*緋弾のアリア ざ ごーすと いん ざ しぇる? 作:田吾作
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○月✕日
ㅤ日記を付ける事にした。
ㅤついでに頭の整理にもなるから一石二鳥、なかなか冴えた手だと思う。
ㅤ簡単に今の状況を三行で説明すると、
ㅤ1、俺は至極普通の社会人だった
ㅤ2、寝て起きたら謎の浴槽のような装置に寝かせれていた
ㅤ3、ラノベの世界っぽい
ㅤ……自分で書いててもなかなかぶっ飛んでると思うが、これが事実なのだから世の中どうかしてる。
ㅤ夢を見ているのかもしれないと、最初はそう思ったのだがどうもそうではないらしい。
ㅤ頬を抓るというありがちな手法で確認してみたところ、
ㅤそれでなるほど夢かと納得しているところへ、しかしすかさず無慈悲な訂正が──曰く痛みを感じないのは今の俺の性質、痛覚カットによるものらしく、これを通常に戻せば当然普通に痛みを感じるのだとか。
ㅤで、目覚めたばかりで混乱している──或いは脳に何かしらのダメージを負っているのかもしれないと心配され、丸一日寝かされているというのが現状である。
ㅤこれは現実である。──では、何故ラノベなのか。
ㅤ自分が知らない場所で目を覚ましたから?──違う。
ㅤこれは後で書くとして、自分が軽く人外になっていたから?──違う。
ㅤその根拠は暇潰しにと、軽くネットサーフィンしただけで続々と集まった、新聞記事やニュース報道で騒がれる物騒な事件、武偵と呼ばれる存在、硝煙臭い有名人、雑誌の特集などなど。
ㅤ一言で述べるならば
ㅤ──そう、ライトノベル。ラノベなのだ。
ㅤこの世界がまず間違いなく
ㅤ地雷原のど真ん中だと分かっているのに肝心の地雷が見えないというこの状況。なかなかハードだと思われる。
ㅤもちろんこんな地雷原で裸踊りをするような真似はしたくないし、今の俺にはご都合主義的に起死回生に必要な要素、つまり地雷探知機のようなモノが予め用意されている。
ㅤつまりデッドエンド回避は容易ではないだろうが、不可能ではないという事だ。
ㅤここで情報の整理をしておこう。
ㅤ一つ、電脳化及び完全義体化。
ㅤ電脳や義体とは俺もよく知っているSF漫画、攻殻機動隊に登場する用語で、大雑把に説明するとサイボーグ化の事だ。
ㅤ残念な事に特定のキャラクターの義体*1というわけではないものの、性能は機密ボディ*2並だと自慢げに解説されている。
ㅤただ中身はズブの素人だし、便利な機能や電脳化による恩恵もラノベの断片的なあらすじと照らし合わせるとこの程度じゃ言うほどのアドバンテージはないものと思われる。
ㅤそもそも撃たれれば普通にぶっ壊れるレベルなんだから、素のままの人間と大して変わりはしないと考えても良いだろう。無理はできない。
ㅤ二つ、
ㅤ攻殻機動隊繋がりでAIの搭載された小型の戦車が二台、ガレージで待機している。目を覚ました俺の世話をしてくれたのも彼女らだ。
ㅤ本家の思考戦車シリーズとデザインや細部に違いこそあるが、フギン、ムニンという名の人工知能たちが本家に負けず劣らずよく喋るし癒しにもなる。ただゴーストを得ているかはよく分からない。
ㅤ彼女らには個々で得意不得意な事があるようで、ボディのベースはロジコマ*3のものらしいが、本人たち曰く自分たちはただのロジスティクスではないとの事。同じにするなと怒られてしまった。
ㅤちなみに、恐らく原作基準で最新式のものであろう熱光学迷彩機能が搭載されている。
ㅤ三つ、セーフハウス。
ㅤ世界各地にひっそりと点在するらしく、多種多様な予備の義体が保管されているのだとか。簡素な秘密基地のようなものらしい。
