高くない店の近くにもう1店舗出したらどうなるかは分かっているはずなのに…」

●ドミナントには記録やシミュレーションで対抗

ドミナントの計画を伝えられたとき、加盟店に成すすべはないのだろうか。

コンビニ加盟店ユニオンの顧問で、長年コンビニの問題に取り組んできた中野和子弁護士は、5月13日の勉強会でドミナントを回避できた事例を紹介し、記録やシミュレーションの重要性を指摘した。

中野弁護士が知るドミナントを回避した店舗は、駅から住宅地への途上にあったという。駅近くの出店計画が持ち上がり、客を奪われる恐れが出てきたそうだ。

そこでオーナーは、店に地図を置いて、客がどこからやってきたか、シールを貼ってもらったという。店の「商圏」を具体的に把握するためだ。そうすると、新店舗ができたとき、売上がどのくらい減るかの推計ができる。これが本部との交渉材料になったという。

「ドミナントの話が出てきたら、本部の話をきちんと録音するようにしてください。その上で自分の商圏を調べる。本部に新店の商圏がどこなのかを聞くことも大事です」

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とはいえ、中野弁護士が知る事例はこの一件だけ。実際にドミナントを回避するのは困難かもしれない。

そこで中野弁護士は、ドミナントされたら前後の客数や数字など、売上への影響をきちんとまとめておくべきだと指摘する。

「減った売上を回復するため、本部は補償しないのか。コンビニのロイヤリティーは宣伝や、システム・商品の開発のためだけではなく、経営指導料も入っている。指導して儲けさせるという契約でもある。数字の回復を求めていくことも必要だ」

この場合も重要なのは、できるだけ正確な記録だ。

ちなみに韓国など、フランチャイズのドミナントについて距離や利益減の幅などで一定の制約をかけている国や地域も一部存在するという。

(弁護士ドットコムニュース)

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