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貧乏な人が豚肉と麺をたくさん食べるワケ

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現代人は日頃どんなものを食べているのか。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」を調べた統計データ分析家の本川裕氏は、「とりわけ『食料に困っている者』は全体平均に比べ、米や小麦などの穀物や豚肉を多く食べていることがわかった」という――。

連載をはじめるにあたって

今回からスタートする本連載では、日々、公表される統計データの中から、かなり興味深い内容であるにもかかわらず見逃されてしまっているものを主に取り上げ、読者の好奇心や日頃の関心に応えようと考えている。

例えば、一般に考えられている常識や価値観とは異なる方向の動きを統計データが示していたり、政府やメディアが自分たちの主張に沿うかたちで取り上げている統計データが、実は、それとは異なる内容を持っていたりする。「統計探偵」を自負する筆者が、そんな「意外な事実」を紹介していきたい。

また、データの信ぴょう性の根拠、あるいは間違った読解につながりやすい落とし穴など、官庁統計をはじめとした各種の統計データの読み解き方も分かりやすく解説していく。「統計リテラシー」の向上にもお役立ていただきたい。

豚肉は貧乏な人の味方だった

連載初回のテーマは「貧乏な人は何を食べているか」である。

指標となるデータをどう作成したかは後ほど解説するとして、まず、目につく結果から見てみよう。

お腹を満たす食事に傾斜するなかで豚肉は貧乏な人の味方

食料に困っている者を貧乏な人、あるいは生活困窮者ととらえ、その食物摂取量について、全体平均に対する比率を図表1に掲げた(調査対象者全体の食物摂取量の平均を「100」とした)。

「食品区分」別に見ると、全体的に困窮者の食事量は「100」を下回り少なくなっている。

例えば、「果実」など値段の高い食品は食べる量が平均よりかなり低くなっている。動物性のタンパク源としても、近年は値段が安いとはいえなくなった「魚介類」のほうが肉類より摂取量が少なくなっている。

ところが、米や小麦などの「穀物」だけは平均より多くなっており、おなかを満たす食事に傾斜していることが分かる。また、「菓子類」「酒・飲料」は嗜好品的な側面も強く、節約してもよさそうなものだが、実際は、他の栄養食品と比較して、そう少なくなってはいない。

「肉類」に関して少し掘り下げ、牛肉・豚肉・鶏肉の種類別に見ていくと、比較的値段が高い「牛肉」の摂取量が平均より2割も少なくなっていた。では、貧乏な人が食べる率が一番高い肉は何か。最も値段の安い「鶏肉」と予測したが、そうではなかった。中間の値段の「豚肉」を食べる比率が最も高かった。生活に困っているからといって、「穀物」などでおなかを満たすだけの食事になっているわけではないのであろう。

「経済的な理由で食料の購入が難しいことがあったか」

貧しい人は、他の人に比べ「穀物」摂取量が多い一方、他の「果実」「魚介類」「肉類」など他の食品の摂取量は低い。そして、「肉類」の中では「豚肉」が最も好む。

非常に興味深い調査結果であるが、本当にこう判断できるだけの信頼に足るデータなのであろうか。また、「肉類」以外の食事についての詳細はどうなのだろうか。こうした点について以下にふれていこう。

「貧乏な人は何を食べているか」。この命題に関する統計データはありそうでなかなか得られない。厚生労働省が毎年調べている「国民健康・栄養調査」は、具体的な食事内容の調査によって食品の摂取量を調べ、その結果から栄養摂取の状況を算出している。

この「国民健康・栄養調査」では毎回、次の3つの調査が行われる。「栄養摂取状況調査」「身体状況調査」(食事の内容や肥満・血圧などの身体状況)、さらに、「生活習慣調査」(20歳以上対象で健康・栄養についての実態や意識を調べる)である。

「生活習慣調査」の調査項目には継続項目と単年度項目とがあるが、2014年には、単年度項目として「経済的な理由で食料の購入が難しいことがあったか」という設問を設け、これと調査日(平日)における家庭での料理の献立や外食内容を記録する「栄養摂取状況調査」の結果とをクロスさせた集計を行っている。

所得階層別の集計ではないが、食料に困ることがあったかどうかという直接的な貧困現象でクロスした集計を行っているので、むしろ、実感的に分かりやすいデータになっている。この集計結果から、生活困窮者(貧乏な人)は何を食べているかを探ることができるのである。

大手メディアがスルーした調査結果の「衝撃的事実」

食料に困ることがあったかという設問の回答者数は図表2の通りである。

貧乏人の定義

「過去1年間に経済的な理由で食物の購入を控えた又は購入できなかった経験は」という設問に対して、「よくあった」が373人(4.9%)、「ときどきあった」が1078人(14.1%)という結果であり、両者を合わせた2割弱を生活困窮者(貧乏な人)とここではとらえることにする。

回答の分布とともに、回答者数そのものの多さに注目してほしい。困窮者1000人以上を含むトータル7630人からの回答を得ている。内閣支持率に関する新聞社の調査などはせいぜい回答者数が1000人程度。7630人ということは、それに応じた精度の高さが期待できるのである。

しかも、若干人数は減るが、食材の重さをはかりで量りながら、調査日における食事内容を記入してもらう栄養摂取状況調査にも回答した人の結果なのであるから、投入される回答者の労力を考えると国の統計以外ではまず不可能な調査だという感が深い。

こんなに「すごい」調査であり、また、経済困窮度とのクロス集計が極めて興味深い内容を含むものであるのに、その結果は一般の関心をひかなかった。厚生労働省により、全体報告書にせんだって公表された「結果の概要」にはそうしたクロス集計結果が記載されなかったので、それを読んで報道することが多いメディアの記者たちも気がつかなかったのである。

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