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平成最後の元旦に男が原宿で無差別殺傷を狙った事件の気になるその後

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平成の犯罪の特徴は、動機がよくわからず、精神鑑定が大きな意味を持つ凶悪事件が目につくようになったことだ。これは偶然ではなく、社会や価値観が複雑化したことを反映して犯罪が複雑になった現われだと思う。 

昭和というのは日本人全体がある種共通した社会的価値観を持っていた時代だった。努力すれば豊かになると言われたし、多くの国民が目標を持てた時代だった。ところが、平成に入ってから、バブル崩壊を経て、社会の基本的価値観が単一ないし単純ではなくなった。社会全体が豊かになるのでなく貧富の格差が増大した。それまで正義の味方と思われていた警察官や弁護士が犯罪に関わることが目につくようになった。

社会の価値観が昭和時代のようにシンプルでなくなり、社会全体に閉塞感や屈折が広がっていく。そうした時代には当然、犯罪も複雑にならざるをえない。社会に不条理が広がれば、社会を写す鏡である犯罪も不条理な要素を強めるというわけだ。その意味で、平成時代が宮崎事件で始まり、原宿事件で幕を閉じるのは象徴的な気がするのだ。

私が今関わっている相模原障害者殺傷事件など、平成の末期を象徴する極めて深刻な事件だと思う。社会の価値規範の変化や差別といったひずみが、この事件には大きな影を落としている。

平成時代を象徴するオウム事件にしても、「少年A」による神戸児童殺傷事件にしても、秋葉原無差別殺傷事件にしても、そう簡単に解明などできず、これまでの警察や司法の仕組みだけでは対応が難しいという印象は否めない。秋葉原無差別殺傷事件にしても、加藤智大死刑囚の刑が確定してケリがついたことになってはいるが、では果たしてあの事件を起こした動機がきちんと解明されたかというと、そんなことは全くない。

個人的動機が社会全体への復讐という形に結び付くのもそれらの犯罪の特徴で、池田小事件の宅間守死刑囚(既に執行)など、閉塞状況で自身が追いつめられたことへの反発が、明らかに社会への憎悪となり、社会に復讐して死んでやろうという意思が感じられる。

これも私が深く関わった「黒子のバスケ」脅迫事件の犯人が言っていたが、自分が死んでしまおうと覚悟すれば「無敵の人」となり、最期に無差別殺傷事件を起こして死んでやろうという思考に結び付く。渡邊元被告は、その予備軍が社会にたくさんいる現実に目を向けるべきだと法廷で語ったのだった。

昨年6月、新幹線で起きた無差別殺傷事件の時にも、私はそういう話を書いて、これも時代を反映した事件だとヤフーニュースで指摘した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180616-00086575/

考えてみれば最も怖ろしいのは、こうした事件がまだ1年も経っていないのに社会から忘れられていることだ。事件当初のみマスコミは大々的に報道するが、あっという間に忘れ去り、事件が風化していく。事件や出来事の消費のペースが限りなく早くなっているのだ。結果的に社会の側に何の対応もなされず、予防のための措置も講じられない。大事件の場合はその後、1年目と2年目といった節目にのみ報道するのだが、こういう節目報道もセレモニー化している感が否めない。

そうした事件報道のあり方と、精神鑑定の結果が出たとたんにパタッと報道そのものをやめてしまうという対応は明らかに通底している。

正月の原宿事件の展開を見ていると、またこの事件も封印されてしまうのかと何となく憂鬱な気分にならざるをえないのだ。

※Yahoo!ニュースからの転載

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