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(明美)千遥ちゃんから 手紙が来た!
千遥から手紙が届いたのは千遥が消えて 2日後のことでした。
(砂良)消印は帯広ね。帯広から出したんだ。
(咲太郎)帯広にいるのか?
♪~
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(なつ)読むね。
「お姉ちゃん お兄ちゃん急に帰ってしまってごめんなさい。柴田牧場の皆さんにも大変失礼なことをしました。おわび申し上げます。私は 子どもの頃おばさんの家にいるのがつらくて逃げ出しました。線路を見つけてそこを たどっていけばお姉ちゃんや お兄ちゃんのいる東京に行けると思ったのです。どこかの駅で一人の復員兵の人に助けられました。今では 顔も思い出せないその人は私を連れて 東京に行ってくれました」。
(千遥)「そして 私を自分の娘だと言って置屋に売ったのです。私は 18歳になる今までそこの女将さんを お母さんと呼んで人並みに育つことができました」。
お稽古 お願いします。
はい 始めましょう。
♪~
(千遥)「私は 今 奥原千遥ではありません。女将さんは 私を戦災孤児として届け出をして自分の戸籍に養女として迎えてくれたからです。今でも独身の女将さんは本当に私のお母さんになってくれたのです。私は 置屋の娘になりました」。
「そんな私に 最近結婚してほしいという人が現れました。とても立派な家柄の人で私には とても不釣り合いな人です」。
千遥ちゃん 結婚するの?
そうみたいね。(なつのすすり泣き)
(富士子)なつ… 何なら もうみんなに読んでくれなくて いいんだよ。
大丈夫…。
「その時 お母さんから兄の手紙を見せられました」。
(千遥)「どこかで無くしたと思っていましたがお母さんが 私の荷物から見つけて預かってくれていたのです」。
それは お前の兄さんからの手紙だろ?
はい。
でも お母さん 私は この手紙にどんなことが書いてあったのかよく知らないんですよ。
あのころは字が あまり読めなかったもので。
その手紙にお前の姉さんが住んでるっていう北海道の住所が書いてあったんだよ。
えっ?(なほ子)そこは 親戚でもなく戦死なすった お父さんの友人のうちだそうだ。
私の姉が そこに?
(なほ子)うん… で その北海道にお前のことを連絡しようかどうか迷ったんだよ。
ただ… お前の姉さんがそこで どんな暮らしをしてるのかお前のこと聞いて どう思うのかどうなるのか…それで 2人とも幸せになれるのかどうか…いくら考えても 答えが出なくてねそのうちに… お前を手放すのが惜しくなってしまったのさ。
千遥… すまなかった!
その手紙を 今まで隠してて本当に申し訳なかった!
このとおり 謝るよ。
お母さん やめて下さい!
お母さんが そんな 私に謝ることなんて一つもないんだから…。
だけどね 千遥…この先 もし あの方と結婚するなら昔の家族とは縁を切らなくてはいけないよ。
「昔の家族とは 縁を切らなくてはならないと言われました。相手は 立派な家柄なので私が浮浪児だったということを先方の親に知られたら破談になってしまうからです」。
♪~
お母さん…。
私には もう 兄や姉の記憶はないんです。
あるのはここに来てからのことばかりで幸せな記憶ばかりです。
お母さんが望むことなら私は 喜んで結婚します。
私の望みはお前が幸せになることだけなんだよ!
大丈夫… 私は幸せです。
お母さんの娘になれて 本当に幸せです。
千遥…。
(千遥)「私の幸せを願うお母さんのためにも私は 結婚をしようと思いました」。
(千遥)「それでも 私は最後に 北海道に行くことをお母さんに許してもらいました」。
「もし お姉ちゃんが 今 不幸でいたなら私は 今の幸せを投げ出してでも助けなければならないとそう思いました。だけど もし幸せでいてくれたら私は お姉ちゃんと永遠に… 別れなくてはいけないとそう決意しました」。
(富士子)あなたが千遥ちゃん?
よく来た… よく来てくれたわ…。
(泰樹)ここはな なつのうちだ。
ということは妹のあんたのうちでもあるんだ。
好きにしてればいい。
よし。明日は早起きして 一緒に働くべ。
(剛男)何が よしですか?はい! 私にも教えて下さい。
「その家で お姉ちゃんがどんなふうに暮らしていたかそれを知るのに時間はかかりませんでした。それから お姉ちゃんとお兄ちゃんと電話で話した時に突然 昔のことを思い出したのです」。
(千遥)「空襲のあとおばあさんに 芋を恵んでもらってお姉ちゃんと食べたこと。アメリカ軍人の靴磨きをしてチョコレートをもらったこと。お兄ちゃんが 大勢の人を前にかっこよく踊っていたこと。信さんも一緒に みんな家族のように池のほとりで たき火をしてザリガニを焼いたこと」。
お母さんに会いたい!
大丈夫だってば!
(千遥)「石蹴りをして転んで泣きわめく私をお姉ちゃんが力いっぱい抱き締めてくれたこと。私は 柴田牧場でお姉ちゃんの服を着て働いた時何だか お姉ちゃんに抱き締められているような気がしました。ここで 私まで幸せを感じてそして お兄ちゃん お姉ちゃんに会ってしまったら別れられなくなると 怖くなったのです」。
♪~
(千遥)「だから 私は逃げ出したのです」。
「一生 会うことは もうありません。会えません。お兄ちゃんも 元気でいてくれて本当によかった」。
「私は 一生 自分の過去とは別れません。柴田牧場で過ごした短い時間も忘れることはありません。どうか 皆さん お元気で。お世話になりました。さようなら。ごめんなさい。千遥」。
(菊介)こったらことって あっかよ!
(悠吉)よっぽどの思いだべ…。
(千遥)「追伸私の記憶の中にあるお兄ちゃんとお姉ちゃんを思い出して絵を描きました。感謝を込めて。ありがとう」。
♪~
お兄ちゃん…。
なつ…。
うまいな…。
うまいね…。
上手だね 千遥…。
♪~
なつよ…千遥を抱き締めてやれ。