【完結】鈴木さんに惚れました 作:あんころもっちもち
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変化した私に周りも上手く対応してくれた。
バカにされるのではないか、避けられるのではないかと、あれだけ怖がっていたのに、まるで拍子抜けした気分だった。
・・・もしかして、大丈夫なのかも?
ちょっとだけ自信を取り戻した私は、次なるステップに進んだ。
そう、名付けて《おしゃべりしようぜ!作戦》である。
挨拶をする時に、ちょっとだけ声をかける。最初は相手も戸惑っていたものの、私の「仲良くなりたい」という気持ちに気付いてくれたようで、段々と普通に話しかけてくれるようになった。
未だに、職場のみんなには、どこか一線を引かれているものの 以前は一線どころか分厚い壁があったようなものなのだ。
私の交友関係は広く浅く、徐々に広がっていき、心配していた鈴木さんの反応も悪くなくて以前と変わりなかった。
私を避けたりする兆しはないので、私はとても満足していた。
そうこうしている内に、『ユグドラシル』では、ミケのレベルが76にまであがっていた。
種族は相変わらず人間種のまま、華やかな攻撃手段に引かれて、魔法職に手を出している。
派手な演出が好きで、派手な魔法ならどんなものも習得した。
まぁ、モモンガさんには全然及ばないけれどね。と、いうか パーティーを組んでいるモモンガさんが魔法職で後衛なのだから、私は前衛の戦士職とかにすればバランスが良かったのに、以前の私は「鈴木さんと一緒ッ〜」って完全に浮かれてた。
まぁ、私たちは、くっそ強い敵を倒しに行くわけでもなく、まったりとレベル上げつつの雑談が主なので、今のところ特に困ったりはしていない。
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私は、モモンガさんとの約束がない日でも 『ユグドラシル』にログインしていた。
アインズ・ウール・ゴウンの話についていけるように、『ユグドラシル』についての知識を貯めたり、昔に比べたら叩き売りされている装備、主にレジェンドアイテムを買い漁ったりしている。
ゴッズアイテムも欲しいけれど、値下げされているはずのソレも私の所持金では手が出せそうになかったので、諦めている。
たった1つのゴッズアイテムより、多くのレジェンドアイテムの方が魅力的だ。
装備はどれだけ いっぱい持っていても困ることは無かった。モモンガさんと狩りに行く時は、デートに行く乙女のような面持ちで 装備を選んで 毎回姿を変えていたからだ。
いい歳して何が乙女だというツッコミは無視すべし。可愛い装備が沢山ありすぎるのが悪いんだから仕方ないね!
今日も街をぶらぶらしながら、販売されているアイテムを物色していたら、1つのアクセサリーに目が止まった。
小さい黒の蜘蛛の背中に、三角形にカットされたダイヤモンド(ビーナスアローカットというらしい)が乗っている指輪だった。
蜘蛛の足が指に巻き付くようにリングの形になっていて、ちょっと不気味な印象を与えるアイテムだ。
不気味な見た目というのもあるが、私が惹かれたのはその性能。
【血塗られた蜘蛛王の嘆き】
『その蜘蛛は愛する人を決して逃しはしない。即死耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』
・・・無効化スキルを無効にする
うーん、あ、それって 欠陥品じゃん!!
でも、この文言が良く気になった。
愛する人を逃しはしないかぁ・・・買っちゃお!
衝動買いのようにして購入したアイテムを眺めていると、何故か不思議な魅力を感じた。
モモンガさんに似合いそうだし、プレゼントしちゃおうかな・・・
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次の日、私はモモンガさんと狩りに来ていた。
ちまちまと敵を叩きながら、時折、覚えたばかりの第7位階魔法<チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷>をぶっぱなしていた。
ピカピカ光って綺麗〜
「へぇ、【血塗られた蜘蛛王の嘆き】ですか。初めて聞きました」
昨日手に入れた指輪の話をしたら、モモンガさんが興味深げに返事をした。
モモンガさんの興味を引けて良かったと内心ウキウキしつつ、私は会話を続けた。
「も、モモンガさんの、知らないアクセサリー、だった、んですね。えへへ、ちょっとだけ、勝てた、気分です」
「僕も長年プレイしてますが『ユグドラシル』は 情報量が多すぎますしね。・・・あ、でも多分、対になっているアクセサリーなら知ってますよ」
「対、ですか?」
「ええ、確か【穢れた蜘蛛妃の絶望】だったかな?指輪ですね。名前的にもっぽくないですか」
「た、確かに!どんな、アクセサリーなんで、すか?」
「えっと、毒耐性上がるんだだったかな? 使えないな、と思って すぐにしまい込んでしまいましたね。・・・ナザリックに置いてあるので、今から持ってきましょうか?」
「え!あ、いいんですか??」
「ちょうど、ここも狩りつくしたみたいで、リスポーンまで時間がありますし 休憩しましょう」
「あ、なら、さっきの街で待って、ます」
「分かりました。すぐに戻りますね!」
この指輪と対になってるかもしれない指輪なんて、すごく気になるから、モモンガさんが持ってきてくれると言ってくれて、申し訳なさ半分、嬉しさ半分。
それから少しして戻ってきたモモンガさんの手にしていた指輪は、【血塗られた蜘蛛王の嘆き】同じデザインで、違いといえば蜘蛛が紫色になっているところだろうか。
【穢れた蜘蛛妃の痛み】
『その蜘蛛は愛する人を決して忘れない。毒耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』
「や、やっぱり、対になって、いるっぽい、ですね」
「ですね。”無効化スキルを無効にする”というのが なんとも、使えないんですよね」
「で、でも、縛りプレイとか、に、いいかも、です」
「状態異常の対策が出来ないのは、大変そうですけどね」
「モ、モモンガさんは強いから、ちょうど、良いかもです。・・・それに、」
「それに?」
「お似合い、ですよ?悪趣味な、感じが、ま、魔王っぽくて」
「んーそうですかねぇ」
「そう、です!あ、あの!こっちの方が合うと、思うので、これあげます!」
私は、黒い蜘蛛の【血塗られた蜘蛛王の嘆き】をモモンガさんに手渡した。不自然な流れになってしまったかもしれないけれど、受け取ってもらえたから良しとしよう。
「おお、なら コッチの指輪はミケさんにあげますね」
「うぇ?!」
予想外の返しに思わず変な声が出てしまった。
鈴木さんが差し出した、紫の蜘蛛の指輪【穢れた蜘蛛妃の痛み】を、私は戸惑いながらも受けとった。
「い、いいのですか?」
「ええ、お揃いで悪趣味な指輪付けちゃいますか」
「お、」
お、お、お、お揃いの指輪〜!!
モモンガさーん!!意味分って言ってるの?ねぇ?!
意識したら顔に熱がグアっと集まったのが自分でも分かった。
ここが『ユグドラシル』で良かった、リアルだったら動揺しているのが丸わかりで、更に恥ずかしくなる所だった。
「ミケさんも強くなってきましたし、たまには縛りプレイも良いかもしれませんね」
私の動揺なんて 気が付いていないのかのように、ケロッとした様子で話す、モモンガさん。
こんなにワタワタしてるのが私だけなんて、ますます恥ずかしくなってしまったのだった。