たった4問でわかる!ギャンブル依存症スクリーニングテストLOST誕生
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会 代表)
【まとめ】
・ギャンブル依存症の早期発見・治療のために「LOST」開発。
・「LOST」はセルフチェック可能な4問のみのスクリーニングテスト。
・ギャンブル「愛好家」と「依存症者」では開始年齢等で顕著な差。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43629でお読みください。】
■ 開発に至る背景
2017年9月厚生労働省より、「ギャンブル依存症生涯罹患率推計:成人人口の3.6%およそ320万人」、「直近1年のギャンブル依存症罹患率0.8%およそ70万人」と推計が出された。
また2018年7月には特定複合観光施設区域整備法(IR実施法)いわゆるカジノ法案が成立したことから、ここ最近にわかにギャンブル依存症への関心は高まってきたが、対策はまだまだ不十分でありこの問題で苦しんでいる当事者・家族の殆どの人々は支援に繋がれていない。
そこで我々は、国の動きばかりを待ってはいられないと思い、ギャンブル依存症対策推進を願う研究者(国立精神・神経医療研究センター 精神科医 松本俊彦/筑波大学 医学医療系 精神科医 森田展彰)、民間企業(株式会社 NTTデータ)、民間団体(公益社団 ギャンブル依存症問題を考える会)が一丸となり、調査・研究そして連携を進め、「早期発見、早期治療を実現するために何が最優先で必要か?」を考え、誰でも簡単かつ手軽にセルフチェックができる、スクリーニングテストを開発するに至ったので、詳細をお知らせしたい。
▲写真 森田展彰医師 出典:筑波大ホームページ
これまで、ギャンブル依存症のスクリーニングテストには大別すると
1)South Oaks Gambling Screen(通称SOGS)
2)DSM-5
3)「20の質問」
という3種が使われていた。
しかしながら、「算出方法が面倒」「質問数が多すぎる」「ギャンブル依存症者の対照群が一般人となっているため過剰診断になりがち」などという欠点があり、一般に広く用いられるには至っていなかった。そのためギャンブル依存症の予防教育や、早期発見、早期診断が実現せず、重症化してやっと家族が相談に訪れるという具合であった。
こういった背景の中、我々はこれらの欠点を補うべく、
1)質問数が少ない
2)誰でも簡単にできる
3)ギャンブル愛好家と依存症者が弁別できる
という3つの条件を兼ね備えたスクリーニングテストをまずは開発すべきという結論に至った。
特に3番目のポイントは非常に重要で、ギャンブルというのは、アルコールと同じく、そもそも違法ではなく、趣味や娯楽として楽しんでいる人達が大半である。そしてそのうちの一部の人達に「依存症」という病気が発症するのであって、その境目がどこにあるかを知ることは非常に重要であると考えた。
▲写真 出典:社団法人ギャンブル依存症問題を考える会facebook
開発にあたっては、当会に繋がりのあるギャンブル依存症当事者のメンバーと、ネットで調査会社を通じリクルートしたギャンブル愛好家の両方に、我々が「SOGS」「DSM-5」「20の質問」を参考に考え出したオリジナルの質問を行い分析し、さらにその結果が妥当かどうかをSOGSで検証することにした。
ギャンブル愛好家のスクリーニングの条件は、
1) 直近1年ギャンブルの実施回数が3回以上
2)ギャンブルの経験年数が3年以上
3) ギャンブルのために借金をしたことがない
4)回復支援グループや施設に行ったことがない
5)ギャンブル場にて強制退場の経験がない
6)ギャンブルの資金集めのために窃盗や横領等を行い、逮捕されたことがない
というものである。
■ 興味深い結果
これらの質問調査では、非常に面白い結果が得られ思わず研究者の先生方と共にうなってしまった。
このテストは22問の質問から構成され、前半の7問は性別や年代、これまで経験したギャンブルの種類など、基本的情報に関する質問、後半の15問がスクリーニングテストの本体となるオリジナルの質問となっているのだが、ギャンブル愛好家と依存症者の差が顕著であったものは以下のとおりである。
まず、ギャンブルの開始年齢の平均値である。ご覧の通り歴然とした差があり、ギャンブルを早く始めればそれだけ依存症のリスクが高まることが示唆された(※グラフ1)。確かに周囲のギャンブル依存症の仲間達も、殆どがギャンブルを10代で始めたと言っており、現在、公営ギャンブルの解禁年齢が20歳であるのに対して、パチンコだけが18歳で解禁となっている点も再考の必要があるのでは?と考えた。
▲グラフ1
さらに、ギャンブルに最も費やしていた日数と時間の比較(※グラフ2)では、
▲グラフ2
と、こちらも大きな差となった。ギャンブル愛好家(青)よりも依存症者(オレンジ)の方がはるかに多い時間と日数を費やしている。
また、両者にSOGSに答えて貰うと、5点以上がギャンブル依存症者と示唆される所、以下のような結果となり、この対照群が明らかに愛好家群とギャンブル依存症者に弁別されていることがわかった。
▲グラフ3
さて、スクリーニング本体の質問15問を解析していくと、愛好家と依存症者の間にあきらかな有意差が現れるのもがあった。有意差がでたものは9問となった。
【A】:病的ギャンブラー群 N=195
【B】:ギャンブル愛好家群 N=190
▲図
ギャンブル依存症者の私から見るとこの結果は衝撃的であった。
