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昭和34年の5月です。
東洋動画入社から およそ3年。
なつは 2本の漫画映画で動画を描き順調に その腕前も上げていました。
(下山)なっちゃん。(なつ)はい。
マコちゃん。(麻子)はい。
ちょっといい? 大事な話があるんだ。
(茜)大事な話って また喧嘩したの?
してませんよ。
(堀内)喧嘩したんだよ。えっ またですか?
多分 そうだよ。
そのころ…。
北海道で 大きな出来事が近づいていました。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
♪「口にする度に泣けるほど憧れて砕かれて」
♪「消えかけた火を胸に抱きたどり着いたコタン」
短編映画ですか?(仲)うん そう。
長編の仕事がない時に若手の育成を兼ねて大体 20分弱の短編映画を作ることになったんだ。
そこで マコちゃんに原画を任せたいと思ってる。
私が 原画を?
えっ マコさん おめでとうございます!
まあ 僕も「白蛇姫」のあと短編映画で鍛えられたからね。
是非やらせて下さい。
えっ… 私は マコさんの下で動画をやらせてもらえるんですか?
いや… なっちゃんにも 思い切って原画をやらせたいと思ってるんだ。
えっ?
どうだろう マコちゃん一緒にやってもらえないかな?
女性のアニメーターで最初に原画をやるのは当然 マコちゃんだと思ってたんだけど同時に なっちゃんの力も試してみたくなったんだよ。
2人で 原画を描いてくれないか?
私に断る理由はありません。
一緒にやれと言われるなら やるだけです。
マコさん! ありがとうございます!
よろしくお願いします!
まあまあ 監修っていうことで一応 僕もつくから うん。
はい。で 題材は 何をやるんですか?
(井戸原)それも 君たちが決めるんだ。
どうしたいのか 企画を出してくれ。
企画を?私たちで…。
もう一人 演出部の方からつく人間もいるから企画 構成 演出までその人と3人で話し合って進めてほしいんだ。
(ノック)(仲)ちょうど来たかな。
(井戸原)どうぞ。・失礼します。
あっ。
(井戸原)そこに座って。(坂場)はい。
カチンコ君…。
マコちゃん その呼び方は もう古い。やめてあげよう。
彼のことはイッキュウさんって呼んであげよう。
イッキュウさん?うん。
坂場一久でしょう?一に久しいで イッキュウ。
どう?なぜ普通に呼ばれてはいけないんですか?
いや だって 普通だと 普通じゃない。
じゃあ 下山さんのことはゲザンさんって呼んだらどうでしょうか?
ゲザンさん…?何か 人生下り坂って感じだからやめてよ。
普通でいいよ 僕は…。
急勾配。急勾配してんじゃないですよ。
まあまあまあ とにかく そういうくだらない話からでもいいから3人で話し合って 何か企画を考えてよ。
(3人)はい。
どうしましょう?そうね…何か 一から話を考えた方がいいのか原作を立てた方がいいのか…。
原作がある方がいいんじゃないですか?時間もないですし。
今の僕たちに求められているのは話を作る能力ではなくて話を表現する能力だと思うんです。
話の表現か… そですね!じゃ 何やります?
だから それを これから考えるんでしょ。
そうと決まれば ここで話し合っていても無駄じゃありませんか?
まずは 各自で やりたいものを見つけてそれから話し合った方が早いです。
まずは 明日までに。
では 早速 失礼します。
一人で決めちゃって…。あの人と うまくやってく自信あるの?
大丈夫ですよ。マコさんとも やってきたじゃないですか。
そうね… うん?
とにかく考えましょう!頑張りましょう!
♪~
(悠吉)ん?(菊介)どした?
あっ いや…。えっ?ううん…。
(砂良)あっ お義母さん 薪割りなら私が。
(富士子)いいから あんたは。
あんた 間違えて大事なおなかを割ったら大変しょ。
間違えないってば…。
自分のおなかでもないみたいだけど。
ねっ はい…。(照男)何してんだ? そったらこと俺が…。
(物音)
何だ? 誰かいんのか? そこに。
えっ 誰?どしたの?