ㅤあまり考えたくはないが、不測の事態に腕が根元からもげた、下半身を吹き飛ばされた、なんて事があった際にまず間違いなく何れかの思考戦車に運び込まれ、お世話になる事になるだろう。
ㅤただ予備には限りがあるので、無限コンテニュー出来るわけじゃない。
ㅤ……とまあ以上三点と、ここまで書いておいてなんだが。
ㅤこの世界で俺ひとりだけが攻殻キャラみたいになってる事を、他の誰かに知られるような事だけはなるべく回避したい。
ㅤ電脳、義体、思考戦車、その他諸々。どれを取っても一歩間違えれば地獄のラボ行き確定だ、言っとくが俺に構造解析されて喜ぶような特殊性癖はないからな。
ㅤ幸い俺の手元にはインナータイプの熱光学迷彩があるので、常に周囲の目に注意を払い、これを着用していれば咄嗟に逃げ隠れする分には困らないはず。
ㅤデッドエンド回避、それが目標だ。
ㅤ元の世界への帰還──出来るかどうかはわからないが、それらはひとまず二の次。何としてでも生き残らねば。
○月✕日
ㅤデッドエンド回避を最優先目標にしているとはいえ、外界との接触を完全に断つわけにはいかない。
ㅤ一応元平凡な社会人として、人間として健康で文化的な最低限の生活だけは変わらず続けるつもりだ。
ㅤ……とまあ、そんなわけで改めて各身分証明書等を確認したところ、今の俺は浅雉 ナギサなる人物であるという事がわかった。
ㅤついでに生年月日、この世界の年代からして自分が今年で十四歳になる事が判明。意図せず若返りまで果たしてしまったらしい。
ㅤふと学校はどうしているのかフギン*4に聞くと、一応近くの学校に在籍だけしていて、現在は自宅療養中という形で情報操作しているんだとか。
ㅤ嫌でなければと、学校に通う事をオススメされたので取り敢えずはそのつもりだ。
ㅤそれにしても十四歳が一戸建て住宅に一人暮らしか……世間に変には思われていないのだろうか?
○月✕日
ㅤ今日で学校に通い始めてから早くも一週間が過ぎようとしている。
ㅤ当初計画していた通り病み上がりという設定を考慮して控え目な態度で臨んだまでは良かったが、転じてクラスメイトたちからはどうやらちょっと暗いやつだと思われているらしい。
ㅤ年齢差もあって何となく彼らのテンションに乗り切れていない感じは否めないが、結構頑張ってる方なんだがな。
ㅤフギンムニンに問題があったか聞いてみるものの、差し障りなしと回答が返ってきたので落ち度はなかったはずである。
○月✕日
ㅤムニン*5からの提案もあり、今日から運動補助ソフトを導入して軽いジョギングを始める事に。
ㅤ義体なので筋力が鍛えられる事はまずないが、継続していく事で効率の良い力の使い方を会得出来るとかなんとか。
ㅤマスターすれば全力のサイボーグ走りも夢ではないそうなので、何としてでもコツを掴みたいところである。
ㅤちなみに義体に慣れていない状態でサイボーグ走りをすると、力の加減がわからず足腰に余計な負荷が掛かり、最悪
ㅤもっとも、そうなる前に運動補助ソフトによってセーフティーが掛かるそうだが。
○月✕日
ㅤ先日の定期試験の結果が発表された、もう一年か。
ㅤ成績から見るに学業に関しては特に滞りなく、学生としてソツなくこなせているように思う。
ㅤ社会に出てこれといって使わなかった科目はさておき、その他の一般常識くらいはさすがに中学生に後れを取るわけにもいかないしな。
ㅤ問題は結局クラスに馴染めなかった事くらいか。
ㅤ……まあ、もういっそ開き直ってしまおうかとも考えているわけなのだが。
○月✕日
ㅤ去年の体育の授業は全て見学扱いになっていたが、今年から普通に参加してみないかと担任の教師から提案を受けた。
