第六話:回復術士は王になる
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大絶賛、ジオラル王国のクーデターが行われている。
一応、俺が首謀者のはずだが、わりと余裕があった。なにせ、計画立案から実行までエレン任せなのだから。
城がかなり派手に揺れる。
巨大な魔力同士がぶつかった際に起こる、世界が軋みをあげる感覚。
……おそらく、一流どころの魔術師が数十人がかりで発動した、戦術級儀式魔術を打ち込まれ、城に仕掛けてある結界がなんとか耐えたといったところだろう。
「割とガチでやってるな」
「はい、ガチですよ。じゃなきゃ、騙せないですしね。こんなところに派遣される諜報員って各国のトップクラスですし。なので、攻城兵器、儀式魔術、英雄クラスの一騎打ち、イベント盛りだくさんです」
どこからどう見ても、本当の戦争だ。
そこまで様々な要素をぶち込みつつも、双方の被害が最小限になるよう調整するのは神業だ。
エレンが味方で良かったと思う。
エレン以外のメンバーは言ってみれば脳筋。戦闘力はあるがそれだけ。今までどれだけエレンに救われたかわからない。
「また揺れたな」
「こんなものじゃないですよ。もっともっと盛り上がる予定です!」
俺たちは戦場の怒声やら爆発音やらをBGMにしつつ、フレイアの待つの王室に向かう。
戦いを終わらせるためにだ。
けが人もずいぶん出たし、そろそろ他国向けのデモンストレーションは十分だろう。
◇
王室につくと、玉座に座り、居眠りしていたフレイアが目を覚ます。
「……おまえもたいがい余裕だな」
「あっ、ごめんなさい。することがなくて」
クーデターを受けている国の王女様とは思えない発言だ。
これが表にもれたら、一発で芝居とバレるだろう。
フレイアはエレンの言いつけ通り、王族としての正装をしており、さらには王位を持つ証として、王冠を身に着けていた。
つい先日まではジオラル王が身につけており、今の持ち主はフレイアとなっている。
「そろそろ、俺たちの出番だ。ヨダレを拭いて、心の準備をしておけ」
「はいっ、ケアルガ様の晴れ舞台、精一杯盛り上げますね」
俺の仕事は王女フレアを降伏させた上で、この国が俺のものになったと宣言すること。
筋書きとしては、五千の兵を使った反乱軍は陽動であり、本命である俺が密かに城に忍び込み、王女フレアの元にたどり着いた。
そして、武力ではなく俺の説得によって王女フレアが降伏して、俺に王権を譲るというもの。
フレイアにはエレンの作った台本が用意されているが、俺はアドリブでなんとかしろと言われている。
そちらのほうが、俺らしさが出て、より説得力が増すというのがエレンの言い分だ。
正直、こういうのは得意ではないのでエレンに任せたいと言ったところ『ケアルガ兄様は演技が下手です。台本なんて用意したら棒読み丸出しで、モロバレです。全部台無しになっちゃいますよ?』とにこやかに却下された。
何が悔しいかというと、完全に的を射ていて反論できないこと。
「フレイアさん、ケアルガ兄様、予想より進行が早いですね。あと二十分ほどしたら出番です。もう、いい感じに場が温まってます。……反乱軍さん、なんか想定以上に義勇兵っぽいのが紛れ込んだ上に、そいつらがスタンドプレイかましているみたいで制御できてません。一時間もしないうちに守りを抜かれそう」
「エレンの読みも完璧じゃないわけか」
「はい、お恥ずかしい限りです……思った以上にケアルガ兄様の人望があったみたいですよ。下からの報告じゃ、ケアルガ兄様の知り合いだって言ってるみたいです」
誰だろう。
何人か心当たりはあるが、はっきりしない。
「なら急がないとな。……よし、心の準備はできた」
俺は微笑み、英雄らしき表情を作る。
「やっぱり、ケアルガ様は、ケアルガ様のままでもかっこいいですが、ケアル様のお姿もかっこいいです」
「私もそう思いますね。ケアルガ兄様は逞しくてかっこいいですけど、ケアル兄様のお姿は優しそうでかっこいいです」
俺は苦笑する。
かつて、俺が弱いと切り捨てたケアルの姿をかっこいいと言われるなんてな。
でも、ちょうどいい機会だ。ずっと前から決めていたことを二人に伝えよう。
「それなんだがな、俺はもうケアルガの姿には戻らない。ケアルとしてこの国の王になるからっていうのはあるが……もうケアルガは必要ないんだ」
ケアルガは俺にとって鎧だった。
復讐を果たすには、ケアルは優しすぎて、弱すぎた。
だから、容赦がなくて強いケアルガを作り上げたんだ。その代償に弱さと一緒に優しさを捨てた。
ケアルガだからこそ、復讐を達成できた。
だけど、もう復讐は終わった。ケアルガの鎧はいらない。これから先に必要なのは、ケアルガの強さじゃなくケアルの優しさ。
ケアルとして、俺の女たちと共に幸せになる。
「それはそれで残念ですが、いい考えだと思います。今の、ケアルガ様……いえ、ケアル様、とってもしっくりきます」
「はいっ、そっちのほうが、らしい感じがします」
ケアルの姿が俺らしいか。
たぶん、一月前に言われたら激怒しただろうな。
だけど、今は……。
「俺もそう思うよ」
そう言って笑える。
美味しいリンゴを育てて皆を幸せにしたいと願い、勇者に憧れて、誰かを救うために剣を取りたいと思っていたケアル。
