@chablis777
シャブリ

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なつと咲太郎が 新宿に着いたのは翌々日の早朝でした。
(なつ)亜矢美さんには話したの?
(咲太郎)電話で簡単にな…千遥に会えなかったってことも。
それじゃ 元気出した方がいいね。
うん そうだな。
♪~
(2人)ただいま!
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(亜矢美)うん…。
置屋ってさ東京のどこにある置屋だろうね?
それは言わなかったみたい。
だから 手紙にもわざと書いてないんです。
結婚するなら 置屋にはもう いなくなるんだろう。
う~ん… 結婚する相手のこともわざと詳しくは書かなかったのね。
そんだけ あんたたちのことを思ってるってことよ。
もう少し 信用してくれてもいいのにな。
幸せを邪魔するようなことは絶対しないのに。
千遥ちゃんの方が 会いたい気持ちを抑えきれないからだって書いてあるでしょ。
でも そんな結婚をして幸せになれるんでしょうか?
なれるよ。
自分で こうって決めたことならどんなことがあったって前に進んでいける。
で もし「ああ つらいああ もう しんどいああ もうダメだ」って思った時には千遥ちゃんには 今北海道ってものがあるんじゃないの。
フッ… そうですよね!
なつは 宿題になっていた短編映画の企画に「ヘンゼルとグレーテル」を提案することにしました。
♪~
(夕見子)あんたら きょうだいにとってそのパンが 絵なんだわ。パンを落とす代わりに 絵を描いてんの。それが自分の家に帰るための道しるべなんだわ!
♪~
1週間近くも ご迷惑おかけしてすいませんでした。
(麻子)何があったかは聞かないけどちゃんと 短編の企画のことは考えてきたんでしょうね?
あっ… はい。 マコさんと坂場さんは?
あなたがいない間にさんざん 2人で話し合ったんだけどねどうも ダメなのよ全然 考えが合わなくて。
そうなんですか?(坂場)とりあえず君の提案を聞いてからまた意見を擦り合わせようということになってね。
考え方の違いだから擦り合わせようがないんだけどね。
どう違うんですか?いいから あなたの考えを言いなさい!
あっ はい! あの…私は これがいいと思うんですけど…。
「ヘンゼルとグレーテル」です。
「ヘンゼルとグレーテル」を原作にして短編映画を作りたいと思ったんです。
(下山)ふ~ん「ヘンゼルとグレーテル」か…。
グリム童話ね。そです。
マコさんの好きな「白雪姫」とおんなじです。
関係あるの?別にないです。
なぜ「ヘンゼルとグレーテル」なんですか?
なぜ?なぜ これをやりたいと思ったかです。
ああ…。
それは 休みを取った理由と関係があるんですか?
あの… 私は 戦争で孤児になったんです。
あっ 兄が生きています。
それに 子どもの頃に生き別れになった妹もいます。
この休みの間に その妹が元気に生きていることが確認できたんです。
そうだったの…。
3人とも それぞれいろんなことがあっていろんな人に助けられながら今日まで生きてきました。
なるほど…。
それは つまり「ヘンゼルとグレーテル」にあなたたち きょうだいを投影したいということですか?
いや そこまでは考えてません。
まあ でも ひかれたきっかけにはなってると思います。
ヘンゼルとグレーテルはまま母に捨てられて 道に迷いお菓子の家を見つけたせいで魔女に捕まってしまいます。
それで 食べられそうになっても生きることを諦めませんでした。
何か そういう 困難と戦って生きていく子どもの冒険を描きたいって思ったんです。
なるほど。 広い意味でこれは子どもの戦いですからね 確かに。
冒険物ね… 面白そうじゃない?
面白そうですが実際には どう面白くするかです。
童話を そのまま映像にするだけなら大した冒険にはならないと思います。
はい。(坂場)それは これから考えましょう。
テーマさえ 明確にあればあとは どう面白くするかそのアイデアを出すだけになりますから。
ちょっと待って。やっぱり 脚本作らないつもり?えっ?
脚本を作らないとは言っていません。
脚本家を立てないと言ってるんです。
えっ どういうことですか?