ㅤ両親とよく相談して、受けるなら書類にサインを貰ってくれとかなんとか。
ㅤもちろん俺に両親はいない。強いて言うなら身内は二台の思考戦車、フギンムニンのみである。
ㅤそれに一応病み上がり設定であるものの、俺は健康体そのものなので体育の授業に参加する事に何ら問題はない。
ㅤムニンも反対しなかったし、授業を受けても良いだろうと判断したのがほんのついさっきの事だ。
ㅤサインは自分で書いても良かったが、ふと冗談でフギンに求めると、彼女は四本指のマニュピレーターでペンを取りそのまま器用に浅雉と綴った。
ㅤ……少し負けた気分だ。
○月✕日
ㅤ身体、体力検査の事を忘れていた。
ㅤ身長150センチに対して、体重100キロを誤魔化すのにもう一苦労だ。事情知らなきゃもうメタボだろ。
ㅤその後の検査はまあまあ上手く誤魔化せたと思う。体重と比べれば楽なもんだ。
ㅤ
ㅤ
○月✕日
ㅤ中学三年となり、担任の教師らから本格的に進路の話題が振られるようになってきた。
ㅤ……進路か、どうしようか。
ㅤぶっちゃけると、今の俺に与えられている選択肢は二つ。
ㅤ台風の目理論で物語の舞台となる武偵高校への進学をするか、しないかだ。
ㅤ俺は物語の内容をあらすじでしか知らないので、どこでどんな事が起こるだとかまではわからない。
ㅤ高校2年の春。一癖ある主人公と、そんな主人公よりも癖のあるヒロインの劇的な出会いから物語は始まる……ん、だったか?
ㅤもっとも、俺と主人公らが同年代なのかすらわからないわけなのだが。
ㅤ本当、参ったな。
○月✕日
ㅤコンビニ強盗に遭遇してしまった。ついてない。
ㅤ商品の吟味中に大柄なおっさんに迫られて思わず反射的に殴ってしまったが、無意識に加減が出来ていたのか軽く伸びる程度で大事には至らなかった。
ㅤどうせ人質にでもしようと思ったんだろう、同年代の中でも小柄な部類の俺に目をつけたまでは良かったんだがな。……まさかサイボーグだとは思うまい。
ㅤいよいよもって治安の悪い世界っぽさが出てきた……ああ。まあ、コンビニ強盗なら
ㅤ相手がナイフで、銃を持ち出して来なかっただけまだマシだと思うべき……って、何だか日々のニュースに随分と毒されてきてる気がするな。
○月✕日
ㅤ……先日のコンビニ強盗の件が学校にまで伝わったらしい。
ㅤ今朝全体朝礼で校長にわざわざ前に呼び出されて、警察からの感謝状をもらった。
ㅤ殴っただけ──こちとら事情を知らなかったもんだから寸前まで暴行罪になるんじゃないかってびくびくしてたくらいだし、
ㅤおかげで以前まで話した事もないような相手からよくよく声を掛けられるようになった。
ㅤ社交辞令で応答こそしてるものの、またこれが微妙な感じなんだよな。
○月✕日
ㅤ世の中には有名税というものがある。……もちろんそんな税金は実在しないが、有名なると損な事も多いってのはよく聞く話だ。
ㅤ政治家、芸能人、スポーツ選手だったり作家だったり。名のある人物は常に週刊誌の記者の目を気にしなければならないし、ちょっとした発言にだって気を遣わなければならない。
ㅤ俺の場合、暗い印象だった奴が形がどうであれ有名人になったのだから、それを気に入らないと思うやつだってそりゃ当然いるわけで。
ㅤ要するになんだ、ガラの悪い変な連中に目をつけられた。……憂鬱だ。
ㅤ
○月✕日
ㅤ実害が出る前に手を出せない状況に持ち込もうと考えた結果、校内では存在感を消すように意識して無視を徹底、下校前にまずトイレの個室に身を隠し、光学迷彩を起動させてそのまま帰宅……という流れがここ一週間で完成しつつある。
