7/7追記:続報を書きました。よろしくお願いいたします。
ご意見ありがとうございます。「ZOZO前澤社長、坂上忍の海外移植問題」続報です。 - 勤務医開業つれづれ日記・3
はじめに・移植医療としては最悪の展開
こんな意見がテレビで出てくるようでは日本の移植医療も終わりです。
最初に当ブログのポイントをまとめると、
・海外に渡って移植をすること自体が、海外では非難されている
・前澤社長の心臓病児支援は最悪
・坂上さんの応援も的外れ
ということになります。
最悪の意見が公共の電波を使って日本中に広がるわけですから、日本の移植医療はこれから10年以上はまだ暗闇の中にいることでしょう。
なぜこの意見が最悪なのか、ちょっと説明したいと思います。
目次
- はじめに・移植医療としては最悪の展開
- なぜアメリカの心臓移植には4億かかるのか?
- なぜ日本では移植が進まないのか
- 今でも移植が進まないのはなぜか
- 「何かやってから言え」に反論する
- まとめ
- ドナーカードに記入しよう!
- 追記: ご批判について
なぜアメリカの心臓移植には4億かかるのか?
まずはなぜ日本からアメリカに移植で行くには4億円もかかるのか?ということです。
簡単に言うと10年以上前から米国に来る日本人の移植患者が問題になっています。
2008年に国際移植学会において「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」という主旨のイスタンブール宣言が出されました。
アメリカですら移植のドナーが少ないのに、日本人の移植患者がどんどん押し寄せてきていました。以前は数千万円で移植をすることができました。ですからなんとか頑張ってお金をかき集めて、渡米してアメリカで移植していたわけです。
困ったのはアメリカです。じゃんじゃん海外の人が来てドナーを奪っていくのです。関係者は激怒しました。そこで日本人を含めて海外の人が簡単に移植に来ることができないように、4億円ものデポジットを取ることにしたのです。
つまりは、
・海外で移植する人は非難されている。
・自国で移植をできる体制を作ってください。
・それでも無理してくる海外の人は、ガッツリお金払ってください。
これが世界のメッセージなのです。
4億円デポジットについての10年前の記事です。ご参照ください。
追記:イスタンブール宣言はこちら
臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言 国際移植学会
(日本臓器移植ネットワークより)
なぜ日本では移植が進まないのか
では次になぜ日本では移植医療が進まないのでしょう?
ごくごく簡単に言うと、移植のイントロでボロクソに叩かれたからです。
和田移植、という単語は聞いたことがありますか?1968年に札幌医科大学で和田先生が日本で初めて心臓移植を行ったのです。これに日本中が賛否両論まきおこりました。マスコミは騒ぎ立てるし、無関係の大阪の漢方医が裁判をおこしちゃうし、もうめちゃくちゃでした。
その後の移植は1999年まで31年間も待たなくてはいけませんでした。最初の移植のあと、次々と移植が進めば世界的にもかなり早い段階になったはず。
しかしイントロでボロクソに叩かれたため後続はでてこず、移植医療は完全に停滞して周回遅れになってしまったのです。
今でも移植が進まないのはなぜか
圧倒的に臓器を提供するドナーが足りないからです。日本では臓器移植の意思表示を約10%の人しかしていないとのデータがあります。
日本では移植についてネガティブな意見が多く、本人が同意していても残された家族の反対もあります。
海外では移植に同意しない場合のみ意思表示をする国が移植数を伸ばしています。オーストリアでは移植を拒否していない人は、移植に同意しているとみなされます。下記関連記事では99.9%が移植同意とされています。
日本ではとにかくドナーが不足しています。アメリカでもドナーが足りないと言われていますが、日本では絶望的な状況です。
医療現場では「あとは移植ですかね」というとき、(治療はほぼ不可能です)という意味が言葉の中に隠れています。ドナーがでてくるのはあまりにも夢物語、という日本ではドナーの絶対数がとにかく必要なのです。
「何かやってから言え」に反論する
ここまで書けば聡明な方には、なぜ前澤社長のやっていることが良くないか分かりますよね。
海外から、他国の移植心臓を金で奪うようなまねするな、と日本は言われています。
10年以上前のイスタンブール宣言で言われていて、自国で移植を行うことは移植医療の常識なのです。
前澤社長は社会的な地位があって、影響力の大きな人です。そんな人が、たまたま見かけた心臓病の子供に、
「お金あげるから、アメリカ行って心臓移植してこいよ」
といいます。
海外で他国の移植心臓を金で奪うようなまねするな、と言われていることを社会的に地位のある方が、
「金で移植してこい」
とあおって、反論が出たらマスコミが
「何かやってから(金だしてから)言え」
とか言ったらどう思うでしょう?
坂上さんはこう言っています。
「なんで今回の件で否があるのか分からない。こういう活動することによって不平等って言う方いますけど(前澤社長に続いて)ほかの子たちを支援する方が出てくるかもしれない。きつい言い方しちゃうと、こういうことに関して文句言う人って、果たして『あなた何かやってるんですか?』って思っちゃう。やってから言えと」
坂上さんの言うことは結局、
「どんどんお金出す人がいたら、どんどん海外で移植できるからいいよね。やってから言え」
ということと同じです。
「やってから言え」
という、やる方向が、もともと海外の人の臓器泥棒をやることなんですよ、札束でひっぱたいてならべないはずの海外の臓器移植の列に割り込んでいるんですよ、というのが医療関係者の意見です。
こんなマスコミの意見を、移植のドナーを日本人に提供している海外の人はどう思うでしょうか?
