米グーグルのスマートフォン「Nexus S」を手に入れ、Android(アンドロイド)OSの最新版「2.3」で提供される新機能を徹底検証します。日本では未発売のNexus Sですが、インカメラやNFC(ICタグの利用を想定した近距離無線通信)など気になる新機能が目白押し。同製品は、端末やアプリケーションの開発のためのリファレンス(参照)モデルであり、日本で2011年3月後半から順次登場するメーカー各社のAndroid2.3スマートフォンの「源流」といえます。
図1 見て分かるAndroid 2.3搭載スマートフォン「Nexus S」の特徴 Android 2.3を搭載するスマートフォンの第一号となるNexus Sが、2010年12月16日に米国で登場しました。2010年1月発売の「Nexus One」に続いて2機種目となる“Googleブランド”の端末です。
Nexus Oneと同様、Nexus SはAndroid 2.3の様々な新機能を盛り込んだリファレンスモデルとして、主に端末やアプリケーションの開発者向けに提供されています。Android 2.3の新機能が実際にどのように動くのかを試すには格好の機種といえるでしょう。
早速、Nexus Sの本体右側にあるボタンで電源を入れて、Android 2.3を“体感”していきましょう(図1 、表1 )。
表1 Nexus Sの主なスペック ■アプリから複数カメラを制御
まず、本体正面を見ます。4.0インチの液晶ディスプレイがあり、その右上にカメラ、画面下にはAndroidでお馴染みの「バック」「メニュー」「検索」「ホーム」の4つのキーが並んでいます。
本体正面にはカメラ(インカメラ)も付いています。Android 2.3から複数のカメラを制御する機能が加わりました。Nexus Sにはこの機種によって利用されるためのカメラが搭載されているわけです。
写真1 標準のカメラアプリでインカメラを使える 実際に、ホーム画面からカメラアプリケーションを起動したところ、背面と正面のカメラを切り替えられます(写真1 )。Android 2.3端末のインカメラで相手の顔を見ながら話せるテレビ電話アプリの登場が期待されます。
■初搭載のNFC機能で、Suicaアプリが動いた
続いて、本体の背面を見てみましょう。ここに、カメラに続くAndroid 2.3の目玉機能が隠されています。背面カバーを外すと、その中央部分に近距離無線通信規格「NFC」(Near Field Communication)に対応したアンテナが張り付けてあるのが分かります。本体側にはアンテナの電気接点があり、NFCに準拠した非接触ICタグのリーダー・ライター機能を備えています。
これらにより、店頭やイベントなどでICタグが配られ、そのICタグを端末のNFC機能でタッチすると、自動的にキャンペーン登録のためのURLが端末に読み込まれてブラウザで表示する、といった利用シーンが想定されます。
写真2 Nexus S対応の国産NFCアプリ「taglet」 NFCの技術には、日本の「Suica」や「PASMO」といったICカードで使われている「FeliCa」と共通する部分もあります。これを利用する狙いで、Androidアプリの提供サイト「Androidマーケット」には早くも、日本のアプリ開発者がNFC対応アプリを公開しています。FeliCaと各種情報を関連付けられるアプリケーション「taglet」(写真2 )や、Suicaの履歴などを確認できる「Suica Reader」です。
これらのアプリをダウンロードし、起動してみます。すると、NFCのリーダー・ライター機能が起動し、自動的に非接触ICタグを探し始めます(図2 )。Suicaカードにタッチした瞬間、端末のNFC対応アプリの選択画面が表示され、連携先のアプリを選べるようになっています。
図2 Android 2.3対応のNFCアプリの使用例 そこで任意のアプリ選択することでSuicaなどFeliCaのチップが備えるIDなどを読み取り、Suica Readerなら乗車履歴などが分かり、tagletの場合は電話番号やメールアドレス、「Twitter」のアカウントなどと関係付ける画面が表示されます。
Nexus Sには、ICタグを読み取るプログラム「Tags」も標準でインストールされています。こちらはFeliCaのIDフォーマットに対応していないので内容を読み取れないものの、ICタグであることは認識します。
