「J.BOY/浜田省吾」(後編)
前回に続き、9回目の今日ピックアップしたのは、浜田省吾「J.BOY」(後編)でした。
1980年10月にリリースされた6枚目のアルバム『Home Bound』。浜田省吾自身が、自分のやりたい音楽を手に入れた…と表現されるこの作品のリリース直前から、再びライブツアーはスタート。そしてそのツアーの途中に、ある一人のイベンターが浜田省吾にとって決定的転機となることを提案します。
「日本武道館でコンサートをやろう!」。
当時の浜田省吾のコンサートは、東京ではなく地方都市のホールが中心。しかも必ずしも満員にはならないという状況の中で、武道館コンサートの開催は、あまりにも無謀なことに思えました。
その“無謀”な目標に向け、「強力なアルバムをつくりたい」という強い想いを得た浜田省吾は、7枚目のアルバム『愛の世代の前に』をわずか2週間余りで作ります。
「70年代の浜田省吾は、どちらかと言うとシャイで、人に気を許さない警戒心の強い人…そんなイメージがあったんですが、80年の『Home Bound』以後は変化が見えました。心の扉を開けた…そんなイメージを受けました」とデビュー直前から30年経った今もなお浜田省吾を見つめ続けている作家の田家秀樹は、語っています。
そして、そんな浜田省吾の心の変化に合わせるかのように、周囲の評価も変わりはじめ、無謀と言われた武道館コンサートのチケットは、わずか6時間で完売するのでした。
日本武道館を成功させた勢いで、浜田省吾は、地元広島郵便貯金ホール(現在のALSOKホール)を含む全国ツアーをスタート。1982年の春と秋、合わせて約140本ものコンサートを行います。この時初めてネーミングされたのが、今もなおツアータイトルに名付けられている「On The Road」でした。
そして、そのコンサートツアーの合間をぬって9枚目のアルバム『PROMISED LAND』をリリース。「自分の中では頂点に立つアルバムだと思っています。たとえば「君が人生の時…』までを習作時代とすると、最初の、一番充実していたアルバムじゃないのかなと思います」と浜田省吾は後に振り返っています。 作家・田家秀樹も、「『Home Bound』『愛の世代の前に』『PROMISED LAND』のアルバム3部作は、浜田省吾が辿るべくして辿り着いた、アーティストとして完成されつつあることを示していた作品だ」と語っています。
その後、バラードセレクションの『SAND CASTLE』(1983年12月)のリリース、
横浜スタジアムでのライブ(1984年4月)などを経て、浜田省吾は初めてセルフプロデュースのアルバム『DOWN BY THE MAINSTREET』をリリースします。
「このアルバムの(曲の)主人公は、みんな少年なんです。小さな工業都市で育った、少年。それはまさしく自分自身に重なるんですけど、その少年たちが、その後どうなっていったか…それが次の作品に繋がっていったんですね」と浜田省吾は振り返ります。
一人の人間の成長を、アルバムとして展開すること…それが次のアルバムのテーマでした。自分の個人史を成長の記録として残したい。その想いで作られた楽曲の数々。ひとつひとつその楽曲を並べてみた時、そのどれもがアルバムのテーマにフィットして、結果的にアルバムは2枚組でリリースされます。
1986年9月、そのアルバムに付けられたタイトルは『J.BOY』。“Japanses Boy”を略したこのタイトル。「浜田省吾の“個人史”のアルバムとしても聞くことのできるアルバム『J.BOY』。その中でも、大事な曲がアルバムタイトル曲の「J.BOY」と「AMERICA」。特にアルバム1枚目のA面3曲目に収録された「AMERICA」の中で、初めて“J.BOY”という言葉が登場するんですね。アメリカに憧れ続け、アメリカン・ドリームを追い求め渡った一人の少年の、自己発見の物語。まさにその物語の主人公が、浜田省吾自身なんです」。そして、「「AMECICA」が自分への質問のような曲なら、その答えになっているのが「J.BOY」です。デビューして10年かかってたどりついた答え…それがこの「J.BOY」なんですよ」と当時、浜田省吾の姿を見つめ続けていた作家・田家秀樹は振り返ります。
1986年9月にリリースされたこの12枚目のアルバム『J-BOY』。浜田省吾自身にとって初めてのチャート1位を記録すると、4週間、その座を明け渡すことはありませんでした。
「アルバム『J-BOY』は、自分がどういう人間なのか?それを浜田省吾自分自身が証明したアルバムだったのではないでしょうか?」と作家・田家秀樹は語っています。
世代や年代を超えて、聞く人それぞれの青春の姿を重ね合わすことのできる、
ロックの名曲の誕生の瞬間でした。
今日OAした曲目
M1.ラストショー/浜田省吾
M2.愛の世代の前に/浜田省吾
M3.AMERICA/浜田省吾
M4.J.BOY/浜田省吾