ビデオ
 その狭い部屋では、十人ばかりの男女が、食い入るようにビデオモニターに見入っていた。

 モニターに映っているのは、水泳競技の高飛び込み台に似た構造物であった。しかしその飛び込み台の下にあるのは、ただのプールではなかった。耐熱強化ガラス製の水槽に湛えられている薄黄色の液体は、高温に熱せられた食用油であった。いわば巨大なてんぷら鍋のようなものである。飛び込み台は大きなスタジオのような場所に置かれているようである。各所にテレビカメラが設置されているらしく、様々なアングルからの映像が次々と切り替わる。銀色の耐熱スーツを着たスタッフらしき姿も映りこんでいる。
 いつのまにか飛び込み台の頂上のプラットホームに一人の女が立っていた。歳は二十歳前後、短く切った髪に意志の強そうな顔立ち、均整のとれたスレンダーな体をした女である。その体は一糸纏わぬ姿であり、プラットホームまで油の熱気が及ぶのか、全身には汗が浮かび、強い照明に美しく光っている。豊かな陰毛も汗に濡れ、貼り付くように股間を覆っている。
 突然、女はプラットホームの先端に歩み寄ると、躊躇する事もなく空中に身を躍らせた。汗が玉となって飛び散る。女は落花しながら、空中で二回ほど美しく宙返りをすると、そのまま高温の油の中に突っ込んだ。油がはぜる大きな音が鳴り響き、油の飛沫が四方に激しく飛び散った。画面は油の中を撮影する耐熱水中カメラに切り替わるが、沈み込んだ女の体の回りには激しく泡が立ち、様子がよくわからない。しばらくしてカメラが上からのアングルに切り替わると、すっかり空揚げ状になった女が、油の表面にぷっかりと浮かんできた。スタッフたちが女を引き上げ、油きり用の金網の上に移す。驚いた事に、女は手足を伸ばして決めのポーズをとったまま、空揚げになっている。最後にまるで料理のように、大皿のような形の台の上に飾り付けられた女の姿が大写しになり、ビデオは終わった。

 部屋の照明が灯った。しばしの沈黙の後、一人の男が口を開いた。「だめだ。ボツだな。」別の男が相槌を打つ。「そうですね。肝心の油の中で揚がる所がよく見えませんものね。」女も口を開く。「それに、これを競技として優劣を審査するのは、難しそうですわね。」みんなが一斉に喋りだした。「せっかく高い機材をいろいろ用意したのになぁ。」「テストプレイヤーだって、本物の飛び込み選手に依頼したのよ。もちろんギャラだってたっぷりと。」「実際に準備で走り回ったのは僕ですよ。あーあ、くたびれ損か。たまらんなぁ。」最初のリーダーらしき男がパンッと手を打つ。場が鎮まる。「ぐだぐだ言っても、だめなものはだめなんだ。それじゃこの企画「飛び込み空揚げ競争」はボツ、という事でよいな。」異論は無かった。「それじゃ次のテストビデオ「女体鋸引き競争」にいこうか。」
 企画会議はまだまだ続きそうである。

(おわり)
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