■「ホーム画面」の操作性が向上
Androidのユーザーインタフェースも、多くの部分が改良されています。
例えば、ホーム画面上部のステータスバーの表示は、色で情報を表すようになりました。無線LANの場合、電波強度を形で、接続してインターネット接続が可能になると白から緑に色が変わります。
図3 テキストのコピー・アンド・ペースト機能を追加 テキスト編集時に画面を長押しして、テキスト編集機能を起動。カーソルをドラッグして任意のテキスト範囲を選択してコピー・アンド・ペーストができる。 図4 アプリケーション管理手順が簡単に ホーム画面から簡単にアプリケーション管理画面へ移行できるようになった。 テキストを編集する際に選択範囲を指定しやすくなっています。これも操作性では重要な点です(図3 )。具体的には、テキストをタップした位置にカーソルが動き、選択範囲を示す矢印が表示されるようになりました。
さらに、システム管理に関する機能も改善されています。例えばホーム画面のメインメニューにアプリケーション管理の項目が加わりました(図4 )。これにタッチすれば、アプリケーションの管理画面が直接開かれ、アプリの強制停止や削除、外部ストレージへの転送などがすぐに実行できます。
図5 きめ細かい電源管理が可能に 消費電力量を集中的に管理できるようになり(左)、バッテリー消費が大きいと思われる項目をワンタッチで調整できるようになった。 電源管理機能では、Androidのシステムやアプリの電力消費状況や推移を詳細に表示します(図5 )。必要に応じてアプリを終了したり設定を変更したりして、バッテリー持続時間を延ばすことが可能です。
操作性は、見た目だけでなく、タッチ操作に対する応答速度も高まっています。実際、Nexus Sとハードウエアスペックがほぼ同じ、Android 2.2を搭載したスマートフォン「GALAXY S」と比べると、Nexus Sの方がプログラム画面のスクロールなどが多少スムーズです。
表2 米グーグルがAndroid 2.3に盛り込んだ主な新機能 ■“エンタメ”系のAPIが充実
次に、OSの内部に分け入ってみましょう。内部では、開発者向けの様々な機能やAPI(Application Programming Interface)が追加されました(表2 )。前述の複数カメラを制御する機能やNFC機能のほか、IP電話向け呼制御プロトコルの規格「SIP」(Session Initiation Protocol)に準拠したソフト(プロトコルスタック)を、標準で搭載しています。SIPを利用したアプリでは、IP電話システムと接続して発着信できるようになります。
Android 2.3には、より高機能で表現力が豊かなアプリを開発するためのAPIなども、数多く追加されています。
写真3 標準のYouTubeアプリでWebM準拠の動画を視聴 例えば、ジャイロスコープ、回転ベクトルや直線加速度、重力、気圧といった多数のセンサー用にAPIが追加されています。これらのAPIを活用すれば、3次元で複雑な動きを認識し、その情報をアプリで使えるようになります。
3D(3次元)グラフィック性能の向上や音声に特殊効果を加える機能なども強化されています。オープンソースの動画規格「WebM」や圧縮率が高い動画フォーマット「VP8」をサポートしました(写真3 )。音声フォーマットも、新たに「AAC(Advanced Audio Coding)」形式や「AMR」形式に対応しています。
Androidアプリの高速化に向けた改善もあります。バイナリコードがプロセッサ上で直接動作する“ネイティブコード”のサポートが拡大しています。ネイティブコードは、Androidで標準に使うJavaのように中間コードを介す形ではないため、Javaよりも処理を高速化できます。今回、ネイティブのアプリから端末のデバイスと連携するAPIが充実しています。特に、応答速度が問われるゲームアプリの開発で必要な機能です。ユーザーにとっても、こうしたAPIを利用したリッチなアプリの登場が期待できます。
[注]本記事中の無線通信をともなう実験は、電波暗室の開発・販売を手掛ける新日本電波吸収体(東京都台東区)の協力を得て、電波を遮断する簡易電波シールド内で実施。
(日経Linux 高槻芳)
[日経Linux 2011年3月号の記事を基に再構成]
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