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F35墜落事故は本当にパイロットが原因なのか

105機の追加購入に1兆2000億円。トランプとロッキードへの遠慮が見え隠れ

佐藤章 ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

拡大空自のF35Aを捜索する米海軍機と海自の護衛艦=2019年4月10日、青森県三沢市沖の太平洋上

電子化された「高技術」だが…

 実は私は、このディフェンス・ニュースの記事が出る前に、専門家から、自衛隊機事故の真の原因は機体の上下左右の傾きを測るジャイロセンサーの問題なのではないか、と聞いていた。

 かつてはアナログ式だったジャイロセンサーはコマの原理を応用しており、傾いた姿勢から真っ直ぐになろうとするコマの原理を応用して傾きを測る方式を採っていた。アナログ式ではあるが、かなり完成度の高い技術だった。

 ところが、近年これを電子化したのはいいが、地磁気や飛行機自体の磁気の影響を受けやすいという。したがって、電子化したこのジャイロセンサーをジェット戦闘機に組み込んだ場合、どのような影響を受けるのかよくわかっていない、と専門家は指摘していた。

 この電子化ジャイロセンサーが原因となって、民間航空機であるボーイング737MAXが2018年10月にインドネシアで、今年3月にはエチオピアで相次いで墜落している。

 機首の上下の向きをコントロールする水平尾翼はパイロットが手動で操作しているが、737MAXでは、この操作を補助するためにMCAS(エムキャス)と呼ばれる装置を初めて設置した。機体の前方につけたセンサーで機首の角度を検知、そのデータを基にMCASが自動的に機首を下げる。

 このことを取材して報道したNHKの「ニュースウオッチ9」によれば、インドネシア事故の調査報告書に驚くべきデータが記されていた。

 事故の前にパイロットが20回以上も機首を上げようと操作を繰り返し、そのたびにMCASが機首を下げようとしていた。つまり、どういう不具合が生じたのか電子化されたジャイロセンサーが機首を下げよう下げようとしているのに反し、パイロットがそれに抗して機首を上げよう上げようと悪戦苦闘しているうちに地上に激突してしまったという状況だ。

 もちろん、簡単に推論の糸がつながるような話ではないが、事故を起こした自衛隊機についても、その観点から十分調査すべきポイントではないか。

 戦闘機の歴史は教訓に満ちている。

 太平洋戦争の初期、日本の零戦はなぜ強かったのか。簡単に言えば操縦士の安全性を極限までそぎ落とした設計だったために、軽く、戦闘性に秀でていたためだ。安全性を追求すれば鉄板の厚さなども分厚くなり機体は重くなる。戦闘機の場合、この「割り切り」が問題になる。

 F35の場合、ステルス性と重厚なコンピューター装備が特徴だ。特にコンピューター装備では機体の周りに張り巡らせた配線のケーブルが相当に重くなる。私も専門家に100メートルのケーブルを持たせてもらったが、かなり重い印象を持った。このケーブルが1機につき何千メートルも張り巡らされているのがF35だ。

 そして、F35はこのコンピューターシステムを盛り込みすぎているのではないか、と専門家は指摘した。この盛り込みすぎのシステムがジャイロセンサーにどのような影響を与えたか。

 戦闘機コンピューターのもうひとつの問題は、エンジニアの問題だ。マイクロソフトやアップルなど民間のシニアクラスのエンジニアは、年収数千万円。ところが、軍需産業に関わるエンジニアの場合、いたるところで守秘義務に縛られる上に違反すれば重罪、しかも年収はせいぜい1000万円クラス。優秀なエンジニアが民間と軍需のどちらに向かうかはおのずと明らかだろう。

 今回のF35墜落事故の原因を考える上でもうひとつ大きく膨らむ疑問は、フライト・データ・レコーダーが見つかっていないという点だ。通称ブラックボックスと呼ばれるこのレコーダーは、端的に言って墜落事故を前提にして製造、搭載されている。海底に破片が散乱している状況まで確認していながら、肝心のブラックボックスが未発見という事態が果たしてありえるだろうか。

 このブラックボックスのデータを見ればすべて明らかになるだろうが、なぜかその捜索さえも打ち切られている。事故の真相が明らかになることがそんなにまずいことなのか。あるいは、そんなに早く捜索を打ち切る理由があるのか。どう考えても首をひねらざるをえない。

 細見3等空佐が最期にどのような闘いを遂行していたのか、何としても明らかにする義務が、残された者、あるいは政府にはあるのではないだろうか。今後も、F35は日本の上空を飛び続ける。「空間識失調」などという推定の結論ではなく、事実に基づいた原因究明は航空自衛官のためにも、ジェット音の下にいる国民のためにも必要だろう。


筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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