第十四話:おっさんはカジノに行く
世界最大の商業都市ゴルドバランに繋がる雲道を見つけた。
船を取り出し、飛び乗ると雲の道を滑り落ちていく。
「うわぁ、はやっ。前より、さらに速いね!」
「んっ、風が気持ちいい」
「下りだからスピードが出るんだ。振り落とされないように注意しろ!」
「エルリク、おいで。ルーナが抱きしめとく」
「きゅいっ!」
浮遊大陸から、地上の都市を目指すのだから当然の結果として雲の道は下りになる。
通常では出せないとんでもないスピード。
安全のため、スピードを落としておきたいが、とっくに動力は切っており、これ以上スピードは落とせない。
危険なのは下りのカーブが待ち受けている上、ガードレールなんてものが存在しないからだ。曲がりそこねれば、一発でコースアウト。
かなり神経を使う。
「ゴルドバランは一回行ってみたかったんですよね。思いっきりショッピングがしたいです」
「私もよ。あそこは有名だから」
「なにせ、世界最大の商業都市だからな、世界中からものが集まる」
世界最大の商業都市ということは、世界最大の市場であるということ、あそこほど様々な物が集まる場所はない。
そして、その物に引かれて人が集まってくる。人が集まれば活気がでてくる。
あそこには何もかもが揃っている、夢と欲望の街。
「そういえば、あそこはカジノでも有名だったわね。……それも二つ。一つは世界最大のカジノ、もう一つは人間じゃない、神様が運営するカジノ」
「あっ、それ私も聞いたことがあります。けっして、人の手じゃ作れない神々の品物が手に入るって」
「なんだ、二人は知っていたのか」
「これでも、一国の姫よ」
「私はギルド嬢でしたから」
それもそうか。
二人の立場を考えれば、アレを知らないほうがおかしい。
「二人の言う通り、ゴルドバランにはカジノがある。それも目的の一つだな。俺が作りたい装備の材料に、そこでしか手に入らないものがある。神々によって生み出された奇跡」
「ちょっと待ってください。神様のカジノって、ものすっごく難しくて、お金を増やすことなんてできないって話ですよ。ほしい品物のために交換用のコインを買って交換するのが一般的だって言われてます」
……正直、驚いた。
そこまでの情報が出回っているのか。
フィルの言っていることは正しい、普通のゲームであればゲーム内カジノは期待値的にはプラスになるように設計されている。
時間をかければ、よほど運が悪くない限りコインが増えていくのだ。
しかし、プレイヤーを苦しめることに血道を上げる、このゲームの開発者はそんなぬるい設計はしない。
手持ちコインが容赦なく減る。がんがん減る。どのゲームも還元率は大凡六割程度に設計されている。すべての客が出した金の総量が四割消えてしまうということ。
その還元率であれば、勝てる奴もいることはいる。
問題は、ここでしか手に入らない、神々によって生み出された品々の数々がべらぼうに高いこと。
ベットできる金額に制限があり、マックスまでかけても一回や二回、勝ったところではまったく届かない。
運良く、たまたま勝てることがあるだろう。だが、連勝しないとほしい品に届かないという性質上、やり続けて、いずれ確率は収束してトータルで負ける。
そうして、プレイヤーが初期に出した結論は一つ。
カジノをやって持ち金が減り続けるなら、金で必要な枚数コインを買って景品と交換すればいいんじゃない?
