香港返還記念日の一日、「逃亡犯条例」に反対するデモが立法会(議会)に突入するなど過激化した。暴力は決して許されないが、中国は「一国二制度」を骨抜きにするふるまいをやめるべきだ。
英国から中国へ香港が返還されて二十二年の節目の一日、犯罪者の中国への移送を可能にする条例改正案の撤回を求める数百人のデモ隊が、立法会の庁舎内に突入し占拠した。
一日のデモには五十万人以上が参加しており、過激な行動に走ったのは一部とみられる。だが、条例案反対の訴えは、香港の民主を守り司法の独立を求めるものである。そうであれば、民主的なやり方で要求を実現してほしい。
香港警察は二日未明、デモ隊の強制排除を始めたが、流血につながるような武力行使に踏み切るべきではない。
何よりも、人口七百五十万人の香港で最大二百万人余が反対デモに参加した。「条例撤回」が香港の民意であるのは明白である。
デモ隊は林鄭月娥・行政長官の辞任の訴えを強めている。林鄭長官は条例の事実上「廃案」というあいまいな姿勢を示している。香港トップとして指導力を発揮して中国政府と交渉し、条例撤回を明言して事態収拾を図るべきだ。
二〇一四年に若者らが行政長官選の民主化を求めた雨傘運動も今回の条例反対デモも、中国が香港返還にあたり国際公約した「一国両制(一国二制度)」を踏みにじる対応を続けていることが根底にあるのは疑いない。
返還から五十年間は、香港で社会主義を導入せず、外交と防衛を除いて香港人による「高度な自治」を守るとの考えである。
そもそも、「一国二制度」は台湾問題の平和的解決のため、一九八〇年代に、当時の最高指導者であった〓小平氏が打ち出した政治の知恵であったといえる。
その台湾では民間団体が六月に実施した世論調査で、香港デモを「支持する」との回答が七割を超え、デモへの連帯を示す大規模集会が何度も開かれた。
もともと台湾では八割近い人が政治的な現状維持を求めている。瀕死(ひんし)状態ともいえる香港自治の現状は、中国が悲願とする「一国二制度」による統一から、台湾の人の心をさらに遠ざけかねない。
とはいえ、香港問題で中国が国際的信頼を失わず、混乱を収束するには、「〓氏の知恵」を守り抜くしかないだろう。
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