飾りの女 | |||
私がそれを知らされたのは、大祭の一月前でした。まさか私が、あの神聖な山車の「飾りの女」に選ばれるなんて。だって、私はすでに27歳、5年前に結婚して今3歳の娘もいるんです。確かに、自慢ではないですが、私も昔は美人だと町中の男たちに騒がれた事もあったし、「竿の少女」と違って、「飾りの女」には年齢制限や独身限定はないのですが、それにしたって今頃私が選ばれるなんて。 いえ、嫌なわけではないんです。こんな私が、この名誉あるお役目に選ばれるなんて、突然降って湧いた栄光に戸惑っているだけです。だって「竿の少女」には及ばないまでも、せめて「飾りの女」に選ばれたいというのが、トリバイの若い女たちの夢なんですから。もうその夢も捨てなければならない年齢だと思っていたのに、こうなってとても嬉しいです。これも神の思し召しかもしれません。そうです、思いがけない幸運で「飾りの女」に選ばれた以上は、精一杯お役目を果たす事にしましょう。 それからの一月は大変でした。何よりも娘と夫の事が心配だったのですが、幸い、私が神に捧げられた後の二人の世話は、妹が引き受けてくれました。娘も妹になついていますし、妹はまだ独り身なので、夫の夜の相手も大丈夫でしょう。妹も「あとは全部引き受けるよ。もちろん旦那もね。だから、心置きなく逝っといで。」と言ってくれました。でも、あのひと結構激しい方だから、大変よ。とくにこの一月は、身を清めるため夫の相手をしていないので、最初はきっと凄いわよ。がんばってね。 私自身も、一月御無沙汰で、体が疼くときもあるけど、お役目のため我慢です。聞く所では、神に捧げられた贄たちは、至上の快楽を感じながら、神に許へ召されるとの事です。その悦びを想像するだけで、ドキドキしてあそこも濡れてきます。あっ、もちろんお役目の準備は真面目にやっていますよ。神殿の指示通り、毎日沐浴して身を清め、神への祈りも捧げました。食事にも気をつけて、神に捧げるための体に整えました。そして大祭の日が来たのです。 大祭の朝、馬車で「飾りの女」たちが神殿に集められました。今年の「飾りの女」は八人です。さすがにみんな綺麗な人ばかりです。どうやら私が一番年上のようですが、負けるもんですか。あっ、祭の一番の花形「竿の少女」は特別扱いです。ここにはいません。専用の輿で神殿にやってきて、今は別の部屋で準備をしているはずです。神殿に入る時、ちらっと姿を見たけれど、若くてとてもかわいらしい娘で、悔しいけれど、さすが「竿の少女」だと思いました。 私たち「飾りの女」も、山車の飾りになる用意を始めました。服を脱いで生まれたままの姿になり、沐浴をして身を清めてから、神殿内の通路を通って山車庫に移動しました。山車庫に入ると、目の前に巨大な山車が聳え立っていました。今から私たちが飾られる山車です。神官様から最後の祝福を受けてから、いよいよ一人ずつ山車に繋がれていきます。私は三人目、山車の左側前から二番目の位置です。私の順番が来て、私は男たちの手で山車の上に引き上げられました。手首と足首に金輪がはめられ、山車の金具に固定されました。腰にも鎖が巻かれ山車に結ばれます。山車の揺れで舌を噛まないように猿轡もされます。こうして私たちは、山車の両側に4人ずつ繋がれました。手足を大きく広げた姿なので、あそこも丸見えです。少し恥ずかしいけれど、私のあそこ、どうかしら。子供一人生んでるんだけど、日頃きちんとお手入れもしていたから、まだまだ綺麗だと思うけど。 やがて山車庫の扉が開き、少しだけ山車が曳き出されました。神殿から輿に乗った「竿の少女」がやって来ます。いよいよ山車の最後の飾り付け、「竿の少女」の串刺しが行われるのです。残念な事に、私たちの位置からだと、巨大な山車の影になって、儀式の様子は見えません。しかしあれほど騒いでいた人々が急に静まり返ったので、串刺しが始まったことがわかりました。耳をすますと、少女のかすかな呻き声、少女の体を竿が食い破る鈍い音が聞こえてきました。突然また人々が大歓声を上げたので、串刺しが完成したのでしょう。こうして山車の飾り付けが出来上がりました。 いよいよ山車の練り回しが始まりました。山車の進む速さはそれほどでもないのですが、とにかくギシギシよく揺れます。その度、私たちも振り回され、手足の金具や腰の鎖が体に食い込みます。とくに車輪に身を投げ出した人を踏み砕いたりすると、山車はとても激しく揺れて、体がちぎれそうになります。鎖がお腹に食い込んで、はらわたがひっくり返るようです。幸い、このお役目のために昨日から何も食べずにいたので、無様な事にはならずにすみました。 数時間もすると、私たちの体は、もうぼろぼろで、血だらけになってしまいました。もちろん体中がとても痛いのですが、しばらくすると朦朧としてきて、そのうち、なんだかいい気持ちになってきました。これが噂の至上の快感でしょうか。もう痛みは気になりません。この広場のみんなが私たちを見てるんだわ。そう思うと、とても素晴らしい気分です。ふと右隣の人を見ると、もう死んでいるのか、気を失っているのか、身動き一つしません。山車の動きに合わせ揺れているだけです。左は、ああ、こちらは間違いなく死んでいるようです。だって首があらぬ方向に曲がってブラブラしています。 祭が終りに近づきました。私はまだなんとか生きているようです。もう身動きする事も難しいですが。私の他にまだ生きている人はいるのでしょうか。その時、男たちが山車に登り、私の右の「飾りの女」の金輪と鎖をはずしだしました。はずし終わると、その体を、山車を取り巻く人々の中に投げ込みました。たちまち人々が群がり、「飾りの女」の手足を大勢で引っ張り出しました。すぐにその体は引き裂かれ、はらわたが飛び散りました。引き裂かれた体にも、飛び散ったはらわたにも、また人が群がり、あっという間に、最初の「飾りの女」の体は跡形もなくなりました。続いて、私からは見えませんが、山車の反対側でも同じ事が行われているようです。激しく騒ぐ人々の声が聞こえます。そして次は私の番です。私も山車からはずされ、人々の中へ投げ込まれました。多くの人が私の体に取り付きます。ものすごい力で手足が引っ張られます。股の骨がゴキンといって、ああ裂けるなと思った瞬間、目の前が真っ赤になり、それで全てがおしまいでした。 (おわり) | |||
裏生贄 | |||
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