「えっ?普通の人はギャンブルの金ギャンブルで取り返す!って思ってないの?」「ギャンブルの予算なんて決めるの?それ守れる人なんかいるの?」と、自分たちの方がマイノリティであったことを知り、改めて自分の病気の深さを思い知った気がした。
さらにここから解析をかけていくと、4つの項目が抽出され、これを我々は「重要4項目」と名付けることにした。
■ 重要4項目LOSTの誕生
さて、解析の結果偶然にも4つの重要4項目が浮かび上がってきたわけだが、当初我々はこれをただ単に「重要4項目」と名付け学会発表と論文化の準備をしていた。ところが、アルコール問題の市民運動を30年に渡って続けてこられたNPO法人アスクの今成知美代表に出来あがったばかりの論文を読んで貰った所、「これは素晴らしい!アルコール依存症向けのスクリーニングテスト『CAGE』にあたるものだから、絶対に覚えて貰いやすい名前をつけて、多くの人に使って貰うべき。」とアドバイスを頂いた。
▲写真 特定非営利活動法人アスク 今成知美代表 出典:アスク ホームページ
そこで我々は重要4項目を様々な英単語で表現し、並べ替えを行い、検討を重ねた結果「LOST」というキーワードにたどり着いた。覚えやすく、数々のものを失ったギャンブル依存症者にぴったりのネーミングとなったと自負している。そのLOSTがこちらである。
ご自身のギャンブル問題が気になっている方は是非お試し頂きたい。
Limitless
1. ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
Once again
2.ギャンブルに勝ったときに『次のギャンブルに使おう』と考える
Secret
3.ギャンブルをしたことを誰かに隠す
Take money back
4.ギャンブルに負けたときにすぐに取り返したいと思う
この4つの質問に自分の1年以内のギャンブル経験が2つ以上あてはまったら、あなたはもうギャンブル愛好家ではなく、ギャンブル依存症に罹患している可能性がある。早めに相談機関を訪れることをお勧めする。
ちなみにアルコールのスクリーニングテスト「CAGE」とはWHO(世界保健機関)が名づけたものだ。
同じく4つの質問でできる簡易スクリーニングテストで、質問の頭文字をとって「CAGE」と名づけられている。アルコールの飲み方が心配な方はこちらのテストをやってみて欲しい。
Cut down
1.あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?
Annoyed by criticism
2.あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか?
Guilty feeling
3.あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?
Eye-opener
4.あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?
以上、4つの質問に2つ以上「はい」があれば、アルコール依存症が疑われ早めの受診を勧められている。
ご存知の通りCAGEは英語で「鳥かご」「おり」「捕虜収容所」といった意味があり、酒に人生を閉じ込められてしまう、アルコール依存症者の啓発には実にマッチした単語となっている。
■ LOSTの目的
これまでギャンブル依存症のスクリーニングテストにこのような簡便なものがなかったため、早速日経新聞さん(2019年1月3日電子版)にも取り上げて頂いた。また、著名な精神科医の斎藤環先生にもTwitterで「画期的」とつぶやいて下さっている。
▲写真 松本俊彦医師 出典:松本氏facebook
このLOSTの開発に関わって頂いた、国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部部長の松本俊彦医師は、「LOST」の目的について「地域の保健機関でギャンブルの相談が来た時に、愛好家なのか治療が必要な方なのかを見分けるために簡単に使って頂けると思う。
また「一般のご家庭にある家族のギャンブルの問題が相談する必要にあるレベルかどうか、診断ではなく気軽に使って欲しいと思っている」「医療機関などでは逆にギャンブルの問題を幅広く取り過ぎていて、全然依存症ではない方を依存症のプログラムに入れたりということもたまに起きているので専門家にも愛好家との弁別に使って貰えたらと願っている」とも語っている。
▲写真 イメージ 出典:Pixabay
私も、まずはこのLOSTを多くの方々に知って頂くことが第一の目標であるが、将来的には企業や自治体の健康診断や、ギャンブルによる借金問題に関わる弁護士・司法書士さんにもクライアントの動機づけのために使って頂くなど幅広く活用され、ギャンブル依存症の早期発見、早期解決に役立つものとなって欲しい。
尚、「LOST」の解析方法などについて詳しい論文は、近日中に学会誌に発表される予定だが、論文のPDFをご希望の方は、こちら 迄。
また「LOST」は、大学生の深刻なギャンブル依存症が蔓延していることを危惧し、若者に手軽に使って頂けるようLINEアプリとなっている(※下記参照)。大学や専門学校の学校関係者などには、このラインアプリを生徒にダウンロードを促し、啓発に役立てて頂きたい。
人生を、ギャンブルに奪われてしまう人が、一人でも少なくなることを心から願っている。
▲「ギャンブル依存症問題を考える会」のLINEサービス
トップ写真:イメージ 出典:Pixabay
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。