そして遅々として進まない移植医療を支えている日本の移植チームのみんなはどう思うでしょうか。
「なんで今回の件で否があるのか分からない」
という坂上さんの感覚が、根本的に私には分かりません。
まとめ
つまり前澤社長と坂上さんは、努力の方向が間違っています。
これだけ影響力がある人ですから、
「ZOZO利用者でドナーカード書いた人は4億円分の割引」
(100円割引だと400万人ドナーが増えます!)
とか
「ZOZOの全社員にドナーカード書かせます」
とか
「テレビを見ている人、みんな運転免許のドナー意思表示しようぜ」
とか言ってくれたら、本当に日本中の移植チームはむせび泣くと思います。
坂上さんが政治批判するなら、
「政治家全員、ドナーカード記載が立候補条件にしろよ」
とか言ってくれたら拍手喝采です。
でも実際は、
「金で海外で移植してこいよ」
「金も出さないで何言っているんだ」
という次元で終わっているのが本当に残念です。
そしてその臓器は、海外の人々の臓器なのです。
明らかにイスタンブール宣言(ベースは「世界人権宣言」)に反することを堂々と公共の電波を使っていう、マスコミの日本の移植医療に対する認識の低さに絶望します。
移植に反対なら反対でいいんです。そう書けばいいのです。ドナーカードに賛成でも反対でも、とにかく意思を表明すればいいんです。
(管理人注:誤読されている方が多いので赤太字にしました)
問題は何も意思表示をしないことです。故人の遺志がわからないまま、ドナーに適した多くの方が検討もされないまま亡くなられてお墓に入ります。
そして移植を待っている人たちは4億円を集めて、海外では白目で見られながら移植を受けなくてはいけないのです。
以上より、私は今回の前澤社長、そして坂上さんの発言内容は最悪だと思っています。
ドナーカードに記入しよう!
ここまでお読みいただきまして本当にありがとうございます。日本の移植医療の現状はおわかりいただけましたでしょうか。
そこで、できたらドナーカード(正式名称は臓器提供意思表示カード)に記入しましょう。インターネットでも意思表示はできます。
日本臓器移植ネットワーク | 臓器提供について | 意思表示の方法
こちらを参照してください。3つの方法が書かれていますので自分で一番やりやすい方法を選んで意思表示をしてください。
移植に関して臓器提供意思表示カードの書き方はこちらにあります。運転免許書、健康保険証、マイナンバーカードを持っている方はすぐに記入してください。
意思表示説明用リーフレットです。クリックするとPDFが開きます。
すべての臓器を提供するなら一人で最大11人もの人を救うことができるかも知れません。日本では14,000人もの移植を待っている人に対して、1年間で2%しか移植は行われていません。
一方、移植に反対されているのなら、ぜひ反対である、
3・私は臓器を提供をしません
に丸をつけてください。それでいいと思います。とにかく意思表示をすることが大事です。
追記: ご批判について
いろいろなご意見ありがとうございます。当記事はイスタンブール宣言に基づいて管理人の意見を書いております。当記事に否定的な意見もあるようですので少しだけイスタンブール宣言(2008)について追記します。
いろいろなご意見がありますが、混乱したときにはオリジナルに戻って考えましょう。
各国は、自国民の移植ニーズに足る臓器を自国または周辺諸国の協力を得てドナーを確保する努力をすべきである。
(臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言 国際移植学会 より抜粋。以下同)
各国が自前で移植をできるようにしよう、ということはみなさん賛成だと思います。日本人が日本で移植できたらいいですよね。
そしてイスタンブール宣言の原則6にはこのように書かれています。
臓器移植が遺すべきものは、臓器取引や移植ツーリズムによって踏みにじられた犠牲でなく、個人から個人への健康の贈り物として祝福 されるものでなければならない。
定義では、
「外国からの患者への臓器移植に用いられる資源(臓器、専門家、移植施設)のために自国民の移植医療の機会が減少したりする」
ことを”移植ツーリズム”と呼んでいます。
つまり海外から渡航して移植をしていることは、移植ツーリズムによって踏みにじられた犠牲、と世界移植学会では認識しているわけです。
そしてこのイスタンブール宣言は、『世界人権宣言』の原則に基づいています。
この宣言は、国際連合による『世界人権宣言』の原則に基づいている。
いろいろご批判はあるとは思いますが、この記事のベースはイスタンブール宣言であり、イスタンブール宣言の基礎は「世界人権宣言」です。多くのご批判は「世界人権宣言」を否定されているのでしょうか?
日本は、世界的に見たらものすごい移植が遅れている後進地域です。金に物を言わせて批判されている移植ツーリズムを行っていながら、
「やっぱ金でしょ」
「金出してないやつは文句言うな」
「海外移植が終わったら美談として放送」
「イスタンブール宣言は理想論」
という意見が噴出すること自体が移植の業界としては10年以上前の認識なのです。
いまだに日本の認識は移植に対してものすごい遅れてますよ、海外では移植医療を踏みにじっていると言われている移植ツーリズムをテレビはいいものだと国民に繰り返し刷り込んでいますよ、とこの記事では言いたいのです。
真意をくんでいただけましたら幸いです。
医療関連記事です。お暇な時にでもよろしくお願いいたします。
kaigyou-turezure.hatenablog.jp
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