@chablis777
シャブリ

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(坂場)ヘンゼルとグレーテルは魔女を殺さずに魔女から逃げ出したいんです。
(なつ)その塔には闇の世界を支配する悪魔がいるんです。
(下山)悪魔?(神地)面白い!
グレーテルの味方になるんです!
すごい!
面白い!
なつが 短編映画作りに夢中になっていたある晩のことでした。
ただいま。(亜矢美 咲太郎)お帰り。
あっ 蘭子さん!
(蘭子)こんばんは。お久しぶりです。 どうなさったんですか?
(咲太郎)俺がお連れしたに決まってるだろ。
(雪次郎)なっちゃん お帰り。(レミ子)お帰り。
みんなそろって 劇団の打ち上げ?
そうじゃないよ。こんな寂しい打ち上げがあるかよ。
(茂木)まあ… なっちゃん おいで。
あっ… 茂木社長もいらしてたんですか。
え~… 影薄いんだな 俺。ウスバカゲロウだよ。
(笑い声)
なつ 蘭子さんはなお前の作ってる漫画映画に声で出るようになってから声の仕事がたくさん来るようになったんだ。
へえ… ああ ラジオとか?
違う。 外画だ。ガイガ?
外国のテレビ映画だよ。 吹き替えだ。
あ~ あの… 川村屋で見たことあるあの日本語の外国映画?
そう それだ。 テレビの世界では今 そういう仕事が増えてるんだよ。
俺は 蘭子さんに ついて放送局を回るうちにこれはチャンスかもしれないと思ったんだ。
チャンス?
なつ 俺は劇団を辞めて会社を作ることにした。
えっ…。声だけのプロダクションを始めるんだよ。
声だけの?
声だけの俳優 声優だ。
お前の漫画映画にも使えるぞ。な? いいだろ?
いいだろって言われても…。いいの? それ。
(亜矢美)いいんだろうか?いいんだよ!
(亜矢美)う~ん… いいの?う~ん… いいんだよ!
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
蘭子さんがうちの所属第1号ということになる。
そして 雪次郎とレミ子もうちで 声の俳優になるんだ。
みんなで 劇団辞めちゃうってこと?
まさか 辞めないわよ。
辞めるわけねえべさ なっちゃん。俺も レミちゃんもやっと研究生から劇団員になれるとこまで決まったんだから。
本当? そんなら どして?
別に 劇団を辞める必要はないんだよ。
劇団の芝居をしながら映画やラジオに出るのと同じだ。
俺の会社は声の仕事だけを扱うだけってことだ。
赤い星座だけじゃなくていろんな劇団にも声をかけて役者を集めてるんだ。
俺は 日本の劇団と役者を救いたいんだ。救うって?
声の仕事は食えない役者の救いにもなるんだよ。
どう思います? 社長。
咲坊 俺はいいところに目をつけたなと思ってるよ。
(亜矢美)本当?本当ですか!?
これからは いやが上でもテレビの時代になる。
放送局も増えて テレビは もう一家に一台の時代になる。
テレビの時代ですか…。
藤正親分にも褒められたよ。親分にも話したの?
うん。 一応 挨拶に行ってきたんだ。元気にしてたよ。
ごめん。
あっ 藤正親分!えっ 親分!
何か 今親分の気配を感じてたところです!
お久しぶりです。
(藤田)なつさんか… 元気かい?はい。 おかげさまで。
どうぞ どうぞ。いつものですか? 親分。
今日は 客じゃねえんだ。
咲太郎に 頼みがあって来た。
俺にですか? 何でしょう?
おい 入れ!
(島貫)やあ 咲坊!
師匠 島貫さん… 松井さんも…!
(松井)おう 咲坊 久しぶりじゃねえか。
よう 亜矢美。(松井)亜矢美ちゃん いい店やってんな。
お久しぶりです。どうしたんですか? 2人して。
咲太郎 お前 今度新しい劇場を作るんだろ?
はあ!?そこへ こいつら出してやってくんねえか。
どんな劇場だ?まさか ストリップじゃねえだろうな?
ぜいたく言うな。お前は 何でも偉そうだから師匠なんて呼ばれてたんだぞ。
ちょっと待って下さい 親分!(藤田)分かってる。
そのことは もう水に流せ。
昔は ムーランで苦楽を共にした仲間じゃねえか。
これが 博打の戦利品なんだ。
質屋に持ってけば ひょっとしたら10万くらいになるかもしれねえぞ ああ。
(松井)あの時は悪かったな 咲坊。
お前が金に困ってたから つい…。
それじゃ お兄ちゃんは その人のせいで警察に捕まったってことですか!?