ㅤ図らずも隠密行動の練習となっているが、この付け焼き刃の技術がここでどれだけ通用するものか。
ㅤ思えば多少ガラの悪い中学生なんて、今後あるかもしれない最悪と比べれば癇癪玉と核爆弾ほどの差がある。
ㅤ生き残りたいなら、この程度で憂鬱だなんて嘆いてはいられないのだ。
○月✕日
ㅤ今日は放課後担任に呼び出され、校長から武偵高への推薦の話を下校時間ギリギリまで長々と聞かされた。
ㅤ専門学校や附属中学校の関係もあり、一般の学校から武偵高へ進学する生徒はその入口の狭さから非常に少なく、この辺ではうち含めてどこも成し遂げた事がないらしい。
ㅤその快挙を是非とも君にと校長は言うが、快挙を果たして名を残すのはさて俺なのか……どうでもいいか。
ㅤまあ、貰えるなら貰っておきたいものである。推薦。
○月✕日
ㅤ俺は今、高校入試の都合で東京にいる。
ㅤ到着するなり早速ひったくりに遭遇して早々にうんざりしたが、ここまで来たからには明日からの入試最後までやりきってやろうじゃないか。
ㅤちなみにひったくりは首根っこ鷲掴みでとっ捕まえた。……首の骨折らないように加減はしたぞ?
○月□日
ㅤ東京武偵高校、あらすじに出てきた主人公達が通う学校である。それしか知らない、知らなかった。
ㅤとんでもねぇキャラが通う高校なんだから、教師だってとんでもねぇ奴らだって少し考えりゃわかるはずだったのに。
ㅤ肝心の試験で、蘭豹という名の鬼のような教師に目を付けられてしまったのだ……比喩ではなく。
ㅤ軽く調べただけで目眩がした。香港マフィア、ボス、娘。これだけでお腹いっぱい……少なくとも下手に逆らって良い相手ではないし、安易に敵に回したくない人物である。
ㅤ筆記試験の会場に向かっている最中、美人だと思って一瞬目を奪われたのが運の尽き。次の瞬間にはバッチリ目が合って「何見てんだコラ」からの実技試験行きである……目が合ったら殺すって、スレンダーマンかよ。
ㅤ正直に言うと、実技試験でも余裕だと思っていた。
ㅤ受験生同士によるデスマッチと、そう道中に鬼教師──もとい蘭豹先生から試験内容を伝えられて少し焦ったものの、相手は全員自分と同じ一般学校からの受験生である。
ㅤもちろんこんな試験受けるくらいだから他の受験生は腕っぷしに自信がある、或いはそういった訓練を受けているのだろうが、そうはいっても一般学校出身の素人の域を出ないはず……と、まあそんな感じに考えていたわけなんですが。
ㅤ結果は散々。逃げ回るのに必死で撃ち合いも射撃ソフト頼り。誰かを撃退してポイント稼ぎなんて余裕もそんなになかったし、最後は
ㅤ機密ボディの性能に加え、補助ソフトやフギンムニンのサポートを受けておきながら余裕がないというのはなかなか……この先が思いやられるわ。
○月✕日
ㅤ祝、合格。
○月✕日
ㅤ今日は入学式だったが、それよりもまず書かなければならない事がある。
ㅤ手始めに探りを入れたところ、この世界の主人公──とーやまきんじなる男子生徒の存在を同期に確認した。
ㅤ強襲科、ランクA。なるほど、イケメンで成績も優秀と……いかにも主人公って感じだわな。
ㅤついでに関連人物にも探りを入れてみたが、特異体質だの超能力だのと気が遠くなったので軽く渫ったところでやめた。
ㅤなんか、改めて先行きが不安になってきたぞ……。
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○月□日
ㅤとても今更だが、この世界には武装探偵──略して武偵という国家資格がある。
ㅤその存在意義はさておき、報酬と引換に様々な方面から依される
