東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

米朝首脳会談 ショーで終わらせるな

 米大統領のツイッターをきっかけに、南北分断の象徴である板門店で急きょ、米朝首脳会談が実現した。単なる政治ショーで終わらせてはならないし、今度こそ、非核化につなげねばならない。

 北朝鮮のメディアは会談翌日の一日、「憎しみあってきた両国に、前例のない信頼を創造した」と、大々的に伝えた。

 板門店では、激しい戦闘の末、朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた。六十六年前の一九五三年のことだ。国連(米国)、北朝鮮、中国の軍代表が、冷ややかな雰囲気の中、無言で署名を行った。

 当時とは対照的に、トランプ米大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は明るい表情で、予想外の大胆な行動を取った。

 南北を分ける軍事境界線を警護員もつけずに二人で往来、韓国側の会談場に入り、約五十分間、膝を交えて話し合った。

 正恩氏はトランプ氏を「北朝鮮側の土を踏んだ最初の米国大統領」と持ち上げ、トランプ氏も正恩氏を「ホワイトハウスに招待する」と述べるなど、二人は信頼関係や友情を強調してみせた。

 だが世界は、驚いただけではない。今回の会談が、政治ショーで終わるのではないかとの懸念を持って見ている。

 米国側は、実務協議が七月中旬ごろにも始まると明らかにしたが、見通しは明るくない。

 一括妥結により完全な非核化を目指すトランプ氏に対し、北朝鮮側は、段階的な非核化と、経済制裁の順次解除を求めており、接点は見つかっていない。

 協議の進め方でも違いがある。トランプ氏は、「急がない」と強調する。来年の大統領選での再選を意識し、北朝鮮の挑発を抑えることを主眼に置いているからだ。

 これに対して北朝鮮は、国際社会からの制裁で経済不振に陥っていると伝えられ、制裁解除の実現を急いでいる。

 今回の会談は、相手を驚かして交渉を有利に進めるトランプ流交渉術だが、外交は国民の命に関わる。より慎重に行うべきだ。

 前回二月のハノイ会談は、中途半端な実務協議がたたり、物別れに終わった。この教訓も生かし、丁寧で、着実な調整を望みたい。

 安倍晋三首相は、拉致問題解決のため、正恩氏に「無条件会談」を再三訴えている。肯定的な反応はなく、今回も蚊帳の外に置かれた。韓国との関係を含め、戦略の練り直しが必要だ。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】