ボンド映画は第1作で監督のテレンス・ヤングと初代ボンドのショーン・コネリーがベースとスタイルをつくり、第2作で秘密兵器(アタッシェケース)が独特の世界観を生み出し、第3作で2代目監督のガイ・ハミルトンがエンターテインメント性を加えて完成させた、といわれる。

ボンド映画になくてはならないハイテクカー

ボンド映画初の「ボンドカー」は、その第3作の『ゴールドフィンガー』でエンターテインメントの重要な小道具として登場する。同作は小説でも初めてボンドに特殊装備のクルマが支給されるもので、原作では尾行用のレーダー装置などを備えたアストンマーティンの『DB3』(正しくは『DB Mk Ⅲ』)。映画では最新モデルの『DB5』に防弾パネルや機関銃や助手席が宙に飛び上がる機構などを加えた「秘密兵器」にされ、まさに一大エンターテインメントの大活躍をし、以降、さまざまなギミックを施したボンドカーの派手なアクションシーンがボンド映画の大きな見せ場となった。

また冒頭に別のエピソードのクライマックスシーンを入れ、オープニングから観客の心を躍らせるエンターテインメント性あふれるボンド映画のスタイルも同作でハミルトン監督が確立したものだ。続く第4作の『サンダーボール作戦』では、それを再登板したヤング監督が受け継ぎ、冒頭シーンで特殊装備の『DB5』が大活躍をする。

アストンマーティン『DB5』

世界中のすべての男が憧れ続ける究極のボンドカー。ボンドカーの代表は〝アストンマーティン〟『DB5』である、というのに異論のある男はいないだろう。アストンマーティンの高級感に加えて、特殊装備の斬新さや完成度もボンド映画随一、今なお語り続けられている、まさに究極のボンドカーだ。ところでボンドカーの『DB5』の特殊装備はすべて実際に組み込まれ可動した。そのために新車の『DB5』を6週間かけて改造。なかには、オーバーライダー(バンパーの突起部分)が飛び出す攻撃機構や、パンク用の鋲巻き、ドアに隠した無線電話、といった映画に登場しなかった装備もある。ちなみにナンバープレートが回転するアイディアは、駐車禁止の常習犯であった監督のハミルトンが思いついたものだ。写真:AP/アフロ

第5作の『007は二度死ぬ』ではトヨタの『2000GT』が2代目ボンドカーに選ばれた。ただし日本の秘密情報部のクルマで、ボンドも運転しておらず、厳密にはボンドカーではない。だが『2000GT』の流麗なスタイルがボンド映画にふさわしい魅力を放っていたのは確かである。

トヨタ『2000GT』

日本車が選ばれたことは日本の男のよろこびである! トヨタの『2000GT』は原作には登場しない、同作が日本が舞台ということで選ばれたものだ。また本文中で述べたように、ボンドは運転しておらず、厳密にはボンドカーではない。しかしそれでも『2000GT』はその高性能と美しさと高級さと、そしてわずか341台の生産数という希少性とで知られる、特別なクルマである。しかもこの映画で使用されたコンバーチブルは市販されなかった特注もの。そのためボンドカーと名を連ねるのに、まったく遜色ない素晴しさを持つ。ボンド好きの日本の男にとっては誇るべきクルマなのだ。写真:Visual Press Agency/アフロ

第2作『ロシアより愛をこめて』ではボンドのプライベートシーンに愛車のベントレー『マークⅣ』のコンバーチブルが登場する。1936年製のクラシックカーだが、小説ではボンドは1933年製や1930年製のクラシックのベントレーを乗り継いでおり、それを忠実に再現しようとした選択なのだろう。なお映画では左の写真のようにダービーグリーンだが、原作ではボンドのベントレーはどれも「軍艦のようなグレー」である。

ベントレー『マークⅣコンバーチブル』

ボンド小説の愛読者ならニヤリとするボンドの愛車。この写真は『ロシアより愛をこめて』の冒頭のボンドのプライベートシーン。1963年公開の作で愛車が1936年製のベントレー『マークⅣ』というのはクラシックに思えるが、初期の小説ではボンドはいつも20年ほど前のクラシックのベントレーに乗っているため、それを知る愛読者はニヤリとする通好みの選択。自動車電話が付いているのがならではの演出で、これはこの当時に英国で実際に新開発されたもの。なおこのベントレー『マークⅣ』はこの場面のみの登場で走行シーンはなし。以降の映画にも出てこない、ちょっと気になるクルマでもある。写真:Everett Collection/アフロ

※2012年冬号取材時の情報です。

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