ㅤ時に銃を手にして巨悪を打ち砕き、時に腰を痛めながら延々と草むしりをする。どちらも同じ武偵の仕事だっていうんだから驚きだな。
ㅤ今日も今日とて授業に出席し、蘭豹先生からの無茶振りをこなし、おまけに絡まれ酒を飲まされた……と。
ㅤ無事?入試をパスし、俺が東京武偵高校に入学してから何だかんだでかれこれ三ヵ月が過ぎようとしている。時間の経過とは早いものだ。
ㅤ授業はまだやって行けるレベルだし、任務は必要な経験値。フギンムニンが間接的に手伝ってくれてるし、蘭豹先生は粗暴だが見た目はとびっきりの美人だ。酒も飲まされたところでその気にならなければ俺は酔わない。
ㅤ相変わらず友達はいないものの常にフギンムニンが
○月□日
ㅤ今日の任務はいつもと少し毛色が違い、狙撃科の少女と組む事になった。
ㅤ俺と同程度の身長と頭のヘッドホンが特徴の少女で、名前はレキ。覚えておこう。
ㅤ移動の空き時間、暇になって何を聞いてるのか話を振ってみたところ、風の音を聞いていると短く返ってきた。
ㅤ風の音と言われても何の事だかさっぱりなのだが。……まあ、ゴーストの囁きみたいなもんか。俺はまだ囁きが足りてないが、その代わりにフギンムニンが頑張ってくれている。
ㅤ誰と組んでようが俺のやる事は変わらない。単身で突入して場を荒らすだけ荒らして逃げ回り、隙があれば手持ちの拳銃──マテバを発砲する。命中率はそんなに悪くない。入試前にムニンがインストールしてくれた射撃ソフトのおかげだ。
ㅤそうやって何やかんやで普段は時間の掛かる内容の仕事も、今日は狙撃手であるレキが同行していた為にいつもより早めに片付いた。同行者様様だな。
ㅤ……こんな任務を普通の武偵はひとりでやるっていうんだから、デッドエンド回避への道はまだまだ遠い。
ㅤ特に何事もなく報告を済ませ、いつものように蘭豹先生に絡まれてから寮の自分の部屋に戻った。
ㅤ……っと、そうそう。帰りがけに寄ったコンビニでレキと遭遇したんだったな。
ㅤプレーン味の某有名バランス栄養食を手にしていたので夕飯かと聞くと、そうだと返事が返ってきた。好きなのだろうか。
ㅤともかくそれだけじゃ味気ないだろうと大豆と果物のバランス栄養食を一本購入して追加してやると、いつかちゃんとお返しをするとお礼を言われてしまった。こっちは任務を手伝ってくれたお礼のつもりだったんだけどな……。
○月□日
ㅤ今日は相手側の想定外の援軍や装備によって思いの外時間が掛かってしまった。MGまで持ち出してくるなんて……。
ㅤただこっちにも別の任務に出ていたレキが駆け付けてくれたので、日付を跨いでから間もなく制圧が完了。
ㅤさっさと帰って寝る。
○月✕日
ㅤ今日は昼まで休んで、起きたらまずレキに改めて礼を言いに行った。彼女は以前のお礼だと平然と返したが、二百円にも満たないたった一本の栄養食で働き過ぎだと思う。寧ろお釣りで借りができたなぁと感じるレベルだ。
ㅤそうしてこの借りは必ず返すと誓ってから、彼女と別れて蘭豹先生のところへ。話を聞けばなんと、あの鬼教師がわざわざ任務帰りのレキをこっちまで寄越してくれたらしい。
ㅤ案の定ぐだぐだとうざ絡みされ、酒もしこたま飲まされた。けどまあ、死なれたら明日の酒が不味くなるなんて言われたら何も言えないわ。
ㅤ何か一発芸披露しろと言われたので片手で小さな鶴を折って渡したら面白くないと殴られた──殴った方が痛そうにしてたが、無茶振りに応えられただけでもマシだというのに何というマジ理不尽……。
○月□日
ㅤ最近、変な女が辺りをうろちょろしている。
ㅤどうも俺の事を探ってるようだったのでフギンに調べさせたところ、彼女は探偵科でちょっとした有名人らしくいい趣味してるらしい。あまり詳しくは聞かなかったが、フギンも微妙な反応を見せていた。