そこが 考え方の違いなのよ。
私は 話を重視して企画を決めたいのにこの人は テーマがあれば話はいらないって言うの。
いらないとは言っていません。
最初から決める必要はないと言っているんです。
(下山)まあ まあ まあ まあまあ まあ まあ まあ…「ヘンゼルとグレーテル」でいいかそれだけでも決めない? ね。
僕は いいと思います。
私も これをやること自体はいいです。
ありがとうございます。
(桃代)へえ~ じゃ あの坂場さんと一緒に作品を作れるんだ?
うん… 短編だから お互い勉強のためにそういうチャンスをもらったってだけ。
なっちゃんは 自分でチャンスをつかんだのよ。
経験を買われて 原画を任されたんだからすごいことじゃないの。
でも 実際どこまでできるか分かんないし 怖いよ。
大丈夫よ。自分の力を試してみればいいじゃない。
せっかくもらったチャンスなんだし。
うん… そだね。
何か モモッチと話してると気が楽になるわ。
それで?ん?坂場さんとは うまくいきそう?
イッキュウさん?イッキュウさん?
ほら 坂場一久って坂場イッキュウとも読めるでしょ。
ああ ハハハ…。
う~ん… 何を言いだすか分かんないから怖いけどでも この人がいればきっと いい作品ができるって妙に安心すんの。
へえ~…。
ねえ それって もしかして…好きになった?
えっ?
違うわ! そんな意味はないからね。
イッキュウさんのお父様って大学教授らしいわよ。
ふ~ん そうなんだ。
結婚しても 肩凝りそうじゃない?
うん…。
本当 何もないからね!
ん?ん?
フフフ ふ~ん…。
♪~
そして その晩のことでした。
♪~
あ~ いらっしゃい! お一人?
はい。じゃあね… ここ詰めて。
いえ あの… こちらに 奥原なつさんはいらっしゃいますでしょうか?
なっちゃんの知り合い?はい。 同じ会社の坂場と申します。
じゃ なっちゃん呼ぶよ せ~の…。
(一同)なっちゃ~ん!
彼氏来てるよ!いい男だよ!
早く 早く…!
はい 何ですか? あっ!
ちょっと相談があって ここに来ました。
はあ…。
おでん屋さんに下宿をしてると聞いたものでお邪魔しても差し支えないかと…。
今 企画書を書いてるんです。
あっ いや あのここじゃなんですから…。
♪~
どうぞ。失礼します。
私も 今 考えてたとこなんです。
すぐに 絵を描ける場所の方が話しやすいですから。
あの…。あっ… はい。
あっ… あっ 今 お茶でも…!結構です。 お構いなく。
すぐに おいとましますから。
じゃ 座って下さい。 適当に。
はい。
あっ…。
もしかして 子どもの頃に生き別れになったという妹さんですか?
はい… その妹が 急に現れてまあ 事情があって会うことはできませんでした。
そのかわりに手紙と この絵を残してくれました。
妹さんも 絵を描くんですか?
そうだったんです…絵は 私たち きょうだいにとってヘンゼルとグレーテルが落としていったパンだとある人に言われました。
パン?帰り道を残すための道しるべなんです。
それで「ヘンゼルとグレーテル」をやろうと思ったんですね。
そうです。
それで 相談したいことというのは?
ああ… あらすじです。あらすじ?
はい。 兄のヘンゼルが魔女に食べられそうになっていて魔女は おいしい食べ物をたくさん ヘンゼルに与え太らせようとします。
それを妹のグレーテルが手伝わされていて最後に 魔女を かまどに突き飛ばして焼き殺します。
ヘンゼルを助けるために。はい。
それで いいんでしょうか?
そうなんです! 実は 私も一番 そこが引っ掛かってるんです。
そんな残酷な結末を子どもに見せたくないんです。
それなら どうしますか?
例えば…。
魔女を殺さずに逃げたらどうなるんでしょうか?
逃げる?
きょうだいで逃げるわけですね魔女の家から。そうです。
それを 魔女が追ってきたらどうなりますか?
逃げても逃げても追ってくる魔女…魔女とは子どもたちの自由や未来を奪うような社会の理不尽さみたいなものの象徴です。
逃げても逃げても追ってくる社会の理不尽…それと どう戦うか…。
あっ…。すいません。
♪~
今 君の話を聞いて確信しました。
これは 君が作るべき作品です。えっ…。
そのために僕が必ず この企画を通します。
うん…。
失礼します。えっ?
あっ ちょっと待って下さい…!


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