米中両国の貿易戦争はひとまず小康状態に入った。大国同士がいがみ合えば世界が迷惑する。両国は衝突を避けて共存の道を歩んでほしい。
世界中が胸をなで下ろしたことだろう。トランプ米大統領と習近平中国国家主席による交渉が決裂に至らず、国際経済により深刻なショックを与える事態を当面は回避できたことを歓迎したい。再開される貿易協議では、双方が歩み寄ってほしい。
◆ハイテクめぐる対立
大阪で開かれた二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)も、この米中対立の影に覆われた。議長役の安倍晋三首相が「貿易制限措置の応酬はどの国の利益にもならない」と訴えれば、各国首脳からも懸念の声が相次いだ。
それでも首脳宣言には「保護主義と闘う」との文言は盛り込めず、力強いメッセージを発信できなかった。二〇〇八年に起きたリーマン・ショックへの危機対応として発足したG20サミットは、曲がり角にきている。
中国は建国百周年の四九年までに「製造強国」の先頭に立つべく、最先端技術の振興を国を挙げて進めている。
これに対し、米国は中国のハイテクたたきに躍起だ。人工知能(AI)や第五世代(5G)移動通信システムが米国の安全保障に関わり、世界の覇権の行方を左右するからだ。通商問題を超えて覇権争いに発展した米中対立は「新冷戦」とさえ呼ばれる。長期化は避けられない。
一九八〇年代、衰退したソ連に代わって日の出の勢いの日本を米国は警戒し、日本たたきに出た。ナンバー2が力をつけて自分を脅かすようになるのを米国は許さない。今は中国が標的である。
中国が経済的な発展を遂げれば、責任あるステークホルダー(利害関係者)として米国主導の国際秩序の中に取り込める-。米国が〇一年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟を後押ししたのには、こんな期待があった。
ところが中国の急速な軍備増強や膨張主義的な海洋進出をみて、米国で警戒論が台頭。今では期待を裏切られたという反感が党派を問わず政界に充満する。
関税引き上げで他国を脅すトランプ流に冷ややかな米議会も、こと中国に限ってはもろ手を挙げて賛成だ。
トランプ政権が華為技術(ファーウェイ)排除に同調するよう日本はじめ同盟国に求めたのは、米国をとるのか中国をとるのか、と二者択一を迫ったに等しい。これに中国も対抗措置に出れば、IT産業の国際市場は分断され、サプライチェーン(供給網)も寸断される。
関税の報復合戦による保護貿易の横行と、ブロック経済化に伴う経済分断が第二次大戦に行き着いた教訓を忘れてはならない。
ただ、トランプ氏も二十九日の会見で、米企業に華為技術との取引を認める意向を示し、姿勢をやや軟化させた。
一方、中国は通商交渉で折り合えば米国も矛を収める、と甘く見ていたふしがある。対米交渉担当者の劉鶴副首相が「米国の姿勢がこれほど厳しいとは思わなかった」と漏らしたとも伝えられる。
◆衝突を避けるためには
世界第二の経済大国にのし上がったとはいえ、経済発展を続けて国民全般に富が行き渡らないと、共産党独裁体制の正統性が揺らぐ。その経済成長を維持するには対米関係の安定が不可欠-。これが中国側の一般認識といわれる。
「太平洋は中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と太平洋の米中二分論を唱えて鼻息の荒かった習氏。最近は「太平洋は中・米とその他の国も受け入れることができる」と発言を微妙に変えた。
八九年の天安門事件を国際社会から指弾された中国は、爪を隠して力を蓄えようとした〓小平氏の韜光養晦(とうこうようかい)路線に踏み出した。習氏もこれを教訓にトーンダウンさせたようだ。
ただし、習政権が進める大国路線を見直さない限り、米国との衝突軌道を外れることはできない。
全面対決を避けるため、米中双方に求められるのは自制と理性だ。強硬論に引きずられれば、引くに引けない立場に追い込まれる。相手の意図を誤解しないように意思疎通にも努めてほしい。
◆主体性問われる日本
翻って両大国の狭間(はざま)にある日本。米国主導による戦後の国際秩序を米国自身が否定する挙に出ている。日本は米国に同調しているだけでは立ちゆかない。主体性をどう出していくのか、国の針路に関わる。
中国とは摩擦をできるだけ減らし、安定した関係を築くことが必要だ。習氏の来春の訪日を相互に実りあるものにせねばならない。
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