ㅤ聞きたい事があるなら直接聞けと釘を刺しておいたものの、この忠告にどれだけの効力があるものか。これで大人しく聞くなら有名にはなってないだろうし。
○月□日
ㅤ機密ボディとその先にあるもの。スペック的に出来ない事はないと保証されている攻殻ロールも、やはり動きが完全に再現出来てるかと問われれば微妙なところだ。台詞回しは何となく出来てる気がしないでもない。
ㅤ先人であるオリジナル達にはとても勝てないという事は重々承知の上だが、それでも彼彼女らを真似てる以上はそれなり以上の完成度が欲しいところ。
ㅤとなれば経験値が足りない。……やはりビルから飛び降りてみるしかないか。
○月✕日
ㅤ以前注意した探偵科の……確か峰 理子だったか。
ㅤ連絡を入れてきたので何かと思えば、お茶のお誘いだった。知りたい事があるなら直接聞けと言ったのを覚えていたらしい。物好きなやつだ。
ㅤ……それはそうと四対四の実戦テスト、カルテットが来週に迫っている。
ㅤ一年全員参加のこのテストで俺だけ参加しませんというわけにはいかないので誰かとチームを組む事になるわけだが、それでも俺がやる事は変わらないだろうな。
○月□日
ㅤカルテットはこちらのチームが勝利を収めた。
ㅤ俺は真っ向から勝負を挑む事はせず、ひたすら逃げて撃つだけだったものの。全体的に見ると圧勝だったらしく、そうでないとなぁと今日は一段と蘭豹先生のテンションが高かった。
ㅤそういえばだいぶ前に折って渡した鶴が加工されて吊るされていたな。視線に気付いた本人は生徒からの好意を無下にするのは教師としてどうのこうのと調子良く喋ってたけどさ、あの時あんた面白くないからって殴ったろ。俺は覚えてるぞ。
○月□日
ㅤ武偵殺し、武偵殺しねぇ……。
ㅤより一層周囲への警戒を深めないとな。乗り物に爆弾なんて厄介な手口を使ってるおかげでおちおち外出もしてられない。
ㅤ犯行に固有の周波数……フギンに軽く探らせてみるか。
○月□日
ㅤ今日はレキと組んで仕事に出た。彼女とは教務科の勧めもあってそれなりの頻度で組んでいる……といっても、両手の指で足りる程度だが。それでも共闘回数が最も多いのは間違いなく彼女だ。
ㅤいつだかの厄介な仕事以来
ㅤ枝に限らず武偵殺しの騒ぎがあってから、例えば光学迷彩やなんかの傍から見てわかるようなものは人前で使わないものの、フギンを用いたハッキングやダイブ等は以前にも増して有効活用するようにしている。電脳戦の経験値もいつか必要になってくるはずだ。
ㅤ帰りにどうして敵の位置が正確に分かるのか聞かれたが、熱感知ソフトを使っていた手前正直に答えるわけにもいかないので、取り敢えずゴーストの囁きに従ったと答えて誤魔化しておいた。
ㅤ……まあ嘘は言ってない。自分自身に従ったという事なのだから。
○月□日
ㅤ今日も特に書く事は……っと、ああ。久しぶりに二日休みをもぎ取った。
ㅤ基本的に蘭豹先生が任務を回してくるし、土日祝日なんてあってないようなもんだからな。
ㅤなくても無理に仕事用意してくるぞあの鬼。……経験値はありがたいんですがね。
ㅤ空きが出来たのは来週末、一旦静岡にある我が家に帰宅して日々酷使している義体のメンテナンスを行う。
ㅤさすがにメンテナンスフリーのイモータル義体でもないのに一年近くノータッチで放置しておくのは不味いしな。
○月□日
ㅤ薄く埃の積もった我が家、それからガレージで大人しくしていたフギンムニンも俺の帰りを喜んでいた。
ㅤエージェント体で傍にいたとはいえ、直接触れられるのが嬉しいのだろうか。何にせよ可愛い。
