「老後は公的年金以外に二千万円不足する」との金融庁の報告書は、年金制度への不信と老後の不安を拡大させた。
高齢期の生活は年金制度だけが課題ではない。働きたい人がそうできる雇用をつくり、医療や介護サービスを充実させ、住宅を確保して地域社会の支え合いの力を強化する。
「老後の安心」にはこうした多様な政策提案を分かりやすく示す必要があるが、各党の訴えはこの視点に欠けているのではないか。
多くの人の収入の柱は年金だが、制度への不安が拡大している。原因は政府・与党が制度の現状や負担の必要性をよく説明してこなかったからだ。それを語ることなしに制度への理解は進まない。
だが、金融庁の報告書をなかったことにするような姿勢では参院選での訴えも説得力を欠く。
安倍晋三首相は党首討論会で「負担を増やすことなく年金給付額を増やすという打ち出の小づちはない」と述べた。そうならば選挙戦でも負担増や給付減という「痛みの分配」こそ語るべきだ。
消費税率の10%超への増税は「今後十年くらいは必要ない」とも語った。消費税は社会保障の財源に充てる税だが、「十年」の根拠は一体何だろうか。
野党は年金制度の争点化を図っている。各党は給付の充実策を訴えているが、具体策を示すべきだ。充実への財源はどうするのか。
野党各党は消費税率の10%への今秋の引き上げに反対だ。高齢者も含めて負担を増やすのか医療や介護サービスを削るのか、野党も負担のあり方こそ語るべきだ。
同時に年金だけでは生活できない人への支援策も聞きたい。
働きたい高齢者もいる。高齢期は健康状態の個人差が大きい。個々の状態や希望に合わせた働き方をどう実現していくのか、その具体案も示すべきだ。
二〇四〇年には高齢者数がピークに近づく。医療と介護に必要な費用が増える上、担う人材が不足する。
賃金を上げるには保険料や税の負担の議論から逃れられない。人材確保は賃金アップだけでは不十分である。高齢者の就労支援や外国人材の受け入れ態勢の整備なども「老後の安心」の中で考えたい。
住宅は生活の基盤だ。年金で生活できるよう空き家の安価な活用などで住宅を増やしたい。認知症になっても暮らせる地域や制度をどう整えるのかも争点のはずだ。
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