【完結】鈴木さんに惚れました 作:あんころもっちもち
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41.リ・エスティーゼ王国
☆王城、ラナー王女の部屋にて
清楚で可憐な美女。黄金の二つ名で知られている王国第3王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは、自室にて“親友”であるラキュース率いる蒼の薔薇とティータイムを楽しんでいた。
いつものようにラキュース達から情報を聞き出した後、話が一区切りついた所で、心底 楽しそうにしながらラナーが口を開いた。
「ねぇ、アインズ・ウール・ゴウンって知ってる?最近、民の間で噂になっているらしいのだけど」
「あぁ、この間 耳にしたな。悪い人間を懲らしめる 悪のヒーローだとか」
「なんだそりゃあ、何で“悪”のヒーローなんだよ」
ラキュースの返答に、ガガーランが訝しんだ。“悪”と“ヒーロー”という対局するはずの2つが重なり合っている不自然さに、混乱しているようだった。
そんな仲間を無視して、ティアとティナが 淡々と言葉を紡いだ。
「私は、大昔に実在した国家だと聞いた」
「人間と異形種が共存していた国らしい」
「はっ、下らないな。共存など夢のまた夢さ。」
悪のヒーローだの、異形種と共存していた国家だの下らない与太話だと一刀両断するのは 長い時を生きるイビルアイだ。そんな話は最近になるまで一度も聞いたことがなかった為、大方、現状に絶望した民が作り上げた妄想だろうと 決めつけていた。
ラナーが 子供のようなニコニコとした表情で身を乗り出した。
「そ・れ・が、実在するらしいんですよ!」
「「「はぁ??」」」
目を見開き驚く一同を見て、満足気に笑いかけたラナーは、立ち上がって国家周辺の地図を持ってくると、ある場所を指さした。
「この辺りですね。アインズ・ウール・ゴウンの城があるらしいと、情報がありました」
「ここは、ただの草原だった筈だけど?」
「はぁ、どうせ例の諜報員絡みの情報だろう」
ラキュースの質問に、答えたのはイビルアイだった。例の諜報員・・・蜘蛛女には自分も手を焼かされた あの出来事は記憶に新しい。追い詰めたと思ったら、突然 瞬間的に爆発的な力を発揮し、コチラが死にそうになったのは苦い思い出だ。
「ふふふ、会ってみたいですよね!本当に噂通りの人達なら、王国のこの現状も打破出来るかも知れませんし」
「異形種を甘く見るな。奴らと分かり合う事など不可能だ」
「そうですねぇ。でも、だとしたら、もっと危険だと思いませんか?」
能天気に笑うラナーへ忠告したイビルアイだったが、そのラナーの発言に言葉に詰まった。蜘蛛女がもたらす情報は正確だ。彼女からの情報ならば、与太話と切って捨てるのは早計過ぎるのではないのか?
イビルアイと同じような考えに思い至ったティアとティナ、そしてガガーランが発言した。
「本当に実在する場合、放置しておくのは 危険。ヤバい」
「危険、王国ヤバい」
「異形種なら生き残りがいるだろうしな」
「出来れば友好的になっておきたいのです。今の王国を危険に晒すものが増えるのは望ましくありませんから」
ラナーの考えは尤もだと皆が頷いた。王国にはこれ以上、爆弾を抱える余裕はないのだ。手が付けられないどころの話ではなくなってしまう。
「なら、私達が 様子を見てこよう。」
「よろしいのですか、ラキュース。危ない橋を渡る事になりますよ」
「寧ろ、私達ぐらいしか対処出来ないだろうな」
「確かに。流石 鬼ボス」
「危険に飛び込んじゃうお転婆娘。我らが鬼リーダー」
ラキュースの決断にティアとティナが いつものように茶化しを入れたものの、パーティーメンバーの誰も反対しないところを見て、皆の意思を確認すると、ラナーは真剣そうな顔を貼り付けた。
「私からの依頼とさせていただきますわ。報酬もしっかり払わせて頂きます。・・・決して、敵対しないように。危険だと判断した場合、即座に撤退して下さいね」
話も終わり、準備ができ次第 明日にでも出発すると言って出て行った蒼の薔薇を見送ったラナーは、誰もいないはずの自室に向かって 声をかけた。
