年金や医療、介護の給付をこれまでのように受けられるのか。保険料や税の負担増が避けられないのではないか。多くの人が抱いている不安だろう。
秋に10%へ引き上げられる消費税も、いずれさらに引き上げざるを得なくなるのでは――。日本記者クラブの党首討論会で問われた安倍首相は「安倍政権でこれ以上引き上げるとは全く考えていない」と明言し、「今後10年間ぐらいの間は上げる必要はないと思う」と語った。
■「痛み」を語らず
首相が「国難」とまで呼んだ少子高齢化を、それで乗り切れるのか。有権者の耳に痛い議論を、避けようとしているだけではないのか。そんな疑念がぬぐえない。
きのう公示された参院選では、人口減少と超高齢化の時代に向け、新たな負担と給付の全体像をどう描くのかが、問われるべき大きなテーマの一つだ。それを論じるべき選挙戦にあたって飛び出したのが、首相の「消費増税不要」発言だ。負担増の議論を封じてはならない。
金融庁の報告書をきっかけにした「老後2千万円問題」で浮き彫りになったのは、将来に対する国民の不安の大きさだ。
そのことを指摘する野党に、安倍首相は「負担を増やさずに年金の給付額を増やす打ち出のこづちは無い」と反論を繰り返す。給付と負担は表裏一体、バラ色の改革案はない、と言いたいのだろう。
だがそれは、将来の社会保障の姿を示そうとしない首相自身についても言えることだ。
10%への消費増税を決めた税・社会保障一体改革は、団塊の世代が全て75歳以上になる25年度までの社会保障の姿を描いたものだ。高齢者の負担増や保険範囲の見直しなど支出を減らす努力もして、社会保障制度を安定させる狙いだった。
だが、「痛み」を伴う歳出改革は先送りされ、2度にわたる消費増税延期と増税分の使途変更で、負担と給付のバランスは崩れてしまった。
しかも、高齢化が本格化し、65歳以上人口がピークを迎えるのはこれからだ。国内総生産(GDP)に対する社会保障給付費の比率は40年度には24%に高まると見込まれる。社会保障制度を設計し直す必要がある。
■新たな政策課題も
今の制度にほころびが生じ、対応しきれていない政策課題も山積している。
一体改革では保育サービスの拡充などがはかられたが、出生率はこの3年低下を続け、少子化に歯止めがかかっていない。
安倍政権は、子育て世代支援の目玉として、10月から3~5歳児の幼稚園・保育所の費用無償化を実施する予定だが、恩恵を受けるのは所得が高い層で、効果は限定的だ。
野党の中には、児童手当拡充など、経済的な支援の強化を求める声がある。また、男性の育休取得を促すには、家計の収入減への不安を解消するための休業手当の拡充なども課題になるだろう。
「老後2千万円問題」では、低年金の高齢者や、貯蓄をしたくてもできない現役世代が少なくない現状も浮かび上がった。とりわけ就職氷河期に社会に出て、安定した仕事に就けなかった30~40代の人たちは、十分な年金や蓄えがなく、老後に生活困窮に陥る懸念がある。
就職氷河期世代への支援は、政府も今後強化するとしているが、正社員として雇う事業主への助成金などはあまり活用されていない。より実効性のある支援策を考えねばならない。
■政治の責任は重い
こうした課題に、首相はどう対応する考えなのか。
思い切って歳出改革を進めるのか、あるいは消費税以外の財源を確保するのか。具体的なビジョンを示すべきだ。
首相は、アベノミクスによって税収が上がり、働き手も増えたことで社会保障の財政基盤が強化されたことも強調する。しかし政権が中長期の財政試算で、高めの経済成長を前提に財政再建を語り、実現できていないという現実がある。過度な楽観は危うい。
野党は消費増税そのものに反対し、高所得層や大企業への課税強化などを訴える。だが、膨らむ社会保障費を、それで賄い切れるのか。
野党第1党の枝野幸男・立憲民主党代表は消費増税を決めた一体改革について「結果的に間違っていた」とし、「目の前の生活に困っている人たち」への対応が最優先との考えも示す。確かにいまの問題にも取り組むべきだが、同時に中長期の見通しも示さなければ、不安に応えることはできない。
新たな政策課題も含めて、これからどれだけの費用が必要か。歳出改革でそれをどこまで抑えることができるのか。政策横断的に財源と一体で大きな見取り図を示し、合意形成をはかるのは、政治の役割だ。
この参院選を、新たな一体改革の道筋を描く議論の出発点としてほしい。
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