“吉本No.1営業芸人”くまだまさしを直撃! 芸人の世界で起こりつつある「さよならテレビ」現象とは?
2019年04月12日 14時00分 日刊サイゾー
撮影=尾藤能暢
「くまだまさしは、テレビのオファーを断っている」
その情報がわれわれの耳に飛び込んできたのは、千鳥MCの『相席食堂』(朝日放送)にて。くしくも『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で、ベテランコンビ・リットン調査団が「大衆に迎合するような芸はやりたくない」と、テレビはおろかルミネへの出演も断っていると放送されたばかり。いま、芸人とテレビの関係に、どんな地殻変動が起きているのか?
「営業を優先させるため、テレビの仕事を断っているというのは本当なんですか?」――。出番を終え、ルミネの控え室でくつろぐ、くまだを直撃した。
***
くまだ あ、ああアレですね、話題の、千鳥先生の『相席食堂』。もちろんすべてを断ってるわけではないんですが、結構断ることが多いというだけで……。
――それはもう、テレビに魅力はないと?
くまだ いやいやいや。単純に、オファーいただく前に、劇場と営業のスケジュールが入っちゃってるだけですよ。もちろん、劇場や営業をなくしてテレビのほうに行くこともできますが、僕自身がいま、営業を大事にさせてもらっていると。そこは本当に申し訳ございません、ウソ抜きで言わせていただくと……。
――(ゴクリ)
くまだ 営業のほうが、お金がいいんです。
――えーーーーー!
くまだ サイゾー先生、誠に申し訳ございません。やはり、マネーのほうが……。でも、劇場・営業をとにかく大事に、と思い始めたのが、昨日今日とかではなくて、もう10年以上前から思っていたことなんです。
――そんな前から……。
くまだ 昔はやはり、まず劇場で人気者になって、そこから深夜番組に出て、MCの人に気に入られてひな壇に出て、やがて自分がMCをやるっていうのがスター街道といいますか……。それこそ、10人中9人がそこを目指してたので、勝てないと思ったんです。もしかして、違うほうへ行けば、逆に簡単に勝てるんではないのかなって。
――生存戦略ですね。
くまだ そうですね。もうとにかく、芸がどうのこうのというよりは、単純に僕は……キレイごとに聞こえるかもしれませんが、家族を大事にしなければいけないというのが第一条件だったので。芸よりも、とにかくお金だと。
――なんだか、すがすがしい気持ちです。お金が一番!!
くまだ 現実的に言えばごめんなさい、ちょっとわがままになってるくまちゃんもいるのかもしれません。
――ただお茶の間の目線で言うと、なんとなくテレビに出ないっていうだけで「ちょっと売れなくなってきたのかな」って見られてしまうのかもしれないですよね。実際には断ってる状態なのに。
くまだ もちろん「売れてない」「もう売れなくなったのかな」よりも「売れてる」っていうほうが、気分はいい。それは重々承知でございます。けれども、そんな僕の見栄だうんぬんは、もう関係ない。現実的にお金が、家族を食わせなければいけないというのがあったので、割り切れるんです。でもまぁ、本当に始まりはそうだったんですけど、だんだんそれが変わってきちゃって……。
――どのように変わったのですか?
くまだ いま吉本興業に6,000人ぐらいタレントがいる中、僕、営業回数が歴代第1位なんですよ。初めはお金のためだったんですけど、今度はそれを守りたいという気持ち。お笑いの総本山である吉本興業で、一番営業に行ってる男だという誇り、それを守らなければという。
――ナンバーワンの自負。
くまだ (照)。周りの芸人さんも「営業のくまだ」と言ってくれてる。だから、自分の中でも、ちょっと自負しているところがあるかもしれないです。営業では誰にも負けたくないって。
――スケジュール的には、営業はどれくらいの割合で行ってるんですか?
くまだ これは吉本興業のシステムなんですけど、営業、テレビ、劇場といろんな仕事がある中で、一番最初にスケジュールを押さえられるのが劇場なんですよ。そうなると、土日に多くあるショッピングモールの営業が、最近なかなか入れにくくて。本当にごめんなさい。これはお恥ずかしい……自分で言うのもあれなんですけど、みんなが僕を欲しがる。
――争奪戦!!