ㅤ早速ムニンに義体のメンテナンスをしてもらい、それから彼女らのボディの手入れをしてやった。また暫く帰って来られないだろうから、いつもより念入りに。
ㅤこれといって何かをするわけでもなく、ただのんびりとしているのは本当に久しぶりだ。
ㅤ……また明後日から任務祭りか。結果的に望んだ事とはいえ、少し憂鬱になってくるな。
ㅤ
○月□日ㅤ
ㅤばったり出会したレキに普段世話になっているお礼として静岡土産を渡した。
ㅤ蘭豹先生の分はもちろん休み明け──というより、帰って早々に渡した。わざわざ探さなくたって向こうから来るわけだしな。
ㅤあれから一週間になるが、日持ちする物なので問題なし。常に持ち歩いてたのかというツッコミもなしだ。実際その通りだからな。
ㅤ橙マーマレード、これでヨーグルトでも食べればいいさ。
○月□日
ㅤどうにも嫌な感じだ。
ㅤ武偵殺しが捕まったという話は風の噂程度に聞いていたが、それ以前からどうにも周囲の、特に強襲科全体の空気が悪い。
ㅤ容疑者がヒロインの親類で、主人公の親類が事件に巻き込まれて因縁浅からぬ関係と。
ㅤ武偵殺し、何か引っ掛かるな。
ㅤフギンに探りを入れさせつつ、自分でも情報を渫ってみたものの軽く潜った程度じゃな……というかそもそもの話、これは調べて答えの出る類の違和感なのか?
○月□日
ㅤ明日から新学期。
ㅤ俺は蘭豹先生の任務祭りで春休みなんてないものだった──というか入学から休みなんてそんなにもらってない……あらやだうちの学校ブラック一歩手前。
ㅤ休みがないならせめて日中くらいのんびりしたいと、楽しみにしていた桜の二十四時間監視も早々に中断。任務に駆り出されるしマジ碌な事がねぇ。
旧後書き
ここまで読んで下さった皆様には申し訳ないと思いつつ、正直に申し上げようと思います。
作者は、友人宅で緋弾のアリアの原作を数巻分流し読みした程度でそれ以上は全く存じ上げていません。友人伝に色々とネタばらしされたくらいです。
事の次第は以前作者が友人にちょっとした頼み事をしまして、その見返りとしてこの作品を執筆し公開する事になったと。そんな感じです。原作知らんしと拒否してラノベを叩きつけられたのもその時で、恐らく多分きっと知識の方に不備があります。
作者は思考戦車をヒロインにしたかったのですが、友人から直々にヒロインの指定等があり、話の流れを強引に持って行く事が多々あると思います。
今後もお付き合いして頂ける場合、皆様にはそのような不備によって多大なご迷惑をお掛けする事もあると思います。というか間違いなくあります。
投稿間隔については短いスパンで〜と予定していますが、もし日にちがそこそこ空いている時はこいつ原作読んでるなくらいに考えてください。
以上、お付き合いありがとうございました。お暇がございましたら、今後ともよろしくお願い申し上げます。
後書き
この度の改訂への経緯について。
シンクス三機娘の個体名について、彼女らの内の一機がその、不適切なイメージを連想させてしまう表現になってしまっているとの感想を頂きまして、明言は避けますが、Goodの数を見た感じ同じ印象を持った方も多くいらっしゃる様子なので、いっそ名前を全機一新してしまおうと考えたわけです。
あ、何のこっちゃと思った方はそのままで良いと思います。決して調べようとか考えないでください。僕は調べて本気で後悔しました。暫く食欲、気力共に減退しましたし。ネットは広大ですね……。理解出来ない
と、名前を変更するとなると幸運艦ネタも不死鳥ネタも使えそうにないなと思い、それ前提で書いていた部分から全て書き直す事になった次第です。
さすがにフギンムニンなら大丈夫でしょう。