年金デモに若者たちを駆り立てたもの「2000万円貯めて、と丸投げするな」「死ねと言われているようなもの」

年金デモ

2000人(主催者発表)が参加したとされる、年金デモ。

「公的年金だけでは老後のお金は平均で2000万円不足する」—— 。

金融庁の審議会がまとめた報告書の内容が連日報じられ、波紋が広がり続けている。6月16日、東京・日比谷で、この問題に関する政府の対応に抗議するデモが行われた。デモの呼びかけは6月に入ってから始まったが、主催者によると約2000人が集まったという。

参加者には、10〜30代の若い世代も多かった。現地に行き、彼らが何に憤りを感じているのか尋ねてみた。

「大臣ってそんなんで務まるの?」17歳高校生

年金デモ参加者

「高校の授業で勉強しているので、社会問題はむしろ身近」と話すミナさん。

家族3人でデモにきたという高校生のミナさん(17)。ニュースを見ていて、家族で「デモに行かない?」という話になったという。「バイトをしている子もいて、20代より先のことまで心配している余裕もない。自分の生活費すらも賄えるかどうか不安」と口にする。

麻生太郎財務相兼金融相が、金融庁の審議会の報告書を全部読んでいないという話を知って「大臣ってそんなんで務まるのか」と唖然とした、という。

「私たちが声を上げることで、もっと上の30〜40代の認識も高めていけたら、と思います」

「香港のデモに勇気付けられた」29歳2人組

年金デモ

「政府の丸投げする姿勢がありえないと思う」

2人でデモに参加したというサトシさん(29)とトシヤさん(29)は、「香港で人々が立ち上がったデモに個人的に勇気付けられています」と語る。

何よりも憤りを感じたのは政府の態度だという。

「老後に月5万円足りないとなった時に、やっていける人とやっていけない人が出てくる。それをどうにかするのが政府の責任なのに、『2000万円貯めてね、ヨロシク』って丸投げするのは問題に向かう姿勢として、ないと思う

「ブラック企業でどうしろと…」37歳アパレル関連勤務

アパレル関係の仕事をしているというタカヒロ(37)さん。「給料も低いしブラックな業界、もう年齢もいっているので転職も難しい」と率直に現状を打ち明ける。

「年金制度はヤバイ、ヤバイとはずっと言われてきたけれど、上から『お前らちゃんと考えてないだろ』みたいに言われるのは……。言っている本人は年金をもらわなくても生活に困らないほどお金があって。ふざけるなって話です」

「働きやすさ」と「やりがい」の両立に必要な2つのこと
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「後から振り返って悔やみたくない」25歳IT企業営業

年金デモ参加者

ヒロマサさん(右)は大学時代の先輩(27)と参加した。

IT系の会社で営業をしているというヒロマサさん(25)。収入面でそこまで不安はないというが、「(年金が)返ってこないというのは話が違う」。

大学時代のゼミを通じて政治に興味を持ち、「このままだと悪い方向にばかりいってしまう」とデモに行き始めた。

「後から振り返って何もやらなかった、と後悔したくない」

「子育て世代の意思表示に」 親子3人

年金デモ

3歳の子どもと妻と一緒に参加した。

妻と子どもの親子3人でデモに参加したヒトシさん(41)。

「普段は会社員として働いているので時間が取れませんでした。今回はTwitterでデモの存在を知り、都合も良かったので初めて参加しました」

「老後資金2000万円」については「ただ事じゃないと思った。これから2000万円で収まるとも限らないですし」

3歳の子どもがいて、これからの生活を考えると常に貯蓄に不安は残る。デモ参加は「(子育て世代の)意思表示にはなったのでは」と振り返った。

「僕に死ねと言っているようなもの」30歳フリーター

フリーターのマサキさん(30)。今の収入では老後までに2000万円の貯蓄をすることは難しいといい、一連の報道については、「僕に死ねと言っているようなもの」と苦笑いする。

現在、フリーター。収入が安定しないため、これまで何度か年金保険料の支払いを猶予する選択をとったこともあるという。

普段から、Twitterでの発信や、政治を語るイベントに参加している。

「子どもを3人産めとか、政治家は僕たちのリアルな生活を見てくれないと感じています」

Twitterの予想外の反響に驚いた

年金デモ

デモを主催したヒロシさん(写真中央)。

最後に話を聞いたのは、今回のデモを主催したヒロシさん(35)。普段は会社員だが、一連の「老後2000万円」報道を見てデモを主催することを決めた。

「Twitterでも、誰かやらないの?という空気があった」

Twitterには、「初めてデモに行きます」という声も多かったと振り返る。「年金」という誰もが関わる問題で、支持政党に関係なく問いかけたことも良かったのでは、と分析する。

大きな反響を呼んだ今回のデモだが、ヒロシさんは単発で終わらせるつもりだと語る。

「自分の生活の合間にデモの準備をしたのでかなり大変だった。なにかのきっかけになれば良いと思う」

(文中カタカナ名は仮名)

(文・西山里緒、露原直人、写真・西山里緒)

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