都道府県で唯一、福井県にはイオンの大型店がない。昨年、隣接する石川県小松市に大型のイオンが開業すると客が流出。福井県内の商店業者は異例の連携に踏み切った。イオンを拒んだ町と受け入れた町。その綱引きが象徴するのは、人口減少ニッポンの各地で起きている都市間の生き残り競争だ。
「福井にはだまされた」。イオンの岡田元也社長はそう吐き捨てる。言葉の真意は語らないが、福井に感情的なしこりがあるのは明らかだ。「イオン」や「イオンモール」などのグループの大型店は国内810店。多い県は60店を超えるが、福井には1店もない。
「ここができて、エルパには行かなくなった」。2月末、福井市に住む大学4年の女子学生は、1年ほど前にできた「イオンモール新小松」(小松市)を訪れた。クルマで1時間強かかるが「距離は気にならない」という。
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「エルパ」とは福井市最大のショッピングセンター(SC)のこと。地元商業組合とスーパー大手のユニーが共同運営する。同組合の竹内邦夫理事長は「目に見える(イオンの)影響はない」と強調するが、イオンの新店を訪れる客の約2割は福井県民とされる。
「やっぱりふくいがおもしろい!」。17年8月7日、地元の福井新聞に見開きカラーの全段広告が載った。エルパや百貨店の西武、ショッピングシティ・ベル(福井市)といった大型商業施設の共同広告だ。
従来はライバル同士だが、県外にできたイオンに危機感を強め手を組んだ。西武福井の大野仁志店長は「敵の敵は味方」と苦笑する。10月にはさらに商店街連合会も加わり、「オールフクイ実行委員会」が設立された。
同実行委員会の関係者は、福井新聞に出す広告について「半額近い割引を受けている」と打ち明ける。イオンの出店を機にエルパは市や県から補助金も獲得。行政、メディア、商業連合とまさに福井が一丸となってイオンに対抗する異例の事態となった。
「イオンVS福井」という構図が生まれたのは15年前だ。2003年、イオンの前身であるジャスコと地元の商業組合が共同運営する福井市のSC「ピア」が閉店。跡地利用を巡り両者は対立し、07年には裁判に発展した。2年後に和解するが、新たな大型施設を開くというイオンのもくろみはついえた。
この裁判と前後する06〜07年ごろ、実はイオンは福井県鯖江市への出店を計画していた。だが県や周辺市、周囲のSCの反対に遭い頓挫した。
「あれほどのチャンスはなかった」と牧野百男鯖江市長は言う。北陸新幹線の延伸に伴い、鯖江には特急が停車しなくなる。「3年ほど前から再開発計画がなにもなくなった。まちづくりの核となる打ち手がない」と嘆く。
大型SCは計画から開業まで5〜10年ほどかかる。地元との協議が難航しそうな地域は優先度が下がる。
鯖江への出店交渉の経緯を知る元イオン幹部は「何がなんでもやれという案件ではなかった」と話す。福井から他県への人口流出は当時から明らか。出店にかかる労力と、人口が全国43位という市場をはかりにかけた結果が「唯一イオンがない県」というわけだ。
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一方、イオンを受け入れた石川県小松市。当初は誘致に反対だったが、後に賛成に回った石川県議会議員がいる。小松市の商店街出身の福村章氏だ。
「もともとはイオンの出店を遅らせ、その間に商店街を活性化するつもりだった」と福村議員は話す。だが後継者難や空き物件などの問題で、商店街の再開発は思うように進まない。そのうち「うちが拒んでも、他所にイオンができれば消費が流出するだけだ」と考えを改めた。
福井で見たのはかつての「イオン対地元」ではなく、地域対地域の生き残り競争だ。2015年の国勢調査では、全国1719の市町村のうち82.4%が前回調査から人口が減少した。地方都市には「隣の都市に負ければおらが町はなくなる」という危機感が強まっている。
そしてその危機感は、イオンにも共通する。イオンの巨大施設はコンビニのような小型店と異なり、時間がたつにつれ地域のインフラになる。安易な撤退は地元の反感を呼び、福井のような空白地を増やす結果にもなりかねない。人口が減る地域でも撤退せずに収益性を高めるという難題を、イオンは突きつけられている。
17年3月、千葉・幕張のイオン本社。岡田社長は経営陣が居並ぶ会議で声を張り上げた。「ある県知事に『イオンさん、こんなに商売のことを考えないでいいんですか』と言われた。本当の話だ。地域貢献は大事だが、もっと真剣にもうけることも考えろ」
イオンの店舗拡大は、地元商業者との対立とセットで語られてきた。だがそれは過去のものだ。地域同士が魅力ある器を取り合い、商業者は出店地を選別する時代。互いに選ばれる存在にならなければ、衰退の道が待つ。
(中川雅之)