前回は、IOCファミリーの違法ライセンスで誰が損害を被るのか?
について論じましたが、
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/185887349.html
今回は、IOCファミリーのような非営利公益団体とされている団体が、
そもそも、自らの著名登録商標を何故ライセンスできないのか、
についてお話しましょう。
なお、2019年4月中に法改正案が参議院を通過すると思われますが、、
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19809032.htm
この法改正案によれば、
非営利公益団体のライセンス禁止条項のうち、
通常使用権の許諾禁止(商標法31条1項但書)は削除されるので、
法改正後に締結されるライセンス契約の多くは合法化されますが、
専用使用権の設定禁止(商標法30条1項但書)及び、
商標権の譲渡・移転制限(商標法24条の2第2及び3項)は残るので、
法改正前になされた、
ライセンス契約と違法ライセンスに伴う違法事態は、
合法化されることなく今後も違法状態であることになります。
特に、オリンピック関連登録商標をサブライセンスしている場合、
非営利公益団体のライセンス禁止条項の有り無しに関係なく、
違法ですので、大きな問題は法改正によって全く解消しない
ことになります。
《原則、商標権はライセンスできる》
著名な登録商標には厚い信用が蓄積しているので、
その登録商標を使用したいという多くの営利業者がいます。
商標権者に事業運営能力がない場合、
その事業運営を商標権者以外の者に委ねて、併せて、
登録商標のライセンシーとなって、事業運営に活用することは
積極的に行ってよいわけで、何ら問題となることではありません。
事業者が登録商標を使って、
大いに事業展開を図ることは商標法の趣旨に適い、
我々弁理士もそのサポートによって生計を立てられる
ということになります。
この事情は他の知的財産権でも同様で、
●特許法78条1項●
「特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる。」
●実用新案法91条1項●
「実用新案権者は、
その実用新案権について他人に通常実施権を許諾することができる。」
●意匠法商標28条1項●
「意匠権者は、その意匠権について他人に通常実施権を許諾することができる。」
●商標法31条1項
「商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。」
と全く同じように規定され、知的財産権は原則ライセンスできます。
■4条2項登録商標には
社会的・国際的信用・権威・国際信義が厚く蓄積している■
しかし、商標法31条1項だけは、
「ただし、第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権については
この限りではない。」として、
第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権の商標権者である、
非営利公益団体等に対してはライセンスが禁止されています。
何故、商標法だけがこのような規定ぶりになっているのか、
ということです。
以下では、
第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標登録を
「4条2項登録商標」ということにしましょう。
《非営利公益団体が4条2項登録商標をライセンスできない理由》
■社会的・国際的信用・権威・国際信義を保護する■
非営利公益団体は営利を目的とした商業的活動をしていない筈なので、
4条2項登録商標には、
商業的な商品・サービスの信用が蓄積しているわけではなく、
非営利公益団体自身の公益活動の社会的な信用や、
場合によっては、国際的信用・権威が厚く蓄積し、
国際信義の要になっている場合もあります。
従って、4条2項登録商標を、
みだりに営利目的の商業的事業に使われると、
蓄積した社会的・国際的信用・権威・国際信義が毀損され、
取り返しのつかないことになる、として、
商標法は、4条2項登録商標をライセンスさせないようにして
非営利公益法人ではなく、
4条2項登録商標に蓄積した信用を手厚く保護しているのです。
このことは、4条2項登録商標の対象となる商標権者のトップに、
国・地方公共団体が挙げられていること(商標法4条1項6号)
を考えると良く理解できます。
例えば、仮に、国(誰が国なのかと言う問題は置いておいて)が、
仮に『日本国』を商標登録して、一部の業者にライセンスして、
その業者が妙な商品に『日本国』を使用して問題でも起こせば、
日本国自身の国際的信用が毀損するという大変な事態に陥ります。
4条2項登録商標の対象となる非営利公益団体とは、このように、
国・地方公共団体に匹敵する存在とされているともいえます。
■非営利公益団体にはライセンス管理能力が乏しい■
知的財産権を他人にライセンスするというのは、
言うは易しですが、実際には結構大変な労力を要します。
商標権者は、ライセンス料を対価として受け取るのですが、
ライセンス料の算出根拠はライセンシーの事業収益が基準となる
場合がほとんどです。
そうなると、商標権者は、
ライセンシーの事業状況を的確に把握していなければ、
ライセンス料が適正に支払われているのかわかりませんし、、
ライセンシーが違法な営利活動や経理などやっていて、
そのことが発覚しただけで、
商標権者の登録商標に蓄積された信用は大きく毀損されます。
従って、通常の営利企業は、ライセンス管理をするために、
知的財産の管理部門を設置する等の相応の費用と労力をかけます。
商標法31条1項柱書は戦後に商標法が現在の形式に整備された
昭和35年法に既に存在しており、
商標法が当初想定した非営利公益団体は、堅実に公益活動に取り組み、
ライセンス管理のために相応の労力などとてもかけられなかった
と思われます。
4条2項登録商標の対象となる非営利公益団体には