何か いるべ?えっ…。
誰だ?
あっ あの… すみません。
はい…。 どしたの?
誰?(照男)知らんけど…。
お姉ちゃん?えっ 何て?
あっ いえ… 何でもありません。道に迷っただけなんです。
(照男)道に迷った?
お邪魔しました。 ごめんなさい。
待って!
あなた もしかして… 千遥ちゃん?
やっぱり? そなの?
千遥ちゃんなのね?
それって…。
まさか… なっちゃんの?
なっちゃん?
(砂良)そう? あなた なっちゃんの妹?
奥原なつっていう人捜しに来たんでないんかい?
(砂良)だから さっき私のこと お姉ちゃんと…。
ごめんね。私は なっちゃんじゃないんだわ。
(富士子)私らは なつが北海道に来て9つからの家族だけどここは 今でも奥原なつの家で間違いないの。
ここを探して来てくれたんでしょ?
ずっと あなたを待ってたんだわ…。本当なのね?本当に あなたが千遥ちゃん?
♪~
よく来た… よく来てくれた…。
(照男)じいちゃん!(泰樹)ん?
来た…。何が来たんだ?
なつが ずっと捜してた妹だ… 実の妹だ。
何だって?
おいしい?
はい… おいしいです。
(明美)あ~ いかった 牛乳が飲めて!
同じ妹として ほっとしたわ。
なつも その牛乳が大好きだったの。
なつは その牛乳を子どもの頃から 自分で搾ってきたんだわ。
じいちゃんに 牛飼い教わってね。
農業高校まで出たんだよ。
それで 今は 東京にいるんですか?
そなの…東京で 今 漫画映画作ってんだわ。
漫画映画?(富士子)うん。千遥ちゃんは どこから来たの?
東京です。
それじゃ 今は 2人とも東京にいるってこと?
東京の どこ?(戸の開閉音)
(富士子)父さん。
なつのじいちゃん。
千遥ちゃんよ。
お邪魔しています。
そうか… よう来たな。
いや 本当 よう来た。
おい なつに知らせたか?
(富士子)まだ…。何してんだ すぐ知らせてやらんか。
そだね… 電話があるもね。
あっ この時間は なつは まだ…。
待って下さい。(富士子)えっ?
姉には どうか… 知らせないで下さい。
なして?
すみません… それはいいんです。
いいって…。
姉が無事だと分かったら…私は それでいいんです。
あっ ちょっと待って…。
姉には 会いたくないんです。
えっ…。
(千遥)すみません… 許して下さい…。このままで…。
したけど…ここが分かったのは どうしてなの?
子どもの頃 お兄さんの咲太郎さんからあなたのいた親戚の家に来た手紙をあなたが持っていたからでないの?
そうです。
なつは 最近 そのこと知ってねとっても 心を痛めていたんだわ。
そんで ずっと いつか あなたが会いに来てくれるんじゃないかって待ってたの…。その千遥ちゃんが やっとなつに会いに来てくれたんでないの?
まあ… まあ そうやって言うもんでねえ。
しゃべりたくないことだってある。
(富士子)父さん…。(泰樹)何も聞かんでええ…。ここに来てくれただけで十分だ。
ここはな なつのうちだ。
ということは妹のあんたのうちでもあるんだ。
好きにしてればいい。
(ドアが開く音)
(玉井)奥原さん 電話ですよ。電話?
あなたの家族ですか?北海道の柴田さんから。
えっ 本当ですか!? すいません!
すいません…。
もしもし。
もしもし なつ?
℡母さん!どしたの? 会社になんて…。何かあった?
なつ… 落ち着いて聞いてね。
℡(富士子)今 千遥ちゃんがうちに来てるんだわ。
えっ…!?
おっ どした? こんな時間に大勢で。
おい どこの子だ?
℡(富士子)千遥ちゃんからここを探して来てくれたみたい。
本当?
本当に… 千遥が来てるの?
なつよ 千遥は 今あの懐かしき人々に囲まれているよ。