文科省が共通テストの出題方針を発表
文部科学省は6月4日に「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱」で、新しい「大学入学共通テスト」の実施日程は2021年1月16日(土)および 17日(日)と定めました。これまで不確実だったことは徐々に確定要素として公になりつつあります。
大学入試センターは6月7日に「出題教科・科目の出題方法等」と「大学入学共通テスト問題作成方針」で、問題作成の基本的な考え方とねらい、範囲、教科・科目ごとの方針を明らかにしています。高等学校学習指導要領が目指す資質・能力を踏まえて、知識の理解を問う問題や、思考力・判断力・表現力を発揮して解く問題が重視されるという方針、そして具体的な出題形式についても明示されています。
記述式問題の出題形式を発表
- 国 語
- 国語の記述式問題は、小問3問で構成される大問を作成。実用的な文章を題材とするものと、論理的な文章を題材とするもの、または両方を組み合わせたものにする。解答字数は、もっとも長い問題1問を80〜120字程度を上限として設定する。
- 数 学
- 数学は、「数学Ⅰ」および「数学Ⅰ・数学A」 の数学Ⅰに関わる問題に設定。マーク式問題と混在させた形で、数式等を記述する小問3問を出題する。
そのほか、前の問題の答えとその後の問いの答えを組み合わせて解答させる連動型の問題や、教科書等で使われていない資料も扱う可能性についても言及されています。以前の情報が更新され、選択肢のなかに複数の正解がある問題は、出題されないことになりました。
出題の形式が違っても、学習指導要領に準ずるのはセンター試験と同じなので、勉強すべき内容が変わるわけではありません。しかし、いくら方針が伝えられても、その新しい出題形式を具体的に体験しているか、していないかでは大きな差があります。
共通テストには「過去問」がない
どんな競技の試合でも、初めての対戦相手については情報を集め、さらに練習試合で自分の力を知るべきでしょう。従来、その役割を果たしてきたのは過去問と模擬試験でした。河合塾が現中学2年生から高校3年生の600組の親子を対象に行った新入試に対する意識調査によると、2人に1人が不安要素として記述式問題の導入を挙げています。そして、「受験勉強における心の拠(よ)り所」は、親子とも「過去問」がトップ(下図)。今も昔も、過去問をたくさん解くことで、自信を得ていったと思われます。
- Q受験に対してあなたが心の拠り所にしている/していたものは何ですか?
(複数回答) -
[対象]都市部(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府)/都市部以外の地域において
大学受験を予定している中学2年生~高校3年生の男女、同一の親子(n=600)生徒 保護者
共通テストには、その「過去問」がありません。そこで、河合塾は初めてのテストに臨む受験生のために、19年6月9日に無料で、国語・数学・英語3教科の「大学入学共通テスト トライアル」を実施しました。大学入試センターが公表したテスト問題作成方針と配点に沿い、17・18年に実施された試行調査の難易度を参考に、1回目の共通テスト受験生になる高校2年生を対象として、オリジナルで作った予想問題です。塾生以外も自由に参加できるため、全国から6万3千人の申し込みがあり、約80%の高い出席率で実施されました。受験者のうち約20%が1年生。意識の高さを表しています。
「大学入学共通テスト トライアル」成績結果 ≪速報≫
「トライアル」の経験を勉強方針に生かす
「記述問題があること」「長い文章題を読まなければならない」などがわかっていても、いざ試験に対すると、問題のボリュームや解答の書き方に戸惑う場面があったと思われます。6月9日にトライアルが行われると、参加した高校生たちからたちまち「難しかった」「意外に易しかった」「自己採点はこのくらい」などと感想ツイートが上げられました。
- 英語について
「量が多い」という感想が多く見られました。リーディングは80分で文章題が6問あります。センター試験の「筆記」のように、発音、アクセント、語句の順序などを単独で問う問題はありません。すべて長文読解なので、ひたすら読み込む根気が必要です。ペースをつかむのが大変だったのではないでしょうか。そして、リスニングは30分で六つの文章が読み上げられ、それぞれの問題に答えます。1回しか読み上げない問題もあるので、集中を途切れさせないことが必要です。単に聞き取るだけでなく、聞いた内容をもとに考え、答えを導き出すことが求められます。
2019年度 大学入学共通テスト トライアル問題
英語(リスニング) から- 数学について
記述問題が独立してあるのではなく、一つの大問のなかにマーク形式で選ぶものと、記述で答える問題が混在しています。ところが記述式の解答欄が空白で、マーク式問題だけはしっかり全部答えている答案が目立ちました。おそらく後回しにしたのでしょうが、同じ文章題なのですから、マーク式と記述式の問題を一つの流れで解くほうが効率はいいはずです。数学は単に“xの値を求める”というような問題から、数式を書かせ、“思考の過程”を見る問題が試行調査でも出題されています。
2019年度 大学入学共通テスト トライアル問題
数学(数学Ⅰ・数学A・数学II) から- 国語について
- 記述問題は「書きやすい」という感想が目立ちました。一つの文章を読ませ、それについての問1〜問3の小問に記述で答える設定です。この3問の記述は配点には含まれず、A~Eの「5段階評価」になります。なかには「第1問に時間をかけすぎて、後半の問題を解く時間が足りなくなった」という声も見られました。時間配分は今後練習していく必要があるでしょう。
試験は受けることが目的ではない
今回のトライアルの大きな特長は、成績結果を受け取るときに、河合塾の講師による解説講義が受けられることです。各問題について、どう考えればよいか、今後どんな勉強をしていけばいいか、自分の学習指針がわかります。模擬試験とは数多く受ければいいというものではなく、できなかった問題に意識を向けて、解答を見て「あーっ、そうか!」と理解するのが一番身になります。忘れてはならないのが、こうした試験はアウトプットの練習であり、高校で学んでいる内容のインプットをしていなければ意味がないということです。
トライアルの結果は集計・分析のうえ、今後の河合塾の夏期講習や冬期講習の授業や教材にも生かしていきます。各設問の正答率から、特に押さえておくべき内容を盛り込み、より精度の高い教材を提供します。さらに来年2月に開催する「全統共通テスト高2模試」も、今回のデータを基にした予想問題になります。いよいよ本番まで1年を切る時期に、志望校判定もわかる全教科の模擬試験です。今、まず受験生がやるべきことは、2月の模擬試験に向けてのインプットでしょう。記述問題への対応などアウトプットの練習は、高校や予備校の授業のなかで「この問題はこんな風に書くのだな」と意識していくといいと思います。
本番の「大学入学共通テスト」をはじめとする新しい大学入試の詳細は、これからも順次、文科省や各大学から方針が発表されていきます。刻一刻と変わる情報を素早くキャッチして、解き方の経験を積むことは非常に大切です。過去問が存在しない“新しい入試”に対して、河合塾独自の情報網と講師のノウハウをもとに精度の高い予想問題を提供するのは予備校の使命だと思っています。夏期講習や冬期講習、模擬試験の中にも「過去問」の役割を果たすものが盛り込まれているので、大いに利用して、変化する大学受験に対応していってほしいですね。(談)