山本監督が震災直後から東北地方のことを考えていたのは知っていた。僕も被災地訪問に同行したことがある。あれから数年が経ち、そんな思い出もすでに薄れかけようとしていたころ、監督が新しい映画を作り始めたという知らせを聞いて、僕の胸は躍った。
映画「薄暮」は長い年月をかけて製作された分、無駄が削ぎ落とされて、監督の純粋性だけが残っていた。それは物語というより、一編の詩に近い。自分の一番傷つきやすい部分を前面に押し出すには相当の覚悟が必要だったろう。線画と色で描かれた緑の景色の向こうに、いつか山本さんと聴いた東北の少年少女たちの奏でる音楽が、たしかに見えた。
向井康介(脚本家)