国立美少女剥製館 第四展示室

 それは一夜の夢か。
誰もいない深夜の第四展示室に、少女たちのささやきが、聞こえる。


  生首少女
 私の体はどこですか。知らない間にどこかへ行ってしまいました。あのすらりと伸びた手足はどこですか。あのかわいい胸はどこですか。あのすべすべしたお腹はどこですか。少女らしいまだ小さな腰とお尻はどこですか。知らない間にどこかへ行ってしまいました。

  胸像少女
 私の下半身も行方不明です。皆さん捜してください。あの秘めやかな茂みの奥には、まだ何者をも受け入れた事のない子宮が、いつか愛する人の種を宿す事を夢見て、静かに息づいていたのです。皆さん、私の下半身を捜してください。

  トルソ少女
 私の腕が、あの人を強く抱きしめる事は、もうありません。私の足が、あの人と共に歩む事は、もうありません。今、私は、あの人の思い出を、胸の奥深くに抱きながら、ずっと永遠にたたずんでいるのです。

  解剖少女
 どう?私の内臓、綺麗でしょう。汚れ一つない肺臓。今にも脈打ちそうな心臓。鮮やかな肝臓。そしてピンク色の胃や腸。病気一つした事のない健康な内臓よ。その美しさをみんなに見てもらうために、私は解剖標本になったの。剥製館の先生たちが、特別念入りに私を解剖して、最高の技術で剥製にしてくれたの。私はとくに頼んで、生きたまま解剖してもらったの。自分のお腹が切り開かれて、内臓が姿を現した時、とっても興奮したわ。先生も、こんな綺麗な内臓は初めてだと、言ってくれたわ。さぁ、みんな、私の内臓を見て。綺麗でしょう。

  両断少女
 右の私、あなた綺麗だわ。左の私、あなたも綺麗だわ。右の私、あなたの脳の断面、綺麗だわ。左の私、あなたの舌の断面、綺麗だわ。右の私、あなたの腸の断面、綺麗だわ。左の私、あなたの膣の断面、綺麗だわ。

  輪切り少女
 そこの真っ二つ!なにやってんのよ!右の左のって、自分で自分を誉めあって、あんた、ナルシスト?もっともこんな所に展示されようなんて思うやつ、私も含めて、みんなナルシストか。でも二つになってんのが、偉いんなら、私なんか、48パーツよ。どう、あんたなんかに負けないわよ。

  妊娠少女
 私のお腹の、かわいい赤ちゃん。なによ。少女が妊娠したらいけないって言うの。ほっといて。私はあの人の赤ちゃんが欲しかったのよ。色々あって、あなたを産んであげられなかったけれど、お母さんのお腹に、窓を開けてもらったから、外の様子がよく見えるでしょう。これからも、ずっと一緒よ。私の赤ちゃん。

  切腹少女
 生まれたままの姿で、私は切腹をする。それが私の生を最も確かなものにする方法。つま先立ちのまま腰を下ろす。目を閉じ一度深呼吸をする。目を開き短刀を手にする。もはや何の迷いもない。そして短刀を左脇腹に突き立てる。鋭い刃が、柔らかな肌にぶすりと刺さり、肉を切り裂く。そのまま一気に、短刀を左から右へ一文字に引き絞る。私の引き締まった、それでいて少女らしいまろみを帯びた腹は、たちまち弾けて、熱い血潮と、まだ湯気の立つはらわたが、飛び出す。私の命が爆発する瞬間、私の生が最も輝くその瞬間を、今夜も私は繰り返す。

  首吊り少女
 切腹すごいわね。でもあたしも目立ってるでしょ。こうやって天井からぶら下がって、みんなを見下ろすなんて、とてもいい気分。カ・イ・カ・ン。あたしは覚えてる。あの時、キュッと首を絞めたロープの感触、ゴキンと首の骨の折れる音、そして股間を濡らした最後のおしっこ、もうエクスタシー!!あたしは、今もその余韻を楽しみながら、ぶら下がり続けている。

