【大相撲】炎鵬の「小よく大を制す」大好き2019年7月9日 紙面から ◇北の富士評論「はやわざ御免」2日目は熱戦が多かった。いきなり白鵬と朝乃山の一番からいきましょう。まず立ち合いだが、白鵬は先に仕切っている朝乃山に対し、なかなか仕切りに入らない。これは明らかに、意識的に遅らせたに違いない。ゆっくり腰を下ろし、両手はチョン付きで先に踏み込んでいる。結果的には朝乃山が立ち遅れた格好になった。実に巧妙な立ち合いではある。 白鵬は左上手を労せず引いて万全の体勢となった。朝乃山は右こそ差したが上手は遠い。十分の白鵬だが攻め急がない。朝乃山はついにじれて、上手が取れない不十分の体勢から寄って出る。そこを待っていたかのように、白鵬は伝家の宝刀・上手投げであっさり投げつけた。 高安と竜電の取り直しは力が入った。最初の一番は確かに際どかったが、私は攻め続けた竜電が勝ったと思っている。竜電の右肘も早く落ちたが、高安は倒れついでに打ったもので体はなかった。 私らのころは「攻めた方に七分の利がある」と言われたものだ。今は、体勢はあまり関係ないようだ。これも時代の流れだから仕方がない。ファンはもう一番見られるから、それで良いのかもしれない。取り直しの一番も竜電が終始攻め続け、見事に大関を破った。まじめな好力士である。 まだまだ書きたい相撲はあるが、私は腹が減って死にそうである。でも、この一番だけは死んでも書きたい。その相撲は炎鵬と魁聖の一番。99キロ対200キロ。背丈は20センチも違う。これだけでも既に面白い。 立ち合いから炎鵬は動きまくる。巨体の魁聖が何とか捕まえようとするが、右へ左へ、そして下へ潜る。脇の下からスルリと逃れて後ろに回り、送り出して勝った。場内は大喝采。私も大喜び。 魁聖君、申し訳ない。今日だけは許してほしい。これは、大きく生まれた者だけが味わう宿命なのである。「小よく大を制す」のが大好きなんです、日本人は。君も幕尻だから、3日目からはどんどん勝ってもらいたい。頑張れ、魁聖! ナニ、今さら遅い? すまん。それでは、また明日。 (元横綱)
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