『オパニア公国駐バジェス帝国大使館員ピカイの手記』より 今日は、二千年の歴史を誇り、世界の半ばを支配する大帝国バジェスの、二十年に一度の犠牲大祭の日である。朝から帝都ヨホイアの民は、興奮状態のるつぼにある。儀式が執り行われる円形大競技場は、すでに立錐の余地もない状態だ。今日は一日、帝国の人々があがめる大神アノ・カリスに、次々と生贄が捧げられるのだ。生贄は、帝国各地から集められた、あらゆる階層出身の少女たちだ。彼女たちは、何年も前から生贄に選ばれ、この日に備えていたのだ。 最初に捧げられるのは、奴隷たちだ。この日のために買われ寄進された大勢の奴隷少女たちは、儀式の場を浄めるため、その血を流す。とくに選ばれた四人は、競技場の東西南北四方に立てられた鉄柱に串刺しにされるのだ。やがて時間になると、神官の先導で、四人の後ろ手に縛られた裸の奴隷少女たちと、屈強な男性奴隷たちが入場してくる。さすがに選ばれた奴隷少女たちは、取り乱だすような事はない。覚悟を決めておとなしくしている。まず東の柱で生贄が捧げられる。大神官が神に祈りを捧げ、大祭の始まりを宣言した後、二人の大男の奴隷が、少女の両腿を持って持ち上げる。大きく股を開かせ、鋭く尖った鉄棒の先端を少女の肛門にあて、そして一気に引き下ろした。絶叫があがり、鉄棒が少女の体内に潜り込む。少女の肉や内臓を引き裂く鈍い音がし、やがて獣のような呻き声と共に、血塗れの鉄棒が少女の口から飛び出した。串刺しになり、まだピクピクする少女の体からは、大量の血が柱伝いに流れ落ちる。その血が聖なる儀式の場を浄めるというのだ。さらに儀式は、南、西、北の柱と続く。 柱の儀式が終わると、残った百人近い奴隷たちが、やはり裸で縛られ、儀式の場に引き出される。今度の少女たちの態度は様々だ。諦めたように静かな者もいるし、泣き叫び、暴れもがく者もいる。それらに一切かまわず、再び神官が祈りの言葉を唱える。そしてそれが終わった瞬間、大殺戮が始まった。少女たちを引き立てていた男たちが、一斉に鋭いナイフで少女たちの首を掻き切り始める。会場には断末魔の絶叫が次々響き、大地はたちまち少女たちの血で真っ赤に染まっていく。彼女たちは浄めの務めを果たしたのだ。後には少女たちの亡骸の山が残された。男性奴隷たちがそれを片付けていく。聞く所では、彼女たちの亡骸は、解体され大鍋で煮られ、祭の供物のお下がりとして、帝都の民たちに振舞われるということだ。 次は帝国全土から集められた、一般身分の少女たちの番だ。農家の娘、商家の娘、軍人や官吏の娘もいる。彼女たちの多くは、自ら志願して生贄となる者たちだ。神の御贄として我が身を捧げ、一家一族や、故郷の町や村への神の加護を祈るのである。何らかの事情で、本人の意思とは無関係に選ばれた者もなくはないが、そのような者も含め、すでに何年も前に生贄に決められていた少女たちは、すっかり覚悟を決め、誰一人騒ぎ立てる者はいない。今から会場で神に捧げられるのは、四十人の少女であるが、じつは、二百人以上の人数が生贄として集められている。他の者たちは、すでに前夜の準備の儀式で首をはねられ、首は競技場に隣接する大神殿前の大供物棚に並べられている。百数十の美しい少女の生首が並ぶ様は壮観である。胴体の方は裸で、両腕を広げた姿で、競技場の外壁に掛け並べられている。ヨホイア市民たちの間では、彼女たちの陰毛は厄除けになるとされており、大祭の終わる頃には、掛けられた少女たちの秘所はツルツルになってしまうそうだ。 さて四十人の少女たちが神官たちに伴われて入場してきた。会場の中央、仮設祭壇の両側には、しっかりした柱と横木がそれぞれ二十組ずつ並んでいる。横木には端を輪にした縄が取り付けられている。そう今度の生贄たちは、神の御贄として吊るされるのだ。少女たちはやはり一糸纏わぬ姿で、後ろ手に縛られている。