くまだ すみません。劇場がね、やっぱり一番お客さんが入る土日の劇場にくまだを押さえたいっていうのが、実際ありまして。そうなると、営業は平日が中心になる。一般的に土日の営業っていうのは家族連れで和気あいあい楽しい雰囲気のものが多いんですが、平日の営業というのは、大人たちの真面目な話の後に「さあ、どうぞ!」という、結構難しいものが多いんです。ヘタしたら、何億、何十億、動くかもしれない商談の後に「くまださん! お願いします!!」っていうのが、平日にドンッて入る。昔は土日が営業、平日劇場だったんですけど、今はもう逆転してしまいましたね。
――「くまだまさしがスベッているところを見たことがない」っていう都市伝説は、ご存じですか?
くまだ いやいや、22年やっていれば、そりゃスベる時はもちろんありますよ。ただ僕の記憶が確かだったら、スベッたのは5回だけ。
――22年で5回! 逆にその5回が気になります。
くまだ あら、そうでございますか。でもそれはたぶん、一般の方にはわからない。これは芸人さん特有の……これなんでスベッたんだ? っていう体験。ステージとお客さんの間に直径10メートルの池があるとか。あれはやりづらい
――すごいシチュエーション。
くまだ もう本当ちっちゃいことを言えば、マイクがちょっと悪かったりとか、その昔まだ実力がない頃に、お客さんが全員80歳以上だったとか、それだけですごい変わってしまう世界なので。
――今、くまださんのような選択をされている芸人さんは、ほかにもいらっしゃいますか?
くまだ 昔だったら、それこそ先ほど言ったようにテレビでスターになって売れる、お金を稼ぐっていうのがマストだったんですけど、そこだけじゃないよと、劇場、営業でも頑張れば食べられるんですよっていう、パイオニアになってしまいました。本当、自分で言うのもおこがましいですけども……。こんなに稼げるのかっていうが周りの芸人さんもわかっちゃったので、ならばこっちに……っていう人が増えてきましたね、正直。
――扉を開けてしまった。
くまだ もう家も2軒目も買い……でもね、僕は成功者ではないんです。
――えーー! 家2軒買ったのに!?
くまだ 成功者じゃない、大成功者です。もうはっきり言いましょう! まだここからどうなるかわからない、ここからまだまだ先の人生長いですけども、今の段階だけで言えば……勝ち組でございます、私。でもそれは逆に言えば、テレビで売れるっていうのがまだ難しいということです。上はさんまさんだ、ダウンタウンさんだって、詰まってるって、よく聞くじゃないですか。だから余計に、営業第一っていうふうになってるのかもしれません。
――私は世代的にはテレビがすべて、テレビが世界の中心だと思って生きてきて、でもだんだんだんだん変わってきてるなって思うんです。若い世代はそれこそ、YouTubeしか見ないとか。
くまだ 確かにそうでございますよね。ただ、テレビの人も、それは絶対感じてると思うんですよ。だから、これからテレビの逆襲が始まるんじゃないのかなって。もちろん芸人の間でも「でも、テレビだ」と。やっぱりまだテレビに出たいっていうのはあると思います。ただ、ごめんなさい。私は、そういうのがまったくなく……すみません。
――くまださんにとって、テレビはもう、魅力的なメディアではないということですか?
くまだ 志が低いのかもしれませんけれど「とにかく売れたい」「億が欲しい」よりも、目標は「食わせたい」だから。それが今のところクリアしてますってなったら、次はその維持ですよね、目指すのは。
――でも、それが可能なのも、やっぱりくまださんだからでは?
くまだ ちょ、ちょっと待ってください、くまださんじゃないです。
――え!?
くまだ 「くまだ大先生」です! 大先生でございますよ、私は!!
――し、失礼しました! くまだ大先生!!
くまだ (笑)。ちょっと話戻しますけれども、何もテレビを全部断るわけではないんです。この前ね、CSのボウリング番組に出たんですよ。最初はお断りしようと思ってたんですけど、その番組のプロデューサーさんが、お世話になった『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)をやられていた方で。仕事の内容より「この人だから出る」って、「人」で決めてしまっている部分もあるかもしれないです。『相席食堂』も、正直言うと、初めは断ったんです。ロケは拘束時間が長い、絶対に疲れる。次の日の営業や舞台に支障が出る……って。でも、千鳥先生の番組だと。前にノブくんのインスタに載っけてもらったことがあって、これはお礼をしなければいけないって、ずっと思ってました。
――テレビも「自分たちのところに一番出たいでしょ?」みたいなスタンスではいられなくなってるということですね、くまださん……間違いました。くまだ大先生タイプが増えている。
くまだ 頼みますよ、サイゾー先生!! もちろんおごることなく、お断りするのも誠心誠意の気持ちです。テレビに憧れて今があるのは本当ですし、初心忘るべからずです。
――その感覚は、やはり営業で培われたものですか?
