勝負を分けた2回の5点。好機が広がったのは、1死一塁から井領が選んだ四球だ。フルカウントから、青柳のシンカーを見送った。決して際どい球ではなかったのだが、僕にとっては待望の瞬間だった。
「自分でもわかってはいましたよ。わかりやすい(ボールの)球でしたが、ファウルで粘りながら見極められた。後ろがつながってくれたし、個人的にはヒットと同じだと思えています」
今季83打席目にして、初の四球だった。規定打席には全く足りていないとはいえ、普通はいくつかの四球はついてくるものだ。両リーグの規定打席到達者で、最少でも広島・西川の11(260打席)。井領は覚えていたが、2017年10月3日のDeNA戦(横浜)以来、通算158打席で3個しかない激レアの四球を境に、難敵・青柳を一気に攻略した。
彼の今季初四球が得点や勝利に絡んだら、必ず書くと決めていた。まさしく絵に描いたような展開だった。ただ、不思議なもので1軍戦に出場できなかった昨季の井領は、2軍では183打席で13四球。普通に選んでいる。
「2軍と1軍の違いといえば、明らかなボール球が2軍は多い。そして、変化球のキレが違うので振らされてしまうというのはありますね」
井領にとってプロの壁とは2軍と1軍の間にそびえていた。しかし待ち、見ても目の前の壁は崩れてはくれない。振って、崩す。四球なしに80を超える打席を勝ち取っているのは、2割9分4厘という打力の向上があればこそだ。
「(四球を)狙いに行く思いはないです。打てると思った球は打ちにいく。それは強く思っています」
5回の2死二塁では左腕・島本の初球フォークを右前に運び、6点目をたたき出した。4打席、全20球。井領はストライクを1球しか見逃さず、10度バットを振った。その上で四球を取り、打線がつながったのが何とも痛快だ。