【7月11日付編集日記】ミカンの酵母

   

 発酵食品などに使われる酵母は、食生活を支える身近な微生物の一つだ。酵母の働きでパンなどの食品をはじめ日本酒、ビールなどの酒類がつくられ、食卓を豊かにしている

 ▼発酵・醸造学が専門の東京農大名誉教授の小泉武夫さんは、多彩な微生物の能力について「人間はまだ、ほとんど利用していない」と指摘している。微生物は種類が多く、未知の能力を持つ微生物が見つかる可能性は無限にあるという(「超能力微生物」文芸春秋)

 ▼いわき市の福島高専は、広野町のミカンから酵母とみられる微生物7種類を発見した。同校の学生らが昨年から、パンなどの特産品開発に向け、同町産のミカンにこだわって酵母を探し続けてきた研究活動が、ようやく実を結んだ

 ▼研究は福島イノベーション・コースト構想の一環で、新たな特産品をつくり広野町の復興を後押しする取り組みだ。学生らは今月、ポルトガルで開かれたタンパク質研究の国際会議に参加して研究の成果を発表、活動に弾みをつけた

 ▼同町のミカンは生産の北限とされ、町民らが大切に育てている。地域住民が誇る特産品から見つかった酵母が、味わい深く魅力ある地域づくりにも効果を発揮してくれるのを待ちたい。