その罪は 自首して償ったんだ。
なつさん 許してやってくれ。
あれは 悪いやつから借金のカタを取り返しただけなんだよ。
まさか通報するとは思わなかったもんな。
「盗人たけだけしい」とは お前のことだ。
こいつと芝居すんのが嫌であのころは やけになってたからよ。
そのことは 別にいいんですよ。
いいの?だけど 違うんですよ。
俺が作るのは声優のプロダクションですよ。
何だ? そりゃ。主に 吹き替えの仕事です。
ここにいるのが そういう役者です。
なるほどね…。
顔じゃ売れない役者のやることか。
失礼ね!何言ってんのよ!
あなたは 劇団赤い星座の亀山蘭子さんを知らないんですか!
雪次郎君 落ち着いて。その人 シャバにはいなかったからよ。
とっくにいたよ。とにかく こいつらの面倒見てやれ。
な。 咲坊。
分かりました。
季節は 初夏を迎えました。
なつたちは 「ヘンゼルとグレーテル」のストーリーが固まらず生みの苦しみを味わっていました。
もう そろそろ決めて作画の作業に入らないと間に合わないぞ。
このままだと 上からもう作るなと言われかねない。
次の長編も 迫ってきてるわけだし…。そんな…。
(麻子)もう限界よ…。
あと一歩のところまで来てるんです。
結末が見えてないだけで…。
ここまで来て 結末が見えてないのが限界だって言ってんの。
しょせん 私たちは作家じゃないのよ。絵描きなの。
あの… もう作画しながら考えるっていうのは どうでしょうか?
ダメ! 何言ってんの。これ短編なのよ。
先が見えないで長さ どうやって測んのよ。
長くなったら 削ればいいかと…。時間と労働の無駄!
はい…。
森なんですよ…。
森?
兄を助けようと いちずなグレーテルに心を打たれた魔法使いの魔女が森を支配する悪魔を裏切りそして ヘンゼルとグレーテルを連れて森の中へ逃げていく。そこに 悪魔の放った無数のオオカミたちが迫ってくる。
そこまでは いいですね?はい。
あとは その森で 何が起きるかです…。僕は この話 子どもたちが いかにして森を信じられるかだと思っています。
それは つまり 自分の生きる世界生活を信じられるかどうかです。どんなに恐ろしい世界でもそこに生きるものが自分の味方だと思えれば子どもたちは未来を信じることができます。
森を味方にするってことですか…?
(茜)ねえ なっちゃん北海道に森はないの?
いや そりゃ ありますよ いっぱい。
(下山)う~ん… 森…。
♪~
なつは その夜 遅くまで十勝を思い浮かべながら森のイメージを描いていました。
はあ…。
♪~
ええっ!
ちょ… ちょっと ちょっと…うわ~ ちょっと ちょっと…!
う~ん…。
(坂場)どうしました?
ええっ!?あっ いや あの…うなされてたようなので具合でも悪いのかと…。
あっ… 大丈夫です…。
ちょっと 変な夢見ただけです。
夢?
あっ… その夢で 何か思いついたんです!
何を思いついたんですか?
魔法です!魔法?
魔女が 魔法で 森にある一本の木を怪物に変えたらどうでしょうか!?
(弥市郎)自分の魂を 木の中に込めるんだ。
その怪物がヘンゼルとグレーテルを守るんですよ!
悪魔のオオカミたちをやっつけるんです!
その怪物って何なんですか?
えっ 何って?いや… 魔女が 魔法をかけただけですか?
いや あの…その怪物が魔女なんです!
魔女の魂が 森の木に宿ったんです!
なるほど… 森と魔女が一体化したのか。
その木に守られたら森を味方につけたことになりませんか?
あなたを信じましょう。
描いてみます。
♪~
こういうの どうでしょう?
うん…。
うん…いいと思います。 もっと描けますか?
はい…。
こうして なつは イメージを描き坂場は ストーリーを作り2人の作業は 朝まで続きました。
♪~
それで 最後はどうなるの?
最後は その木の怪物が悪魔の塔を倒すんです。
すると がれきの中から今まで食べられてきた子どもたちがよみがえるんです。
そして 木の怪物がその塔があった場所で静かに また動かなくなる。
鳥たちが集まってきて その枝に とまる。
木漏れ日が降り注ぎヘンゼルとグレーテルを包み込む。
ああ 森に平和がやって来た。
そこで 完!はい!
面白い!ありがとう!
よし とにかく これで進めてくれ。 うん。(なつ 坂場)はい。
♪~
ありがとう。こちらこそ ありがとうございます。
♪~
とんでもない「ヘンゼルとグレーテル」になりそうだ…。
グリムさんに怒られないか?


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