名郷直樹(なごう・なおき) 「武蔵国分寺公園クリニック」院長
「武蔵国分寺公園クリニック」院長、「CMECジャーナルクラブ」編集長。自治医大卒。東京大学薬学部非常勤講師。臨床研究適正評価教育機構理事。『健康第一は間違っている』(筑摩選書)など著書多数。
一臨床医から見たがん検診の一般的な問題点
がん検診に害がある以上、それを上回る利益がない限り、がん検診による早期発見・早期治療は正当化されない。善意のためのがん検診が、検診受診者の健康を害するだけかもしれないのだ。利益が明確に示されていないがん検診は、害だけを及ぼすかもしれない。このことこそが、がん検診を語る上での前提である。「早期発見・早期治療は善」どころか、事実は反対なのである。
そこでがん検診の利益とは何か。対象となるがんによる死亡率の低下である。早期がんがたくさん見つかるということではない。がん検診をすれば、必ず多くの早期がんが見つかる。しかし、早期で見つかるということと、がんによる死亡が減らせるということは別問題である。まずこのことを理解する必要がある。
ここで実際に示されるべき事実は、がん検診で見つかったがんが、がん検診ではなく見つかったがんよりも死亡率が低くなることである。この事実が示されているのは、大腸がん(注5)、子宮頸がん(注6)、乳がん(注7)くらいである。乳がんについては、過剰診断も多く、質の高い研究に限定するとはっきりした死亡率の低下は認められないという結果も報告されており、微妙な面もある。
ここまでのまとめ。どんながん検診も例外なく害がある。がん検診を正当化するためには、害を上回る効果が示されなくてはいけない。それは決して簡単なことではない。偽陰性、偽陽性を最小限にした安価で優れた検査があり、その検査の基準が明確で、その後の精密検査で安全に診断でき、さらに治療が患者の生存率を延長し、そのうえで実際の検診でがんの死亡率の減少が示されなければ、がん検診は害だけを及ぼしているかもしれないという可能性を常に考慮しておかなければならない。これが例外のないがん検診に関する一般論である。
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