提供:日立造船株式会社
2030年のSDGs最終年に、創業150年目を迎える日立造船。
エンジニアリングとものづくりの技術で、循環型社会の実現を目指す。
文=石井聖子 写真=祐實とも明(谷所社長のみ)
2018年に「SDGs推進方針」を策定し、企業理念「技術と誠意で社会に役立つ価値を創造し、豊かな未来に貢献します」のもと、総力をあげて取り組む姿勢を表明した日立造船。同年9月には日本の製造業で初めてのグリーンボンドを発行するなど、実際のアクションも起こしている。しかし、谷所敬社長は「特別なことはしていません」と言い切る。
「なぜなら事業活動の目的は循環型社会の実現であり、SDGsと目指すところが同じだから」
確かに、事業の中心であるエネルギーと水は、例えば食糧を作るのにも不可欠で、しばしば紛争の元にもなる。事業が全てのゴールにつながるのは必然だ。
同社の歴史は1881年、英国人E・H・ハンターが海外交易のニーズを汲んで造船業を創業したことに始まる。船といえば木造船だった当時、日本初の鋼船やタンカー、洋式捕鯨船などを製造し、造船技術を基盤に社会課題に挑む新事業を次々開拓。2002年に造船事業を分離し、新たなスタートを切った。
現在は、ごみ焼却発電、海水淡水化や上下水処理などの「環境・プラント」、舶用エンジン・プレス機械などの「機械」、橋梁や水門、シールド掘進機、水害対策設備などの「社会インフラ・防災」を3本柱に、浮体式の洋上風力発電システムや次世代蓄電池などの新技術や機能性新素材など、最先端分野の研究開発を進めている。創業150年に向けた長期ビジョンで目標に掲げるのは、環境汚染、食糧・水・エネルギー不足、異常気象・自然災害といった社会の課題を解決に導く「循環型社会実現のソリューションプロバイダー」になることだ。その最終年度は2030年。SDGsと会社としてのビジョンが、内容も時期も、運命的なまでにぴったり重なった。
具体例をあげると、エネルギー領域の主力事業であるごみ焼却発電プラントは、生活と切り離せないごみを衛生的に処理すると同時に、燃焼時に発生するエネルギーを電気に変換。ごみ、エネルギー、地球温暖化の問題解決に貢献する。
「各地域のクリーンセンターは防災拠点としての役割も担い、環境教育の場にもなっています。臭いも完全シャットアウトし、東京・杉並区のプラントでは散策路やビオトープを設置。プラントの製造だけでなく運用まで担い、『Hitz先端情報技術センターA.I/TEC』では国内数十カ所と一部の海外プラントを遠隔監視して運転を支援。燃やすごみの材質や状況で変化する燃焼状態を安定させ、設備にかかる負荷を軽減することでコストを抑制できます」
実績は世界トップクラス。特に、人口増加や経済発展著しい東南アジアでニーズが高まっており、普及が進む。価格や性能などを国や地域に合わせてアレンジし、地産地消で根付かせることが重要なため、雇用創出に加え環境啓発活動も実施。複合的な課題のソリューションも提供する。
今後の大きな課題は、世界中でもっと自社の技術を使ってもらい、社会問題の解決につなげてもらうことだ。現在、事業の海外比率は約3割だが、潜在的なものも含めたニーズはまだ高く、普及を加速させていくという。
環境保全プラントなどの“第1号機”を手がけるには莫大な労力が費やされる。リスクを負う一方で、利益にはつながりにくい。それでも将来を見据えると、会社にとっても社会的にも取り組む意義があると考えていると谷所社長は言葉に力を込める。
「私たちの使命だと考えています。創業時から受け継ぐ挑戦の精神で、事業を通じて社会の課題の解決、SDGsの達成に向けて取り組んでいきます」
主力商品のごみ焼却発電プラントは、衛生的にごみを処理しながら、発電を行う。ごみを燃やさず、発酵させて電気を生み出すメタン発酵システム、陸上・洋上風力、さらに、電力を蓄える燃料電池や全固体リチウムイオン電池、余剰電力を使う水素製造装置、水素とCO2をメタンガスに変換するメタネーションなどで、エネルギー問題に幅広く貢献する。
中近東や離島を中心に、海水淡水化プラントの建設で水不足の解消や安全な飲み水の確保に尽力している。また、上下水処理や産業排水処理システム、汚泥再生処理プラントは、河川の水質汚濁を防ぐなど、暮らしと産業発展を支える水資源の衛生的かつ効果的循環に寄与。
100年以上の歴史を持つ橋梁事業を筆頭に、インフラ整備で人々の生活を支え、その技術をベースに防災にも貢献する。水門の技術を生かし、浮力や水圧によって緊急時に無人で立ち上がり浸水被害を防止するフラップゲート式防波堤を開発。地震や台風による津波・高潮や、気候変動の影響で増える水害などの被害を軽減している。
国内各地の環境関連施設で、施設見学や環境啓発授業を提供。海外でも、ラオスで教育普及活動を実施。高校生・大学生向けの環境啓発イベントや小学生向けの学習教材の制作、授業などで、衛生的なごみ処理やリサイクルによる環境保護の重要性を伝える啓発活動に取り組む。
女性・外国人採用を積極的に推進。誰もが個々の能力を最大限発揮できる働きやすい職場をつくるため、スーパーフレックスタイムや在宅勤務、サテライトオフィス、服装を原則自由化する「SMART & EASY STYLE」などを導入。2019年3月には経済産業省の「平成30年度新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれている。
取締役会長兼社長
大阪生まれ。電子・制御をはじめ幅広い事業に関わってきた技術畑出身のトップとして、グループの成長と同時にSDGs達成に寄与する取り組みをけん引する。
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