覚悟を決めている彼女たちだが、それでも死に際にもがいて、見苦しくなってはいけないからだ。大神官が神に新しい御贄を捧げる旨を告げ、生贄たちは、あらかじめ決められた自分の横木の所へと散らばっていく。少女たちが配置に着き終わると、神官たちが祈りの言葉を唱え続ける中、まず一人目の少女に神官が近づき、最後の祝福を与える。そして神官助手が少女の足首を縛り、首に縄の輪を掛ける。すると待ち構えていた屈強な男性奴隷たちが、縄のもう一方を持って、力の限り引く。たちまち少女の体は空中高く持ち上がる。喉の絞まるグウッという声と、首の骨の折れる鈍い音がし、少女の体はビクンと大きく震え、股間より命の最後の輝きを滴らせ、そして絶命する。そして二人目の少女。こうして一人一人丁寧に吊るしていくので、全員を吊るし終わるまでには、かなりの時間を要する。昼をかなりすぎた頃、ようやく四十人目の生贄が、見事に吊り上げられ絶命した。彼女たちの美しい裸体は太陽の光を浴びて輝いている。股間を濡らす雫さえ光を受けてキラキラと光っている。みんな前日より水以外の食事を抜いているので見苦しく固形物を垂れ流す者はいなかった。彼女たちの陰毛は、よほど特別なツテでもないと、手に入らないので、とくに霊験あらたかだとされている。生贄たちは、このまま明日の朝まで神に捧げられた後、首だけを神殿前に奉納して、体は、壁の生贄たちと共に、家族や故郷の者たちに下げ渡される。彼女たちの体は、それぞれの親族一同や地域の宴で、神からの頂き物として、その膳を賑わすことになるだろう。 さぁ競技場での生贄奉献も、最大の見せ場を迎えようとしている。貴賓席の玉座には皇帝皇后両陛下もお出ましになる。そう最後に捧げられるのは、両陛下の愛娘皇女マルレラ姫と侍女たちだ。二十年毎の大祭に、必ず皇女を一人捧げるのは、バジェス皇家の聖なる務めである。前回の大祭の後、最初に生まれた姫は、その時すでに生贄となる事を定められ、特別な存在として育てられてきた。姫自身も自分が生贄となる事を常に誇りとし、そのための研鑽を重ねてきた。今姫は気高く美しく成長し、並ぶ者のいない絶世の美少女となった。他国の王や王子で、姫を一目見てその美貌に打たれ、后妃にと望む者も多かったが、もちろんかなわぬ願いであった。今日姫は、帝国の繁栄と全国民の幸福を祈って、生贄となるのだ。八人の侍女たちは、いずれも貴族や良家の娘である。ほとんどの者は、幼い頃から侍女として姫と共に育ち、共に生贄となる事を当然の事として受け入れ、姫と共に神の下に赴く事を無上の喜びとしている。中には姫と共に生贄になるため、最近侍女となった者もいるが、思いは同じである。 やがて姫たちが、大神官自らの先導で入場してきた。姫はさすがに裸ではなく、裸身の上に白い薄衣を一枚纏った姿である。しかしその衣はあくまでも薄く、美しい体の線がはっきりと見えるだけでなく、下腹部の翳りさえ見て取れた。髪は金と宝石でできた見事な髪留めでまとめている。まったく恐れを感じる風はなく、またいたずらに恥らう事もなく、美しい顔を上げ、堂々と、しかし優雅に歩を進めている。従う侍女たちは、姫と同じように髪をまとめた髪留め以外は、薄衣もなく、生まれたままの姿である。しかしその髪留めの上等な細工が、彼女たちが上流階級の出である事を物語っている。彼女たちも、姫の最後の従者として、誇らしげに歩み続ける。やがて一行は会場中央の仮設祭壇の前に着いた。 大神官が神に長い祈りを捧げる。そして最初の侍女が、姫に軽く会釈をしてから、祭壇の前に進み出る。姫は優しく微笑んで見送る。大神官の祝福を受けながら、侍女は祭壇の前に正座をし、前かがみになり、首をスッと差し出す。髪をまとめ上げているので白く美しいうなじがよく見える。斬首役は剣の腕でも知られたハルキ近衛隊長だ。若き隊長は、上流貴族の一員であり、今から生贄となる侍女の一人の兄でもある。その腕を見込んだ皇帝陛下自らの御指名があったそうだ。