参院選が公示され、各党党首が第一声を発した。私たち一人一人の票の力は小さくても、その積み重ねが未来を決める。各党、各候補の訴えに耳を傾け、選挙権という大切な権利を行使したい。
党首第一声の場所には各党の選挙戦略が表れる。どういう政策をどの層に訴えようとするのか。それは有権者が投票先を決める上でも判断材料の一つとなる。
自民党の安倍晋三総裁(首相)が選んだのは福島市の果樹園。福島県産農産物が風評被害に苦しんでいるとして、輸入を規制している国に働き掛けて撤廃させた実績を訴えるなど、福島復興や農業重視の取り組みを強調した。
安倍氏の党総裁復帰後、国政選挙は今回を含め六回行われており福島県内での第一声は五回目。二〇一六年の前回参院選は唯一、直前に地震が起きた熊本市で行ったが、その後、福島入りした。
福島や農業を重視する姿勢は理解する。今回も福島県内で第一声を発したのは安倍氏だけだ。
とはいえ、安倍氏が「悪夢」と批判する旧民主党政権時代に起きた福島第一原発事故後の政治の混乱は、歴代自民党政権のずさんな原発政策が原因ではないのか。
安倍氏は政権安定の重要性も訴えたが、長期政権が緩みやおごりを生んでいることも事実だ。
立憲民主、国民民主両党など旧民主党勢力や共産党を含む野党共闘を批判するだけでなく、自民党の失政や長期政権のおごりへの反省も同時に語らなければ、有権者の胸に響かないのではないか。
立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長は乗降客数日本一を誇る東京・JR新宿駅前での第一声で無党派層に訴えた。
ともに言及したのは年金問題。枝野氏は「こんな状況で老後に二千万円ためられるのか。消費税を上げられるのか」、志位氏は「今でさえ貧しい年金を、マクロ経済スライドでもっと貧しくする政策はばかげている」などと訴えた。
与党のように給付水準を抑制してでも年金制度維持を優先するのか、低年金に苦しむ人への給付上積みを重視する野党の訴えに理があるのか、もしくは日本維新の会が主張する積み立て方式への移行にこそ説得力があるのか。
年金は私たちの暮らしに直結する重要問題であり、与野党を超えた検討が必要な長期的課題だ。持続可能で現実的な解決策は何か。投票日までの約二週間。私たち自身の問題として考え抜きたい。
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