くまだ やっぱりそうだと思います。すべて営業だと思います。そうだ、吉本に6,000人いるタレントさんの中で、僕だけが唯一やってることがあるんですよ。
――なんでしょうか?
くまだ 営業が終わったら、私を呼んでくださった社員さんにお礼のメールをすることです。
――ああ……デキるビジネスマン……。
くまだ これをもうこの十何年、ずっと続けてるんです。いやらしい言い方ですけど、お礼されたら「あ、また入れよう」ってなってくれるんじゃないかって。
――芸人さん自らがそれをするっていう。
くまだ 向こう様は「わざわざご本人様から、ご丁寧なメールありがとうございます」って感激してくれるんです。それって、逆に言えば、そういうことをやる芸人がいないからではないでしょうか。
――はぁぁ……そもそも面白い人にそれやられたら、もう勝ち目はない……。
くまだ 先生! 本当ごめんなさい、また格好いいこと言っていいですか? 120点の仕事をしていれば、絶対に仕事は減ることがないと僕は思ってます。僕の仕事としては、ウケるっていうのは、ある意味、当たり前。その合格ラインが80点。それ以外のことで、100点、120点にしていくんです。相手の人を先生と呼んだり。
――あ、サイゾー先生というのも!!
くまだ フフフ。
――自分の正しい場所を見つけるというのは、とても大切なことなんですね、大先生。
くまだ でも、それが正解かどうかっていうのは、そればっかりは自分では正直わからなかった。自分のやってきた道が正解か正解じゃないかの答え合わせは、ひとつは再三申し上げておりますが、やっぱりお金。もうひとつは、天才と呼ばれている人たちに認めてもらったっていうことです。松本人志さん、千原兄弟さん、日村勇紀さん……そうそうたるメンツに「おまえはすごいな、おまえこれだな」って言っていただいて「あ、これは間違いではなかったんだ」と。これちょっと話逸れますが、この前、千原ジュニア大統領に……。
――大統領!!
くまだ 打ち上げの席で、ジュニア大統領の前に、僕、フットボールアワーの岩尾望さん、あと芥川賞を取った本当の先生・又吉直樹先生、3人がいて。そこで大統領が「この中で誰が一生安泰か? 第1位はくまだだ」っておっしゃった。もう、このまんまで行くしかありませんよ。もちろん、23年前に吉本の養成所入った時は……まさか自分がこんな姿に、あんなブルマはくなんて思ってもおりませんでした。ですから、これから先5年後、10年後、またどうなってるかもわかんないですし。でもとりあえずごめんなさい、なんかウケちゃってるので(笑)。
――自分で居場所を作る時代になったのかもしれないですよね。セルフマネージメントというか。
くまだ 必要かもしれないですね。
――テレビでも営業でも、まずは自分の名前を知ってもらう必要があり、そんな中で『R-1』は認知という点でものすごく有効だと思うのですが、一方でキートンさんのあのSNS炎上騒動のような公平性の問題も根強くあります。
くまだ なるほど。これは大事なことです。やっぱり僕もピン芸人でございますから、気になってました。正直言えば、本当に皆さん言ってる通りだと思います。やっぱり大人の社会、世界であることは否めない。正直言えば、僕が『R-1』に出なくなった理由もそこでした。だいぶ昔ですけど、「これだけウケたらいっただろう」っていうのが何度か裏切られて、ああやっぱりそういう世界なんだろうなって。一言言いたくなるキートン君の気持ちもよくわかる……ただやっぱり、それは言わないほうがお利口だなっていうね。
――キートンさんを見て笑ったお客さんの記憶は、ずっとありますから。
くまだ そうですね。ただ、僕は何より『R-1』だけで言えば……もっと盛り上がってほしい。僕自身「あ、今日が『R-1』だ」って、当日に気づいたぐらいなので。なんでもっと宣伝をしてくれないの? っていうほうが強いですね。
――確かに。見る目が多くなれば、自浄作用が働くというのもありますよね。
くまだ いろいろ合わせて相乗効果で良くなっていけばいいなっていうのが、『R-1』への私の思いですね。
――ありがとうございます。なんかもう……世界が平和になりました。
くまだ いや、お金の話ばっかりですいません!!
(取材・文=西澤千央)