将軍が、剣を高く掲げ、目にもとまらぬ速さで振り下ろすと、侍女の首は鮮やかに断ち切られた。しかも作法通り皮一枚残していたので、切られた首がいたずらに飛ぶこともなく、自らの重さで膝の前にボトリとちぎれ落ちた。侍女の体は、ビクビクと痙攣し血を噴き出しながら、前のめりに倒れこんだ。まことに見事な腕前というしかない。観客席からは大歓声が上がる。噴き出す血の勢いが収まると、侍女の首は付いた血を拭われ、美しく花を盛った銀の盆に載せられ祭壇に供えられた。胴体も祭壇の脇の柵に掛けられる。もちろんその体が後で彼女の親族に下げ渡される事は言うまでもない。彼らがそれをどうするかも。こうして侍女たちが次々と神に捧げられていく。銀の盆が八つ祭壇に並ぶ頃には、陽も傾き始めていた。 いよいよ最後の生贄、皇女マルレラ姫が神に捧げられる。姫は、顔色一つ変えず、身に纏った薄衣を脱ぎ、その神々しいまでの裸体を顕わにした。姫の体は西日を浴びて美しく輝く。観衆席にどよめきが起こる。普段宮殿の奥深くに隠され、侍女以外には一瞥だに許されない高貴な姫の裸身が、今や民衆の目にさらされているのだ。今、姫はバジェスの民すべてのものとなり、神に捧げられるのだ。姫は、祭壇の前端部にしつらえられた台上に上がり、手足を少し広げて仰向けに横たわった。祭壇に供えられるのは、姫のその美しい首だけではない。心臓と血が、さらに豊饒の祈りをこめて無垢なる子宮が、供えられるのだ。祭壇の奥からは、先に捧げられた侍女たちの首が、心から慕う姫の最後の務めを見守っている。さすがにあれほど興奮していた観客席も今は静まり返っている。神官たちが作法にのっとり姫の手足を押さえたが、それはほとんど無用な事だった。姫は一度大きく深呼吸をすると静かに目を閉じた。大神官が姫に祝福をあたえ、厳かに祈りの言葉を唱え始めた。一人の神官が鋭いナイフを持って姫に近づくと、姫の左の乳房の下あたりを素早く切り裂いた。姫はさすがに一瞬苦痛に顔をゆがめたが、すぐに平穏な表情に戻り、呻き声一つあげなかった。観客席からは思わず感嘆の声が上がる。続いて神官は、姫の胸に空けた小さな切り口から手とナイフを入れ、まだ脈打つ姫の心臓を見事に切り出した。血もほとんど外にはこぼれなかった。姫の体はその瞬間ビクンと動いたが、すぐ静かになった。姫の心臓は金の皿に載せられ祭壇に供えられた。別の神官が、大きな匙で姫の体内にたまった血を汲み出し金の壷に移して、これもやはり祭壇に供える。解体役の神官は、今度は姫の滑らかな下腹部にナイフを入れ、巧みに清らかな子宮と卵巣を取り出した。これは金の椀に入れられて供えられた。一度も男と交わることのなかった姫の子宮と卵巣には、この後の深夜、非公開の秘儀として、若き男性の精子がふりかけられるという話だ。人々の噂ではその精子の提供者は、姫に秘めて想いを寄せていたともいわれる、あのハルキ隊長だろうとの事だが、確かな話ではない。最後に神官は姫の首を一気に切り落とした。ここで初めて大量の血が台上に流れ出た。首は美しく花々で飾られた金の盆に載せられ、祭壇の最上部に供えられた。姫の体もきれいに拭き浄められて祭壇の前に置かれた。玉座の両陛下も、姫が見事にその務めを果たしたのを御覧になって、満足そうにうなづき、喜びの涙を流しておられる。 こうして競技場でのすべての儀式が終わった。しかし帝都の各所では、まだまだ祭の興奮が続いている。もうすっかり日が暮れた。今夜は遅くまで宴が続くであろう。裕福な家では、個人的に奴隷などを買って神に捧げた後、料理して楽しむ者もあるという。貧しい者でも、今から競技場前の広場に行けば、御馳走にありつけるだろう。午前中に捧げられた奴隷少女たちが、いくつもの大鍋で煮込まれて、振舞われているのだ。明日になれば、多くの生贄が下げ渡され、また新しい宴が開かれるであろう。祭はまだまだ続くのだ。 (おわり) |