たぶん、ケアルに戻っても、そんな昔の自分とは違っている。
あまりにも多くの経験をして、多くのものを得て、多くのものを失った。
でも、俺は変わってしまった俺のことを気に入っている。
ケアルガよりも、かつてのケアルよりも、今のケアルとして生きたい。
……再びケアルガに戻るとすれば、それは大事なものを奪われたときだろう。
「さて、こんな話をしているうちにそろそろ時間だ。行こう、フレイア……いやフレア」
「はいっ!」
フレア王女姿になったフレイアの手を引く。
俺がケアルに戻ったように、フレイアもフレアに戻る頃合いかもしれない。
エレンが、記憶を取り戻してもエレンで居続けると言ってくれたように、きっとフレイアも……そんなふうに今は思えるんだ。
◇
エレンの合図で、わざと防衛線を突破させ、戦いの場が城内に移る。
このタイミングを待っていた。
俺はフレイアを引き連れ、バルコニーに出る。
このバルコニーは、下々のものに言葉を伝えるために設計されたもので、下からよく見えるようになっていた。
「【癒】の勇者ケアルだ! 双方、剣を収めろ! もはや、この戦いに意味はない。ジオラル王国、第一王女、フレア・アールグレイ・ジオラルは降伏した!」
高らかに宣言する。
それは魔力によって増幅され、城の敷地内はもちろん、その外にまで響く。
それも届けているのはただの声じゃない。
ジオラル王国で研究されていた装置で、声に乗せた感情を増幅することで、簡易的な洗脳を可能にする。
こんな悪辣なものを作っていたことに呆れるが、あるものは利用させてもらう。
その効果は抜群で、戦場の熱に浮かされていた兵士たちが呆然と手を止めて、バルコニーを見上げる。
注目が集まったのを確認してから、俺はフレイアの背中を押す。
「私、フレア・アルーグレイ・ジオラルは【癒】の勇者ケアルに降伏しました。……それは命欲しさに国を売ったわけではありません。ケアル様の話を聴き、この国の民がより幸せになれる。そう考えたからこそ、委ねたのです」
フレアのカリスマ性はやはり優れている。
美しい容姿と誰もを魅了する声。
身振り手振りは感性でやっているのに、どんな理詰めの演技よりも心を掴む。
誰よりも王女らしい王女。それこそが王女フレアの恐るべき才能。軍師、政略家としてはエレンが圧倒的に優れていても、政治家として見るならフレアはエレンに比肩する。
「俺が反乱を起こしたのは恨みからじゃない。ただ、この国を良くするためなんだ。余計な血を流すつもりはない。だから、粛清などは行わないし、今までこの国を支えてくれた者たちを蔑ろにするつもりもない、その上で新しい風を起こし、この国を変えていく」
「その言葉に偽りはありません。ケアル様は、この私の力すら必要と言ってくださり、手をとってくれました」
フレイアが誰もの心を溶かす微笑みをして、手を伸ばす。
そして、俺はその手をしっかりと握った。
反乱をしたものと、反乱を起こされたものが手をにぎる姿を見て、動揺が広がっていく。
「みんな、争いは終わりだ。これからは手を取りあい、この国をみんなで良くしていく。まずは剣を収めて握手をしてくれ。俺とフレアのように。それこそがこの国がよりよく生まれ変わる第一歩だ!」
反乱軍のトップである俺と、ジオラル王国の支配者であるフレア王女の握手に触発され、さきほどまで殺し合いをしていた兵たちが、手と手を取り合う。
そんな美しい光景が広がっていく。
俺とフレイアは、その光景を見て微笑んで見せた。
「ありがとう! 皆が手を取り合ったことでこの国は変われる。約束しよう、この【癒】の勇者ケアルが、傷つき、荒みきった国を癒やし、かつて以上に豊かな国にしてみせると。そして、今、この瞬間ジオラル王国は死に、新たな国へと生まれ変わる!」
そこで溜めを作る。
注目と期待が限界まで高まったところを見計らって口を開く。
「新たなこの国の名は……パナケイア王国! 癒やしの女神、その名を冠した国。これから新たな国を俺たち全員で盛り上げていくんだ。俺と共に幸せな未来を目指してほしい!」
その言葉に応えるように拍手と歓喜の声が響き渡る。
それは敵も味方も関係なくだ。
「「「「パナケイア王国万歳!!」」」」
たしかにこの瞬間、この場にいるものの心は一つになった。
俺は満足げに頷く。
……うまく言ったな。
ノリと勢いでなんとか押し切れた。
誰も、今の演説どころか、クーデター自体に大した意味はなく、ただ賠償金を踏み倒すためにやっているとは思わないだろう。
だけど、俺は今の言葉を真実にしたいと思っていた。
俺の吐いた言葉は理想論だが、俺の女たち、そしていずれは生まれる子供たちと共に暮らすには、そんな国が必要だ。
そのためなら、少しはがんばっていい。
そんなことを思いつつ、フレイアと共に城内へと戻る。
俺たちの出番はここで終わり、あとはエレンが粛々と、事後処理を進めてくれるだろう。
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また、7/1には書籍六巻が角川スニーカー文庫様から発売。今回の書き下ろしはめちゃくちゃ筆がノッた自信作なのでぜひ読んでください。↓に表紙と詳細があります
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