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【埼玉】

児童養護施設出身者の「家」 さいたまにあすオープン

クローバーハウスで支援者らと食卓を囲むブローハンさん(右から3人目)=さいたま市浦和区で

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 児童養護施設で育った若者らが退所後も集える施設「クローバーハウス」が五日、さいたま市浦和区高砂二にオープンする。退所後の支援先の情報共有ができるほか、料理や金銭感覚を学ぶ講座なども予定。自身も施設で育ったタレントのブローハン聡さん(27)=東京都=が施設長を務め「頼る先がない若者が、安心できる居場所にしたい」と話している。 (浅野有紀)

 ハウスは、県の施設退所者アフターケア事業の一環で、退所者に運転免許の取得費用を助成する「一般社団法人青少年自助自立支援機構」(さいたま市)が受託。空き家となっていた一軒家を活用し、施設出身者や機構の職員ら二人体制で常駐する。

 「虐待などの理由で大人への不信感が募る中、生活に困っても人に頼るのは想像以上に難しい」

 機構の職員でもあるブローハンさんは、母親がフィリピン人で日本人の父親に認知されず、再婚相手の日本人男性から虐待を受けた。「誰かに助けを求めても、義父に見つかればどうせまたやられる」と、四歳から小学五年生まで一人で暴力に耐え続けた。

 学校の教員がやけどの痕を見つけて虐待が発覚し、児童養護施設に保護された。施設は原則十八歳までのため、高校卒業とともに退所。その後は苦しい生活が続いたが、誰にも相談できなかった。「この人になら話せるかも」と思える大人に出会えたのは、つい数年前のことだという。

 同じ境遇の若者たちと出合い、同じように退所後の生活に苦しんでいることを知った。「育った施設によって、退所後の支援情報に大きな差があるのを何とかしたい。誰かと出会えることで、過去の意味が変わるかもしれない。目的がなくてもふらっと立ち寄ってほしい」。誰もが必要な情報に触れられる環境を整えるため、今後は入所している子ども向けの情報誌を作ることも検討中という。

 クローバーハウスは金、土、日曜の正午~午後八時に開放。食材の提供や習い事の講師を募っている。問い合わせは、一般社団法人青少年自助自立支援機構=電048(815)4111=へ。

waccaプロジェクトで開いている料理教室。ユースと入所者の交流の場となっている=さいたま市大宮区で(蟻田晴彦さん提供)

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◆退所後も途切れのない支援を 進学断念や就職難社会の理解「広まって」

 児童養護施設を退所した後は、どんな壁にぶつかりやすいのか-。

 「放り出されたようでつらかった」「親との関係がうまくいかない」「施設の職員は忙しいので頼りづらい」

 退所した若者を対象に、ブローハンさんが仲間と実施した聞き取り調査では、居場所を失った寂しさ、家族の支えが得られない苦しさ、退所後に施設とのつながりを保ち続ける難しさなどを訴える声が集まった。

 就職支援もしている青少年自助自立支援機構は、施設出身者に対する企業の理解が進まず、就職でつまずくケースが多いとし「一度失敗すると立ち直りが難しく、生活保護を受けて引きこもりがちになってしまう人もいる」という。

 機構職員の蟻田晴彦さんは「施設を出れば大人として扱われるが、まだまだ支援が必要な人は多い。社会的養護への理解が広まってほしい」と話す。

 施設を出てからも、途切れのない支援につなげようと、機構は子どもたちが施設にいる間から出身者と交流する「wacca(わっか)プロジェクト」を昨年四月に始めた。施設を出た人を「ユース」と呼び、十八~三十四歳の約三十人が登録。料理教室や講演、お金の管理を学ぶマネー講座などを通して交流している。

 厚生労働省によると、全国の児童養護施設で暮らす子どもの数は、約二万七千人(二〇一六年)。金銭的な理由などから、高校卒業後の進学率は約三割にとどまる。

 退所後の支援としては、各都道府県が貸し付け型の奨学金や家賃補助、資格取得の資金補助などを実施している。

 

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