  ギロチン少女
 エクスタシーでしたら、わたくしも負けてはおりませんわ。わたくしは高貴な家柄と美貌にふさわしく、フランスの貴族のように、断頭台で花の命を散らす事を望みましたの。あの王妃のように、大勢の民衆の見守る中で、美しい首をはねられるなんて、これ以上のエクスタシーが、ありまして?みんな、わたくしの素晴らしい最後を、よく見ておくのですよ。一糸纏わぬ姿で、断頭台に据えられたわたくしの首に、ギロチンの重い刃が落とされましたの。転がったわたくしの首は、自分の体を眺めておりました。首を失ったわたくしの体は、失禁しながら、まだビクンビクンと痙攣をしておりました。わたくしは、もう切り離されたはずの秘所が、ジュンとなるのを感じましたわ。これこそが、本当のエクスタシーというものでは、ありませんかしら。

  刺青少女
 私のパパは、世界一の彫り物師です。そして私はパパの最高傑作です。私の体は、パパにとって、最高のキャンバスでした。何年もかかって私の体は、美しい花や小鳥たちで埋め尽くされました。そしてとうとう、もう彫るところがなくなってしまいました。そこでこの素晴らしい作品を永久に残すため、わたしの皮を剥製館に展示してもらう事になりました。剥製館のスタッフは、とっても貴重な美術品を扱うように、優しく丁寧に私の皮を剥いでくれました。そしてわたしの首も剥製にして、皮の前に飾ってくれました。おかげでいつでも剥製館にやって来たパパと会う事ができます。この前、パパに聞いた話では、妹が大きくなったので、最近はその体に作品を彫っているとの事です。いつか妹の体の作品も完成して、姉妹仲良く並んで展示される日が来たらいいなと、考えています。

  轢死少女
 今でも列車の轟音を覚えています。目に飛び込んできた大きな列車の姿を覚えています。焼けたブレーキのオイルの臭いを覚えています。今でも車輪が私の体の上を通った時の感触を覚えています。肉が裂け、骨が砕ける音を覚えています。飛び散る血と内臓の色を覚えています。たちまち命が消えていくその瞬間を覚えています。そして今、私はその時のままの姿でここにいます。あの時の恐怖を今も感じながら。

  刺殺少女
 初めて会ったヤツだった。ひどく暗いヤツだった。初対面でいきなりアタイとつきあいたいなんて言いやがるから、アタイもあきれて、おもわず大笑いしちまった。そして言ってやった。アンタ、バカじゃないの。アンタみたいなのが、アタイとつきあおうなんて、ナニ考えてんだよ。鏡をよく見て出直しなってね。そしたらいきなりこれだ。心臓をナイフでブスリ。一巻の終りってわけ。油断しちまったな。なんかツマンナイ人生だったな。そして今アタイはここに立っている。胸にナイフを突き刺したままで。

  焼死少女
 彼が私に火をつけました。たっぷりとガソリンをかけて。私が別れようかと言ったのは、あの人が最近冷たかったから。もう一度真剣に私の事を考えて欲しかったから。でも彼は怒り狂って、誰か別の男ができたのかと言いました。そうじゃないと言っても、信じてくれません。そしてあの日、もう一度ゆっくり話をしようと、彼に呼び出されて、放課後の体育館裏に行ったら、彼が私に火をつけました。たっぷりとガソリンをかけて。体は真っ黒こげになったけど、顔だけは焼けなくてよかった。この剥製館に入れたから。先日、やっと出所した彼が、会いに来てくれました。彼は私の姿を見て、泣いてわびてくれました。


 夜は更けていく。すべては幻か。
明日になれば、また多くの観客が美少女たちの姿を見に、剥製館にやって来るだろう。
少女たちは、何事もなかったように、立ち続けるだろう。
永遠に。

(おわり)
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