竿の少女
 その日、カン地方の旧都トリバイのブリア大神殿前の広場には、数え切れないほどの少女たちが集まっていた。少女たちは、一様に熱気を帯びた眼差しで、神殿の扉を見つめている。今日は、トリバイで暮らす少女たちの最大の憧れであり、カン地方に生を受けた女として最高の栄誉である、「竿の少女」が発表される日なのだ。三か月の間神殿前に置かれていた投票箱が、一週間の厳正な作業で開票され、今日、大神殿の神官によって結果が発表されるのだ。中でも世間の下馬評の高かった何人かの美少女たちは、最前列で必死の形相で発表の時間を待っていた。
 やがて時間となり、神殿の大きな扉が開き、神官が現れる。手には巻紙を持っている。少女たちがざわめく。神官が巻紙を開く。少女たちが静まり返る。一呼吸置いてから神官が大きな声で読み上げる。「今年度大祭の栄えある神饌「竿の少女」は、38番地区、ミユリ家のクリオ殿に決まり申した。お役目しっかり務められよ。」広場は少女たちの歓声に包まれる。やはり最前列にいたクリオは、喜びに顔を輝かし、声も出せず、ただ嬉し涙を流している。友達の少女たちが口々に祝いの言葉をかける。「よかったね!クリオ!」「あなたならきっと選ばれると思っていたわ。」「うらやましいー。」当のクリオは、ただ涙を流しながらうなずくだけであった。こうしてクリオはカン地方で最も有名な少女となった。

 それから祭り当日までの一月、クリオの生活は一変した。クリオは38番地区では最も大きな、といってもトリバイ全体ではごく普通の、食堂の娘で、いつもその亜麻色の美しい髪を三つ編みにして、店の手伝いをしていた。その美しさを鼻にかけない気さくな態度と、明るい受け答えで、お客たちの人気者であった。「竿の少女」に選ばれてその準備のため、以前ほど店に出られなくなり、客たちはおおいに残念がっている。もっとも、客たちのほとんどがクリオに投票したのだが。
 選ばれてからのクリオは、神饌となるために食事の内容も制限され、毎日時間をかけて身を清めなければならなかった。また儀式の立ち振る舞いなどの練習もあった。とくに祭の一週間前からは、自分の足で外を歩く事、地面に触れる事が、許されなくなるので、店を手伝う事は不可能となる。
 そして祭の朝が来た。

 その日の朝、神殿から迎えの輿が来る。クリオは両親に最後の挨拶をする。「竿の少女」の肉親は掟で祭には参加できないのだ。少女に迷いを起こさせないためであろうか。
 「お父様、お母様、今までお世話になりました。先に逝く事になりましたが、お許しください。いつまでもお元気でいてください。」思わずクリオは涙ぐむ。しかし母は「何を言っているの。皆さんに選ばれて神様の許へ行くのよ。娘がお役に立てて、私も嬉しいわ。あなたも泣いてはだめ。さぁ、笑って、立派にお務めを果たしてくるのよ。」父も「そうだとも、このお役目ほど名誉な事はないのだよ。おまえも選ばれて、あんなに喜んでいたじゃないか。」「そうでした。「竿の少女」はずっと憧れでした。それでは憧れの贄となってまいります。これでお別れいたします。」
 その時まだ幼いクリオの妹が近寄ってきて言った。「わたしも、かみさまのところへいきたい。いっしょにつれていって。」クリオは優しく微笑んで「だめよ。あなたはまだまだ小さいわ。これからもずっといい子でいて、お父さんお母さんの言う事をよく聞いて、しっかり勉強しなさい。そうしたらきっと大きくなって贄になれるわ。」「わかった。がんばる。」「いい子ね。」クリオは妹の頭を優しく撫ぜた。
 こうして家族との別れも済み、クリオを乗せた輿は神殿へと向かった。

 道中を人々の歓呼で送られたクリオは、神殿に着くと、まず衣服を全て脱ぎ去り、最後の沐浴を行う。クリオの体は、少女らしい均整のとれた肉付きで、豊満とはいえないが形の良い乳房とよく締まった腰、まろやかな大きすぎない尻が美しい。陰毛も濃すぎず少女らしい涼やかな翳りとなっている。普段三つ編みにしていた髪もほどかれ、白い肌に亜麻色の髪が映える。女神官の助けを受けて身を清めたクリオは、裸身の上から白布を被り、再び輿の上に座る。神官が最後の祝福、クリオを少女から神聖な贄へと変える祝福を与える。
 やがて時が至り、神殿の扉が開かれ、クリオを乗せた輿が広場に進み出る。数十万の群衆の歓呼が迎える。彼らの視線が全てクリオに集中する。神聖な山車の前に着き、輿が下ろされる。クリオが被っていた白布が取り除かれた。クリオはスクッと立ち上がる。クリオの美しい裸身が群衆にさらされる。山車の前面には、金の槍を付けた竿がそそり立っている。今からクリオが串刺しにされる竿だ。しかしもはやクリオには何の迷いも無い。その顔に浮かぶのは誇らしげな微笑だけだ。身じろぎもせず真っ直ぐ竿を見つめる。
 男たちがクリオに近づき、クリオの両腿や腰をつかんで高く持ち上げる。ゆっくりゆっくり竿の先に近づく。突然一人の男がクリオの尻の肉を押し広げ、隠されていた綺麗な肛門に槍先をあてがった。クリオは思わず一瞬ビクリとしたが、すぐに平静を取り戻した。次の瞬間、激痛がクリオの体を突き抜けた。槍先がクリオの体内に侵入したのだ。しかしクリオは信じがたい精神力で苦痛の叫びを押し殺す。その間も、竿はどんどんクリオの体内に突き刺さっていく。自分の内臓がむちゃくちゃになっていくのがクリオにはわかった。やがて鉄錆のような苦い味が喉の奥からこみ上げてきて、何かが喉まで上って来た。槍先がクリオを貫通しようとしているのだ。クリオは静かに天を仰ぎ口を開けた。そこから大量の血と共に槍先が飛び出した。こうしてクリオは聖なる贄として、見事串刺しになったのだ。
 竿に刺さったクリオの腹や手足は、まだビクンビクンと動いている。しかしクリオの意識は急速に失われようとしていた。消えゆく意識の中で、クリオは見事に役目を果たした事に、心から満足していた。やがてクリオの竿を揺らして巨大な山車が動き出した。ギシギシ軋み大きく揺れる山車の動きにあわせて、クリオの手足もブランブランと揺れる。しかしすでにクリオの命の灯は消えていた。クリオは神の許へと旅立ち、永遠の存在となったのだ。
 祭はまだ続く。

(おわり)
飾りの女
NISE作品一覧へ戻る

動画 アダルト動画 ライブチャット