Creepy Nutsとゴスペラーズが振り返る、R&Bとラップ共闘の歴史
The Gospellers 25th Anniversary tribute『BOYS meet HARMONY』- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:永峰拓也 編集:矢島大地(CINRA.NET編集部)
“永遠(とわ)に”でブレイクし、J-POPのメインストリームで活躍し続けているゴスペラーズ。彼らを「オルタナティブな存在」といったら意外に思うだろうか。否、ゴスペルやアカペラはもちろん、ヒップホップもR&Bも今ほど浸透していなかった1990年代に、自分たちの立ち位置を切り開いていった彼らのアティチュードは、まさに「オルタナティブ」そのものだった。そんな彼らが、ジャパニーズヒップホップ界のパイオニアであるRHYMESTERと共に作り上げた名曲“ポーカーフェイス”。それを新世代ヒップホップの旗手Creepy Nutsが、17年の月日を経て新たな形で蘇らせたのは、ある意味では「起こるべくして起きた奇跡」とも言えるかもしれない。
Da-iCEやXOX、UNIONEら新世代ボーカルグループが参加した、ゴスペラーズのメジャーデビュー25周年を記念したトリビュートアルバム『BOYS meets HARMONY』。今回のトリビュート盤の中で、SIRUPや港カヲルによるカバーと共に異彩を放ちつつ、ゴスペラーズの「オルタナティブな側面」を見事に照射したCreepy Nutsのふたりと、リーダー村上てつやによる対談。この日が初対面とは思えないほど、多岐にわたるトピックで盛り上がった。
R&Bの場合、「盛る」のが流儀。でもそんな世界の中で、Creepy Nutsの「さえない男」の視点はすごく新鮮だった。(村上)
—今回、初対面だそうですが、お互いの音楽についてはどんな印象を持っていましたか?
R-指定:僕のオトンが、ゴスペラーズ好きなんですよ。小6か中1で音楽に触れ始めるくらいの時期に、『G10』(2004年のベストアルバム)をずっと車で流していたから、その印象が強烈に残っていますね。あとゴスペラッツ(ゴスペラーズとラッツ&スターのメンバーによるスペシャルユニット)も家族で聴いていました。なのでオトンにはメチャメチャ自慢しましたよ、「明日、取材で会うねん」って(笑)。
DJ松永:もう、物心ついた時には当たり前のように存在していましたからね。そういえば、俺が通ってる歯医者さんの中にも激烈ファンがいることが判明したんだった(笑)。こないだ歯医者で会計してたら「松永さん! ゴスペラーズとコラボするんですか?」って。その人、めちゃめちゃおののいてましたね。
R-指定:まあ、そうなりますよね。そういう存在というか。
—村上さんは、Creepy Nutsのことをどんなふうに思ってました?
村上:とにかくふたりともスキルがもの凄いですよね。ヒップホップって、プロレスができないとダメじゃないですか。「攻め」と「受け」が存在する「受け答え」の音楽だし、しかも固定した関係ではなく常にアメーバのようにどんどん変化していく。そこで瞬時に状況判断しつつ、得意技をふんだんにかけてくる。その反射神経みたいなのを、音楽だけじゃなくてふたりの会話の中にも感じるんですよね。柔軟性と、いい意味での器用さ、そして人懐っこさの奥にはちゃんと拳銃も隠し持ってて。「いつでも撃てるよ?」っていう緊張感もあるから、油断できないですよね(笑)。
R-指定&DJ松永:ありがとうございます!
—では今回、Creepy Nutsがカバー曲として“ポーカーフェイス”を選んだ理由は?
R-指定:それこそ村上さんが今おっしゃったように、ヒップホップは「受け答え」の音楽であり、自分の立ち位置を明確にする音楽なんです。で、今回のお話をいただいて「俺の立ち位置ってなんやろ」と思った時、小さい頃から慣れ親しんだ音楽であるゴスペラーズと、自分がラップをやろうと思った時に出会い、俺も松永さんも計り知れない影響を受けたRHYMESTERが、実は昔から深い関係があってコラボまでしている。それが“ポーカーフェイス”であり、自分たちの立ち位置を明確にする曲として「これ以上のものはないな」と思ったんですよね。
「受け答え」というのは、以前RHYMESTERの宇多丸さんも「ヒップホップで重要なのは『で? テメエはどうなんだ?』というアンサーのしかただ」とおっしゃっていて。今回で言えば、ゴスペラーズとRHYMESTERがこの曲で歌っている歌詞について、「じゃあ俺たちはどうなんだ?」というところを明確にしていくべきだなと。なので、ああいうカバーになりました。
Spotifyで“ポーカーフェイス”を聴く
—オリジナルのサビを抜き出して、それに対する掛け合いラップのような形でR-指定さんの新たな歌詞が乗っている。ある意味、カバーというよりアンサーソングのような仕上がりになっていますよね。ヒップホップにしかできないアプローチというか。村上さんは、彼らの“ポーカーフェイス”を率直にどう思いました?
村上:いやあ、聴いてて寂しくなるラップって最高だなって(笑)。
R-指定:まさにそれを狙いました(笑)。“ポーカーフェイス”では大人の男女による恋の駆け引きを歌い、次のコラボ曲“Hide and Seek”では、さらに危険な男女関係を歌っているじゃないですか。となると、もはや俺と松永さんの恋愛経験値では手の届かへんところにいるわけです(笑)。
ヒップホップで大事なのは「リアルであること」「自分の立ち位置を明確にすること」なので、じゃあ俺たちのリアルは、駆け引きの一歩手前でドキマギしているということだなと思って、それを歌詞に落とし込んでいったんですよね。
DJ松永:オリジナルの歌詞を読みながら、ふたりで「大人だなー!」ってずっと言ってたもんな。
R-指定:……っていう自分たちを、そのまま書くことにしました(笑)。
村上:まあR&Bの場合、実生活はともあれ盛らなきゃカッコ悪いからね。「盛る」のが流儀というかさ。でも、そんな世界の中で、ふたりの「さえない男」の視点はすごく新鮮だった。今回のトリビュートの中でも、いいスパイスになったと思う。
リリース情報
- V.A
The Gospellers 25th Anniversary tribute
『BOYS meet HARMONY』 -
2019年3月20日(水)発売
価格:2,700円(税込)
KSCL-31361. 永遠に / SIRUP
2. ミモザ / COLOR CREATION
3. 新大阪 / Da-iCE
4. 熱帯夜 / UNIONE(ユニオネ)
5. ポーカーフェイス / Creepy Nuts
6. 星降る夜のシンフォニー / FlowBack
7. 月光 / XOX
8. 星屑の街 / SOLIDEMO
9. ひとり / 港カヲル from グループ魂
プロフィール
- ゴスペラーズ
-
1991年に早稲田大学のアカペラサークル「Street Corner Symphony」で結成し、94年にキューンミュージックよりメジャーデビュー。2000年リリースのシングル“永遠に”がロングセールスを記録し、『ひとり』は、アカペラ作品としては日本音楽史上初めてセールスチャートのベスト3入りを果たした。日本のボーカルグループのパイオニアとして、アジア各国でも作品がリリースされている。
- Creepy Nuts(くりーぴー なっつ)
-
MCバトル日本一のラッパーR-指定と、とターンテーブリスト /トラックメイカーのDJ松永によるヒップホップユニット。2017年には、ソニー・ミュージックから『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』でメジャーデビューし、2018年4月には初のフルアルバム『クリープ・ショー』をリリース。クラブ、ライブハウス、大型ロックフェスと、シーンを問わずライブを展開している。