イランが核合意の制限を超えてウラン濃縮を進めると表明した。米国との対立は緊迫度を増し、軍事衝突の懸念も強まる。双方に自重を促す、欧州など国際社会のいっそうの外交努力を求めたい。
そもそも、イランをここまで追い詰めた責任は、トランプ米大統領にある。
米英仏独中ロが二〇一五年に結んだ核合意で、イランは核開発を制限する見返りに制裁を解除され、原油輸出が可能となった。イランの脅威も減じたはずだった。
しかし、トランプ政権は昨年、合意から離脱し制裁を復活。イランも合意の一部履行停止を表明、今月初めにまず低濃縮ウラン貯蔵量を合意の上限より増やした。濃縮超過は履行停止第二弾となる。
英仏独などはイランとの取引を進めるための組織を設立したが、米国の制裁を恐れる企業はイランとの原油取引に及び腰で、成果は上がっていない。
核合意でイランはウラン濃縮度を3・67%以下に制限していた。今回、原発で使用される5%前後に引き上げる。ただ、核兵器に転用可能な90%にはほど遠く、核合意は、なお維持する構えだ。いわば、欧州からの経済支援を求める瀬戸際戦術だ。
トランプ氏は「イランは気を付けたほうがいい」と警告、米、イランの対立はエスカレートする一方だ。先月、米無人機がイランに撃墜された際にはトランプ氏はいったん、イラン攻撃を決定、軍事衝突一歩手前の危うさだった。
イランで戦火となれば、イランと対立するイスラエル、サウジアラビアなども巻き込み、中東全体へと波及する。サウジなどによる核開発ドミノも起こりかねない。
イランが秘密裏に進めていた核開発は〇二年に判明。国連安全保障理事会は制裁決議を採択し、イランは国際的に孤立したが、穏健派のロウハニ大統領就任を機に話し合いを進め、ようやく、こぎ着けた核合意だった。対立と不安の時代に逆戻りさせてはならない。
核合意の基にあるのは各国間の信頼醸成だ。イランは危険な瀬戸際戦術をやめ自重してほしい。大統領選を控えたトランプ氏も戦争は避けたいはずだ。欧州はあきらめず、中ロとも協力し、仲介努力を続けてほしい。
安倍晋三首相が先月、イランを訪問、日本は対イラン外交で米国と一線を画す。緊張緩和に尽くしたい。米国の無理をただ通せば、世界のルールが壊れてしまう。
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