「これで、よろしかったですか?」
「ええ、充分ですよ」
返事をしたのはピシッとしたスーツを着こなした悪魔、デミウルゴスだった。いつの間にか部屋の中央に立った彼の 満足気な顔を確認してから、ラナーは細心の注意を払って礼をとった。
「貴方が 話の分かる方で助かりましたわ。アインズ・ウール・ゴウンの王、かの御方の寛大なお心に感謝致します」
「至高のお方は、お優しい方ですから。“敵対しない限り”無下には致しませんよ」
「ええ、分かっておりますわ」
「計画が上手くいった折には、貴方の大切なペットとの快適な生活も、我々が保証しましょう。」
「ありがとうございます。私に出来ることでしたら、誠心誠意協力致しますわ」
掻き消えた悪魔を見送った後、ラナーは歪んだ笑顔で 笑い出した。
「ふふっ、うふふふ。あぁクライム、私達の理想の家はもうすぐそこよ」
国を悪魔に売ることすら厭わなかった 愚かな王女は、これから訪れる幸せな日々へ思いを馳せるのだった。
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☆王都の路地裏にて
八本指、奴隷部門の長を務める男 コッコドールは中々上手くいかない現状に苛立ちを隠せないでいた。
ラナーの打ち出した政策により ここ数年は仕事がしづらくなった。貴族共を上手く抱きこめば良いのだが、馬鹿な奴らばかりではない為、ここら辺でそれも打ち止めだ。
決定打が欲しい。より根深く広く蔓延るためにも 更なる決定打が・・・。
王国で唯一となってしまった娼館へ向かう道すがら、夜という事もあり 真っ暗闇の路地裏を、護衛の為の部下を引き連れて歩きながら 考え込んでいると、壁にもたれ掛かるように、冒険者らしき女が座り込んでいた。
「あん?やぁーねぇ。随分と汚らしいのが落ちてるじゃない」
その女の、切り裂かれボロボロになった服からは血が滲み出ており、息も絶え絶えの様子だった。
リンチもレイプも王国の闇ではよくある日常だ。コッコドールは、経験上 レイプされた女は打撲が多いことを知っていた為、切り傷が目立つこの女はリンチかと目星をつけて 女へと歩み寄った。
どうせ、馬鹿な冒険者が 誰かの尻尾でも踏んだのでしょうね
コッコドールは、内心に抱えたままの苛立ちを、ぶつける様に女を蹴り上げた。
「う"ぅ」
鈍い打撃音が響き、呻き声をあげながら転がった女は仰向けになった所で止まった。そして、前を大きく引き裂かれた服からは、その素肌が露わになった。そこに刻み込まれている“模様”に、コッコドールは 思わず歓喜の悲鳴じみた声を上げた。
「あら!あら、あら、あら。アンタもしかして」
慌てて駆け寄り、生きている事を確認すると 女を連れ帰るように部下へ命じた。その命令を不思議がった部下が声を上げた。
「そんな奴、どうするんです?商品にもなりゃしねぇですぜ?」
「ふふふ、有効な切り札になるわ。上手くいけば、あの “蝙蝠”を手に入れることが出来るかもしれないわね」
さっきまであんなに機嫌が悪かったのに、急に上機嫌になったコッコドールに首を傾げながらも、部下は女を担ぎ上げた。毒にでもかかっているのか、今にも死にそうな女の為にコッコドールがポーションを部下に渡した。
「ポーションをかけておきなさい。死んでもらっても困るからねぇ」
「え、下位で良いんですかい。娼館行きならもうちょい回復させてやらなきゃ 客は付きませんぜ?」
「コイツ、蜘蛛女には煮え湯を飲まされたからねぇ、将来的には娼館にぶち込む予定だけど、今は潰れてもらっても困るのよ」
「げ、蜘蛛女?コレが?!」
「そうよ。だから油断しないようにしなさい」
驚愕に目を見開く部下を面白そうに 眺めながら、コッコドールは言葉を続けた。
「あぁ、そうだわ。そいつが起きたら伝えてくれる?「ツアレニーニャ・ベイロン。お前の故郷を潰されたくなければ 大人しくしてろ」ってね」
ソリュシャン「とっても 頑張りましたわ」(ドヤ顔)
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