その結論に、こちらの住人も到達したようだ。
「それ、つまらない。ルーナ、カジノやってみたい」
「カジノってあれだよね。お金をかけてゲームするやつ! 楽しそうだよ」
「でも、確率的には負けてしまいます。それで、ユーヤの欲しがっているアイテムって、どれぐらいかかるんですか」
俺は淡々と値段を告げる。
「それ、大都市に大きな屋敷が買える値段じゃないですか!?」
「それでも、【三竜の祭壇】で手に入れたアイテムをうまくオークションで売れたらなんとでもなる……ただ、まあ、それをすると、オークションで買う側に回った際に軍資金が心許なくなるが」
「悩ましいですね。人の手では作れない、ダンジョンでも手に入らないものですから、お金でなんとかなるなら、手に入れるべきですし……でも、そんなお金」
「心配することはないわ。この後の展開は見えているもの。普通なら勝てないけど、ユーヤおじ様はなにか知っているのでしょう?」
俺は口の端を吊り上げる。
「ばれたか、普通じゃない方法を使えば勝てる。とはいえ、今回は裏技とかそういうのじゃなくて、だいぶ力技というか……そろそろ雲の道のクライマックスか。全員、ここから俺がいいと言うまで絶対に口を開くなよ。舌を噛む」
背後で頷く気配を感じ、その数秒後、下りの傾斜がさらにきつくなり、急カーブが見えた、全力で舵をきる。ぎりぎりで曲がり切るとさらに逆方向の急カーブが待ち受ける。
凄まじいGがかかり、外に膨れて、雲道から落ちそうになった。
……楽な移動法として用意されている雲の道なのに、なぜこうも無駄に事故りやすくしているのだろう。
◇
最後まで雲道を乗りこなし、そしていよいよゴールが見えた。
雲の道が終わり、空に投げ出される。
フィルとセレネ、ティルの悲鳴が聞こえた。ルーナは無表情で無言だが、しっかり尻尾の毛は逆立っている。
重力に従い、どんどん落ちていく。
なるべく船体を起こして空気抵抗を大きくし、少しでも落下速度が上がらないように工夫する。
そして、着陸寸前、数十分に一度しか使えない逆噴射でいっきに減速。
減速したとはいえ、このまま着陸するとやばい速度だ。
だから、降りるのは陸じゃない。
真下に広がるのは巨大な湖。
轟音が鳴り響き、巨大な水柱。
「よし、着いたぞ」
「楽しかった」
「うわぁ、下着までべしょべしょだよ」
「濡れるなら、前もって言っておいてください」
「そうね、こうなるならフレアガルドで買った水着を着ていたのに」
「言わなかったか、雲道から主要都市に行く際のゴールはすべて巨大な湖だ」
「「「聞いてない」」」
俺にとって常識で、うっかり言い忘れていたな。
逆噴射を使おうと、やばい速度で放り出されるため、着地ポイントには湖が用意されていたのだ。主要都市の近くには必ず大きな湖があるのはそういう理由。
船を操縦して陸を目指す。
実はこの船、雲を泳ぐだけじゃなく水の上も対応しているのだ。
◇
それから、簡易テントを広げ、全員着替えてからゴルドバランを目指した。
街の中に入ると、皆が目を見開く。
「すごく、きらきらしてる」
「建物がみんなおっきいし派手だよ」
「街の中央にあるのが、噂のゴルドバランタワーね。凄まじいとは聞いていたけど、度肝を抜かれたわ」
「あれ、軽く百メートルぐらいはありますよね。一体、何十階建てなんですか? あんなの、信じられません」
ゴルドバランの町並みは二十世紀のラスベガスをモチーフにしているだけあって、超近代的。
何より異様なのが、ゴルドバランタワー。
なにせ、百メートルを超える超巨大ビル。
この世界の技術ではせいぜい三階建て、それ以上は強度的に不可能。だというのに、あのビルは三十階建て。
人に作れないものが存在する理由は一つ、あれは神によって生み出されたものだからだ。
ゲームの時代、おおよそ二百年前に作られたものをこの時代の人間が使い続けているのだ。
三十階のゴルドバランタワーは、二十階以降は、神々の設備、カジノやレストランなど。
十九階まではテナントのようなもので人間の店が大量に入っている。
ゴルドバランで店を開くのは商人たちのあこがれで、街の一流どころはすべてゴルドバランタワーに集まっているのだ。
だから、いい物が欲しければ、あそこに行けばいい。
「さっそく行こうか。ゴルドバランタワーがオークション会場だ。二十階の巨大ホールで行われる。開催は明後日、売る側として参加するなら今日が締め切りだ」
二十階、そう神々の領域。
この街で世界最大のオークションが開かれるのは、神々の遺産を流用することで可能になる利便性故なのだ。
「もう夕方ですよ!? 急がないと駄目じゃないですか!?」
「大丈夫、走れば十分間に合う」
「走らないと間に合わないって相当だよ!」
全員で走る。
走りながら街並みを観察する。面白そうな街だ。
この街は、一生遊べると言われるほど、娯楽に溢れている。
オークションやカジノもいいが、他にも楽しみ尽くそう。
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