大学・NPO法人も含まれますが、今でも、
大学法人の大学の先生が、片手間でできるようなものではない
ライセンス管理部長を一生懸命やっているようでは、
大学の本業である教育・研究活動が心配ですし、
NPO法人に至っては、休眠状態のところも多く、
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190416-00000106-mai-soci
本業すらきちんと運用しているか疑われる状況ですから、
ライセンス管理など到底おぼつかないことになります。
そのため、大学・NPO法人は、特許庁の指導を受けながら、
ライセンス禁止条項に抵触しないように、
いろいろな工夫をしているという現実があります。
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/285/285kiko2.pdf
■ライセンス禁止条項は登録優遇条項とバーターである■
商標法は、4条2項登録商標を手厚く保護する趣旨で貫かれています。
その手厚い保護の具体的作用として、
社会的・国際的信用・権威・国際信義が毀損されないように
ライセンス禁止条項(商標31条1項但書)を設ける一方で、
非営利公益団体以外の他人が、4条2項登録商標を取得できないように、
非営利公益団の著名商標は何人にも登録をせず(商標法4条1項6号)、
非営利公益法人にだけ登録を認める(商標法4条2項)という
登録優遇条項を設けています。
普通の商標権者の商標には登録を優遇するこなどしない代わりに、
登録商標を自由にライセンスすることを認めているのに対して、
非営利公益団体の著名商標には登録上優遇する代わりに、
登録商標のライセンスは認めないということができます。
《IOCファミリーのライセンス活動の場合》
■IOCファミリーのライセンス管理能力■
IOCファミリーのライセンス管理能力は、
ライセンス禁止条項をよく理解して苦労する大学・NPO法人に比べて、
驚くほどレベルが低いと言われても仕方ないと思います。
実際、このような評価もあります⇂。
http://www.rating-tpcr.net/wp-content/uploads/d3b65dee2e78e039e15f2f032ad7b826.pdf
IOCファミリーは、ライセンス禁止条項を知らずに、
公然と違法ライセンス活動に邁進していると、
私は好意的に考えていました。
もし、IOCファミリーがライセンス禁止条項を知って、
公然と違法ライセンス活動していたとなれば、
それはもはや犯罪行為であり、とんでもない話になるからです
(もっとも、現時点では、
弁理士会誌、国会質疑、新聞報道により広く知れ渡っていますので、
「知らなかった」と言われても、さすがに好意的になれませんが)。
オリンピック関連登録商標は、
社会的・国際的信用・権威・国際信義が厚く蓄積されているにも関わらず、
商標権者が法律無視のライセンス活動を行ってしまったことにより、
これが国際的に知られれば、
その蓄積されたものが致命的に毀損されてしまうことになります。
そうであれば、
管理能力のない非営利公益団体がライセンスすることにより
4条2項登録商標の信用毀損が発生するという、
商標法が当初想定した懸念が実際に起きてしまったわけで、
非営利公益団体に対すライセンス禁止条項は十分な意味があった
ということになり、
安易なライセンス禁止条項の削除は早計であるともいえます。
■IOCファミリーは普通の商標権者でいいではないか■
小川勝氏が著書『オリンピックと商業主義』で、
友利昴氏が著書『オリンピックvs便乗商標』で指摘されるように、
IOCファミリーを非営利公益団体と言ってよいのかという問題があります。
これらの著書によれば、
IOCは1980年代から大規模な商業的活動をしており、
その財務状況を開示していません。
報道によれば、組織委員会も、
集めた4000億円に迫る協賛金の使途について開示していません。
IOCファミリーは、我国において、
国民からエンブレム等のデザインを公募し、
教育機関を通じて児童にマスコットキャラクターの人気投票をさせ、
決定したものだけでなく、候補に挙がったものまで含めて、
開催都市である東京都との共同ではなく、
全て単独でこれらを商標とする50件を超える商標登録を行っています。
現状、組織委員会は大規模な組織に見えますが、
東京オリンピック後は解散して跡形も残らなくなり、
これらの登録商標は全て一民間組織に過ぎないIOCに移転されます。
そして、これらの登録商標を使用して、
営利企業に大規模な違法ライセンスを展開して、
4000億円に迫る協賛金を集め、
アンブッシュマーケティング対策の名の下に、
営利企業の利益を守るために、
日本国内での国民による善意の表現にすら差止警告を発します。
IOCファミリーが目の敵にするアンブッシュマーケティングは、
合法的に行うことを前提とした一種のパロディに近い活動である分、
法律を無視してデタラメな活動をするIOCファミリーよりも
遥かに真っ当でありましょう。
以上を考慮すれば、どう贔屓目に見ても、
IOCファミリーの活動は、非営利公益団体の活動とはいえないでしょう。
そうであれば、何も法律を無視するようなデタラメをせずに、
普通の商標権者として振る舞えば、法改正するまでもなく、
適法にライセンス活動ができたのではないでしょうか。
また、IOCファミリーの超著名な商標であれば、
登録優遇条項に頼らなくとも、何の問題もなく登録され、
他人が出願したとしても拒絶されるはずです。
一部の迷惑出願人による出願があったとしても、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E8%82%B2%E5%BC%98
登録に多少時間を要するにすぎませんから、
ライセンス禁止条項に直結する4条2項登録を、
何を好んでわざわざ目指すのか、ということでありましょう。
やはり、非営利公益団体の著名登録商標は、
ライセンスできない方が無難という結論になるようです。